「画数の多い漢字」と聞いて、あなたは何画くらいを思い浮かべますか。
ふだん私たちが使う漢字でいちばん画数が多いのは「鬱(うつ)」の29画です。ところが世の中には、龍を四つ重ねた64画の字や、雲と龍を組み合わせた84画の字まで存在します。書くだけでひと苦労、読めたら自慢できる漢字ばかりです。
この記事では、画数の多い漢字を32字、読み方・意味・成り立ちつきで紹介します。常用漢字の最難関から、世界一・日本一とも言われる超巨大漢字、さらに「1024画の漢字」のような俗説の真偽まで、画数の多い漢字の世界をまるごと解説します。

目次
画数の多い漢字とは?まずは「数え方」の基本から

画数とは、漢字を書くときの線(点も含む)の本数のことです。一筆で書ける線を1画と数え、その合計が「総画数」になります。
日常で使う漢字の目安になるのが、内閣告示の「常用漢字表」に載っている2136字です。このうち最も画数が多いのが「鬱」の29画で、これが私たちの生活圏でいちばん複雑な漢字といえます。
一方、小学校の6年間で習う漢字(教育漢字)は1026字あります。その中で最も画数が多いのは「競・議・護」の20画です。20画でも子どもには十分な大物ですが、世界にはその4倍を超える字があるのですから驚きます。
常用漢字で画数が多い漢字ランキング【最難関は鬱】

まずは私たちが実際に目にする「常用漢字」の中で、画数が多い漢字を上位から見ていきましょう。読めても書けない、という字がずらりと並びます。
鬱(29画)|常用漢字でいちばん画数が多い
「憂鬱(ゆううつ)」「鬱蒼(うっそう)」でおなじみの「鬱」は、常用漢字2136字の中で堂々の最多29画です。林・缶・冖・鬯・彡といったパーツが密集しており、もとは「木が生い茂って気がふさぐ」ようすを表したとされます。
覚え方として「リンカン(林缶)ワー(冖)、チューブ(鬯)に三本(彡)」などの語呂が知られています。読めても手書きできる人は少ない、まさに常用漢字の最高峰です。
鑑(23画)|常用2位の大物
「鑑定(かんてい)」「印鑑(いんかん)」の「鑑」は23画で、常用漢字では鬱に次ぐ画数です。金へんに、見比べて判断するという意味が込められています。手本・基準という意味から「鑑(かがみ)」とも読みます。
22画の漢字|驚・襲・籠
22画には「驚(おどろく)」「襲(おそう)」「籠(かご・こもる)」が並びます。どれも日常でよく使う言葉なのに、いざ書くとなると画数の多さに気づかされる漢字です。「籠」は2010年の常用漢字表の改定で新たに加わった字でもあります。
21画の漢字|魔・艦・躍・露・鶴
21画には「魔(ま)」「艦(かん)」「躍(おどる)」「露(つゆ)」「鶴(つる)」などがあります。「魔法」「軍艦」「活躍」と、馴染み深い言葉ばかりですが、画数で並べると意外な強敵ぞろいだと分かります。
20画の漢字|競・議・護・響・鐘
20画には「競・議・護」のほか「響(ひびく)」「鐘(かね)」などがあります。先ほど触れたとおり、このうち「競・議・護」は小学校で習う漢字の中で最多画数です。小学生にとっては、ここがひとつの山場になります。

同じ字を三つ重ねた、画数が多い漢字【三つ重ねの世界】
ここからは常用漢字の外、いわゆる「環境依存文字」の世界です。スマホやパソコンで表示・変換できないこともある、画数の多い漢字を紹介します。
まず面白いのが、同じ漢字を三つ重ねた字です。「森(木が三つ)」「品(口が三つ)」のように、日本語には同じパーツを三つ重ねる字がたくさんあり、その中には画数が一気にふくらむものがあります。
鑫(24画)|金を三つ重ねて「富み栄える」
「鑫」は金を三つ重ねた24画の字で、読みは「キン」。お金が集まって富み栄えるという縁起のよい意味を持ち、中国では人名や店名・商号に好んで使われます。8画の「金」が三つで、ちょうど24画です。
灥(27画)|泉を三つ重ねた「水源」
「灥」は泉を三つ重ねた27画の字で、読みは「セン」。水がこんこんと湧き出る水源を表します。9画の「泉」が三つで27画と、足し算で画数が分かるのも三つ重ね漢字の楽しさです。
驫(30画)|馬を三つ重ねて「馬が群れ走る」
「驫」は馬を三つ重ねた30画の字で、読みは「ヒョウ」。多くの馬がいっせいに走るさまを表します。10画の「馬」が三つで30画。地名などにも残る、迫力のある一字です。
麤(33画)|鹿を三つ重ねて「あらい」
「麤」は鹿を三つ重ねた33画の字で、読みは「ソ」、訓読みで「あら(い)」。きめが粗い、おおざっぱという意味で「麤笨(そほん)」のように使われます。11画の「鹿」が三つで33画です。
鱻(33画)|魚を三つ重ねて「新鮮」
「鱻」は魚を三つ重ねた33画の字で、読みは「セン」。とれたての魚、つまり新鮮であることを表します。「鮮」の元になった字ともいわれ、11画の「魚」が三つでこちらも33画です。
環境依存で画数が多い漢字【超難読・上級編】

三つ重ね以外にも、画数が多くて読めない難読漢字はたくさんあります。読み方を知っているだけで一目置かれる、上級者向けの字を集めました。
爨(29画)|かまどでご飯を炊く
「爨」は29画で、読みは「サン」、訓読みで「かし(ぐ)」「かまど」。かまどで火を起こして煮炊きすることを表します。アウトドアでおなじみの「飯盒炊爨(はんごうすいさん)」のあの字、といえばピンとくる人も多いはずです。
驪(29画)|真っ黒な馬
「驪」は29画で、読みは「リ」「レイ」、訓読みで「くろうま」。毛が真っ黒な馬を指します。馬へんに「麗(うるわしい)」を組み合わせた、見るからに格調高い一字です。
顰(24画)|「顰蹙(ひんしゅく)」の顰
「顰」は24画で、読みは「ヒン」、訓読みで「しか(める)」。眉をひそめる、顔をしかめるという意味です。「顰蹙を買う」の「顰」がこの字で、読めても書ける人はぐっと減ります。
鸞(30画)|伝説の霊鳥
「鸞」は30画で、読みは「ラン」。中国の伝説に登場する、鳳凰に似た霊鳥を指します。浄土真宗の宗祖・親鸞(しんらん)の名にも使われている字で、画数の多さのわりに目にする機会があります。
齉(36画)|鼻がつまる
「齉」は36画で、読みは「ノウ」「ドウ」「ナン」。鼻がつまって声がこもることを表す字です。部首は「鼻」で、鼻(14画)にさらに22画分が加わるという、見た目どおりの大ボリュームの一字です。

龍や雲を重ねた、画数が多い漢字【ここから桁違い】

三つ重ねの世界をさらに突き抜けると、龍や雲を重ねた桁違いの巨大漢字が現れます。ここからは画数が40を超える、いわば最終ステージです。
龘(48画)と䨺(36画)|龍を三つ、雲を三つ
「龘」は龍を三つ重ねた48画の字で、読みは「トウ」「タツ」。龍が天をかけのぼっていく勢いを表します。16画の「龍」が三つで、ちょうど48画です。
これと対になるのが、雲を三つ重ねた「䨺」。読みは「タイ」で、雲が幾重にも重なるようすを表します。12画の「雲」が三つで36画。じつはこの二字が、のちほど登場する日本一の漢字のパーツになります。
𪚥(64画)|龍を四つ重ねた「おしゃべり」
三つで止まらないのが漢字の世界です。「𪚥」は龍を四つも重ねた64画の字で、読みは「テツ」「テチ」。意味は「言葉が多い」「おしゃべり」で、龍が群れて口々に騒ぐイメージから来たとされます。16画の「龍」が四つで64画です。
明治の学者・小野梓(おののあずさ)は幼名を「𪚥一(てついち)」といったと伝えられ、この字が実際に名前として使われた記録も残っています。
世界一・日本一画数が多い漢字は?
いよいよ、画数の多い漢字の頂点です。ここでは「日本一」「世界一」と呼ばれる字と、その真偽がはっきりしない俗説までまとめて見ていきます。
たいと(84画)|日本一画数が多いといわれる漢字
日本一画数が多い漢字としてよく挙げられるのが、84画の「たいと(だいと・おとど)」です。先ほどの「䨺(雲三つ・36画)」と「龘(龍三つ・48画)」を上下に組み合わせた字で、36+48でちょうど84画になります。
かつて苗字に使われたという説がありますが、実在の名字としては確認が難しく、辞書の中だけに残る「幽霊文字」ではないかとも指摘されています。電子辞書や一部の漢和辞典には収録されているものの、多くの環境では表示できません。
ビャン(57画)|ビャンビャン麺の漢字
中国・西安の名物麺「ビャンビャン麺」に使われる「ビャン」も、画数の多い漢字として有名です。一般的な字形で57画、二点しんにょうで書くと58画になります。穴・言・幺・馬・長・月・刂・心・辶など、多くのパーツが一字に詰め込まれた字です。
中国の漢字辞典にも載っておらず、「ビャンビャン麺」以外にはほぼ使われません。近年はスマホでも表示できる環境が増え、SNSでもたびたび話題になります。
おおいちざ(79画)・かがみ(76画)|創作された巨大漢字
「おおいちざ」は79画、「かがみ」は76画とされる、いずれも後世に創作された字です。「かがみ」は詩人・宮沢賢治が作品の中で用いた造字として知られています。正式に流通した漢字ではありませんが、画数の多い漢字の話題ではよく顔を出します。
「172画」「1024画」の漢字は本当にある?
ネット上では「世界一画数が多いのは172画」「1024画の漢字がある」といった話も見かけます。しかしこれらは、龍や雲をひたすら重ねていけば理論上いくらでも画数を増やせる、という言葉遊びに近いものです。
辞書にきちんと収録され、読み・意味がはっきりしている字としては、84画の「たいと」あたりが現実的な最上位と考えてよいでしょう。数字の大きさだけが独り歩きしている俗説には、少し注意が必要です。
画数が少ない漢字も面白い【番外編】
画数の多い漢字を見たあとは、逆に画数が少ない漢字も気になってきます。いちばん少ないのは1画の「一」と「乙」です。
2画になると「二・十・人・力・了・刀」など一気に増えます。「乙(おつ)」が1画というのは意外に思われがちで、画数クイズの定番ネタにもなっています。多い・少ないの両極を知っておくと、漢字の見方がぐっと広がります。
画数が多い漢字に挑戦!読めたらすごいクイズ
ここまで紹介した画数の多い漢字から、腕試しのクイズを出します。読み方を思い出せるか、挑戦してみてください。
第1問:「爨」は何と読む?(ヒント:キャンプでおなじみ)
第2問:龍を四つ重ねた「𪚥」の読みは?(ヒント:おしゃべり)
第3問:常用漢字でいちばん画数が多い字は?

画数を正しく数える・覚えるコツ
最後に、画数を正しく数えるためのコツを紹介します。難しい字ほど、パーツに分解して考えるのが近道です。
たとえば「鬱」なら、林・缶・冖・鬯・彡と分けて数えれば29画にたどり着けます。三つ重ねの字は「もとの字の画数×3」で計算できるので、麤なら鹿11画×3で33画、と一瞬で求められます。
覚えるときも同じで、まるごと暗記するより「何と何の組み合わせか」を意識すると定着します。たいと(84画)も「雲三つ+龍三つ」と分かれば、ぐっと身近に感じられるはずです。
まとめ|画数の多い漢字は奥が深い
画数の多い漢字を32字、読み方と意味つきで紹介してきました。
常用漢字でいちばん画数が多いのは「鬱(29画)」、小学校で習う中では「競・議・護(20画)」が最多でした。
環境依存の世界に入ると、鹿三つの「麤(33画)」や龍四つの「𪚥(64画)」、そして日本一とされる「たいと(84画)」まで、画数はどこまでも増えていきます。
一方で「1024画の漢字」のような俗説は、龍や雲を重ねていけば理論上いくらでも作れるという言葉遊びに近いもの、という冷静な視点も大切でした。画数の多い漢字は、ただ難しいだけでなく、成り立ちを知ると一気に面白くなります。読めたらちょっと自慢できる字ばかりなので、ぜひ気に入った一字を覚えてみてください。

