寿司屋で耳にする「むらさき」「あがり」、テレビの現場で飛び交う「巻く」「押す」、刑事ドラマでおなじみの「ホシ」「マルガイ」。こうした、その業界の人どうしだけで通じる言葉を業界用語や符牒(ふちょう)、隠語(いんご)と呼びます。
知らないと暗号のようですが、一つひとつの意味と由来を知ると「なるほど、だからこう言うのか」と一気に面白くなります。この記事では、寿司・飲食・テレビ・警察・医療・出版・小売・タクシー・金融やITまで、9つの業界の符牒・隠語を通し番号で86個、意味と由来つきで一覧にしました。プロの世界をのぞき見る気分で読んでみてください。

目次
業界用語・符牒・隠語とは?意味と違いを解説
まずは言葉の整理からです。似た言葉ですが、ニュアンスが少しずつ違います。
業界用語とは、特定の職業や業界の中でよく使われる専門的な言い回しのことです。テレビ業界の「OA(オンエア)」のように、外の人にも意味が想像できるものも含みます。
符牒(符丁)とは、もともと商品の値段や数量を仲間内だけで分かるように決めた記号や言葉のことです。お客さんに値段や手の内を悟られないために生まれた、いわば「現場の暗号」です。
隠語は、部外者に内容を知られないように使う言葉で、符牒よりも「隠す」目的が強いのが特徴です。警察や医療の現場で、当事者に配慮して使われるものが代表例です。
寿司・鮨屋の符牒・隠語一覧【シャリ・むらさき・あがり】

符牒の宝庫といえば、やはり寿司屋です。お茶を「あがり」、醤油を「むらさき」と呼ぶように、お客さんの前でも会計や仕込みの話ができるよう工夫された言葉がそろっています。まずはネタや道具にまつわる符牒から見ていきましょう。
1. シャリ(酢飯):寿司のご飯のことです。仏様の遺骨を意味する仏教語「仏舎利(ぶっしゃり)」が語源といわれ、白くて細かい米粒を遺骨に見立てたとされています。
2. ガリ(生姜の甘酢漬け):付け合わせの生姜です。噛んだときの「ガリガリ」という歯ごたえと音から名付けられました。
3. むらさき(醤油):醤油を指します。醤油の濃い赤褐色を、高貴な色とされた紫になぞらえた呼び方だといわれています。
4. あがり(お茶):食後に出されるお茶のことです。もとは花柳界(遊郭)の言葉で、最後に出すお茶を「上がり花」と呼んだ名残とされています。一杯目から「あがり」と言うのは本来は通ぶりすぎ、という説もあります。
5. なみだ(わさび):わさびのことです。効かせすぎるとツーンと涙が出ることから、この名が付きました。「さび抜き」の「さび」も同じわさびを指します。
6. ギョク(玉子焼き):寿司の玉子焼きです。「玉」を音読みした「ぎょく」から来ています。将棋の駒と同じ読み方なのが覚えやすいですね。
7. ヅケ(漬け):マグロの赤身を醤油だれに漬け込んだものです。冷蔵庫がなかった時代に、保存をかねて漬けたことに由来します。
8. カッパ(きゅうり巻き):きゅうりの細巻きです。きゅうりが伝説上の生き物「河童(かっぱ)」の好物とされたことから名付けられました。
9. 鉄火(鉄火巻き):マグロの赤身を芯にした海苔巻きです。語源は諸説あり、博打場を意味する「鉄火場」で手軽につまめるよう作られたから、という説がよく知られています。
10. 光りもの(ひかりもの):コハダやアジ、サバなど、皮が銀色に光る魚の総称です。見た目の通りの呼び名で、職人の技が出るネタとされています。
11. おあいそ(お会計):勘定のことです。本来は店側が「愛想がなくて申し訳ありません」とへりくだって使う言葉でした。お客さんが「おあいそして」と使うのは、実は店の言葉を借りた言い方なのです。
12. ヤマ(売り切れ・笹):ネタが切れて「もう無い」状態を指します。山には何もない、という連想からです。寿司の仕切りに使う笹の葉を指すこともあります。
寿司屋の数の符牒(独特な数の数え方)
寿司屋や市場では、値段や個数をお客さんに悟られないよう、数字を独特の言葉で言い換えます。代表的なものを挙げます。
13. ピン(1):数字の1です。ポルトガル語で「点」を意味する「pinta(ピンタ)」が語源とされ、サイコロの一の目から広まりました。「ピンからキリまで」のピンも同じです。
14. ノの字(2):数字の2を指す言い方です。形や書き順からの連想といわれます。
15. ゲタ(3):数字の3です。下駄(げた)の歯の並びなどになぞらえたとされています。
16. ダリ(4):数字の4を表します。
17. メの字(5):数字の5を指します。これらの数の符牒は、店や地域、業種によって呼び方がかなり違うのが特徴です。

飲食店・居酒屋の業界用語【現場スタッフの隠語】

寿司屋以外の飲食店にも、ホールや厨房のスタッフが使う独特の言葉があります。忙しい現場でパッと伝わるよう短くした言葉が中心です。
18. バッシング:食べ終わった食器を下げることです。英語の「bussing」が由来で、攻撃の意味ではありません。「3番テーブル、バッシングお願い」のように使います。
19. アイドルタイム:ランチとディナーの間など、お客さんが少なく手の空く時間帯のことです。「idle(遊んでいる・空いている)」から来ています。
20. ウォークイン:予約なしで来店するお客さんのことです。歩いて(walk)入って(in)くる、そのままの意味です。
21. ノーショー:予約したのに連絡なく来ない無断キャンセルのことです。「no show(現れない)」が語源で、飲食店の深刻な悩みとして近年よく使われます。
22. エイティーシックス(86):「品切れ」「提供中止」を意味する、主にアメリカの飲食業界の隠語です。語源は諸説あり、はっきりしていません。注文を通すときに「その料理は86」と伝えます。
23. シルバー:ナイフ・フォーク・スプーンなどのカトラリーの総称です。銀食器(silverware)に由来し、「シルバー補充して」のように使います。
24. ハンディ:注文を入力する携帯端末のことです。手のひらサイズ(handy)で持ち運べることから、この名で呼ばれます。
25. ハナキン:「花の金曜日」の略で、週末前で客足が伸びる金曜日のことです。バブル期に流行した言葉が、今も飲食やサービス業に残っています。
26. まかない:従業員が食べる食事のことです。お店の材料で作る「賄い飯」が由来で、まかないのおいしさは店選びの隠れた人気ポイントでもあります。
テレビ・放送業界の業界用語【巻く・押す・てっぺん】

テレビや映像の制作現場は、時間との戦いです。そのため時間に関する用語がとても発達しています。ドラマやバラエティで聞いたことのある言葉も多いはずです。
27. 巻く(まく):進行を予定より早めることです。「巻きでお願いします」と言われたら「急いで」という合図。フィルムを巻き取る動作が語源といわれます。
28. 押す(おす):逆に、予定より進行が遅れることです。「10分押してます」は10分遅れの意味で、現場で最も飛び交う言葉の一つです。
29. てっぺん:深夜0時のことです。時計の針が一番上(てっぺん)を指すことから来ています。「収録がてっぺん回った」で「日付が変わった」という意味になります。
30. バミる:出演者の立ち位置やセットの場所を、床にテープで印すことです。「場(バ)を見る」が縮まった言葉といわれます。
31. 香盤(こうばん):出演者や進行の予定を時系列でまとめた表のことです。「香盤表」とも呼び、撮影の設計図にあたります。
32. ケツカッチン:そのあとの予定が詰まっていて、終了時刻を絶対に動かせない状況です。「ケツ(最後)」が「カッチン」と固定されているイメージから来ています。
33. アゴアシ:食事代(アゴ)と交通費(アシ)のことです。「アゴアシ付き」なら飲食と移動の費用が出る、という意味。宿泊も付くと「アゴアシマクラ(枕=宿)」になります。
34. 板付き(いたつき):番組や場面の始まりの時点で、出演者がすでに舞台やセットにいる状態のことです。舞台の床板に由来する言葉です。
35. 見切れ(みきれ):本来映ってはいけないもの(スタッフや機材など)が画面に映り込んでしまうことです。「見切れてる」は注意のサインです。
36. 尺(しゃく):映像や番組の時間の長さのことです。「尺が足りない」で時間が短い、「尺を稼ぐ」で時間を埋める、という意味になります。
37. ピーカン:雲ひとつない快晴のことです。撮影では光が強すぎて困る場合もあり、必ずしも良い意味だけではありません。
38. ロケハン:「ロケーションハンティング」の略で、撮影に使う場所を事前に下見することです。良い画(え)が撮れるかを確認する大事な準備です。
39. NG(エヌジー):「No Good」の略で、撮り直しが必要な失敗のことです。一般にも広まりましたが、もとは撮影現場の用語です。
40. OA(オーエー):「On Air」の略で、放送・オンエアのことです。「OA日」は放送日を指します。

警察・刑事が使う隠語【ホシ・マルガイ・サンズイ】

刑事ドラマでおなじみの警察用語。これらは捜査内容を周囲に悟られないための隠語であり、由来を知ると意味がすっと頭に入ります。
41. ホシ:被疑者・犯人のことです。「目星(めぼし)をつける」の「星」が語源で、捜査の見当をつける対象を指します。
42. マルガイ:被害者のことです。「被害者」の「害」に丸を付けた「マル害」が縮まった言い方です。
43. ガイシャ:こちらも被害者を指す言葉です。「害者(がいしゃ)」と読み、マルガイとほぼ同じ意味で使われます。
44. ホンボシ(本星):真犯人のことです。複数の容疑者の中で「本物のホシ」という意味で、最重要人物を指します。
45. サンズイ:汚職事件のことです。「汚職」の「汚」の偏が、さんずい(氵)であることから来ています。漢字の一部を符牒にした、面白い例です。
46. デカ:刑事のことです。明治時代の私服刑事が着ていた「角袖(かくそで)」を逆さ読みした「そでかく」が縮まり「デカ」になったといわれます。
47. 地取り(じどり):事件現場の周辺で行う聞き込み捜査のことです。土地をくまなく当たることからこの名があります。
48. 鑑取り(かんどり):被害者の交友関係や人間関係をたどる捜査のことです。「鑑(かがみ)」のように人間関係を映し出すことから来ているとされます。
49. ナシ割り(なしわり):遺留品などの「品(ナシ)」がどこで手に入れられたかを割り出す捜査のことです。証拠品の出どころをたどります。
50. 行確(こうかく):「行動確認」の略で、対象者を尾行・監視してその動きを把握することです。張り込みもこの一部です。
51. パクる:逮捕することです。捕まえる意味の俗語として一般にも広まりましたが、現場でも使われます。語源は「ぱくっとくわえる」動作からといわれます。
医療・看護の業界用語【ステる・ムンテラ】
病院で使われる業界用語は、ドイツ語由来のものが多いのが特徴です。これは、明治以降の日本の医学がドイツ医学を手本にした名残です。患者さんやご家族に配慮して使われる隠語でもあります。
52. ステる:患者さんが亡くなることを指します。ドイツ語で「死ぬ」を意味する「sterben(ステルベン)」が語源です。当事者の前で直接的な表現を避けるための言葉です。
53. ムンテラ:医師が患者さんや家族に病状や治療方針を説明することです。ドイツ語の「Mund(口)」と「Therapie(療法)」を合わせた和製ドイツ語といわれます。
54. アポる:脳卒中などの発作を起こすことです。脳卒中を意味する英語「apoplexy(アポプレキシー)」から来ています。
55. ハルン:尿のことです。ドイツ語の「Harn(ハルン)」が由来で、尿を溜める袋を「ハルンバッグ」と呼びます。
56. エッセン:食事のことです。ドイツ語の「essen(食べる)」から来ています。「エッセン介助」で食事の介助を指します。
57. ルンゲ:肺のことです。ドイツ語の「Lunge(肺)」が語源です。このように、ドイツ語を知ると医療用語の由来がよく分かります。

出版・印刷業界の符牒【ゲラ・責了・ノンブル】
本や雑誌を作る出版・印刷の現場にも、独特の符牒があります。校正や印刷の工程で使われる、職人気質の言葉たちです。
58. ゲラ:校正用に試しに刷った印刷物のことです。活版印刷の時代に活字を組んで並べた箱を「galley(ギャレー)」と呼んだことに由来します。
59. 責了(せきりょう):「責任校了」の略で、わずかな修正を残しつつ、その直しは印刷所などに任せて校正を終える状態のことです。締め切り間際によく使われます。
60. 初校・再校(しょこう・さいこう):校正の段階を表す言葉です。最初の校正刷りが「初校」、その直しを反映した二回目が「再校」です。
61. トルツメ:文字や記号を「削除して、空いた分を詰める」という校正の指示です。「トル(削除)」と「ツメ(詰める)」を合わせた言葉です。
62. ノンブル:本のページ番号のことです。数を意味するフランス語「nombre(ノンブル)」が語源で、出版業界では今もこの呼び方が使われます。
63. 下版(げはん):校正が終わり、印刷の工程へデータを送り出すことです。ここまで来ると、もう内容の修正はできません。
アパレル・小売業界の業界用語【売れ筋・客注】
洋服店やスーパー、コンビニなどの小売の現場でも、在庫や接客にまつわる用語が日々飛び交っています。
64. 売れ筋(うれすじ):よく売れている人気商品のことです。お店が仕入れに力を入れる、まさに「稼ぎ頭」を指します。
65. 死に筋(しにすじ):売れ筋の反対で、ほとんど売れない商品のことです。棚から外す候補になります。少しドキッとする言葉ですね。
66. 客注(きゃくちゅう):「客注文」の略で、お客さんから個別に頼まれた取り寄せ注文のことです。在庫品とは別に管理します。
67. 前出し(まえだし):棚の奥にある商品を手前にそろえて、見栄えと取りやすさを良くする作業のことです。「フェイスアップ」とも呼びます。
68. 棚卸し(たなおろし):実際の在庫数を一つずつ数えて確認する作業のことです。帳簿上の数と現物を突き合わせる、小売の一大行事です。
タクシー・運送業界の隠語【流し・大番】
街を走るタクシーの世界にも、長年受け継がれてきた符牒があります。効率よくお客さんを乗せるための、現場の知恵が詰まった言葉です。
69. 流し(ながし):駅などで待つのではなく、街を走りながらお客さんを探す営業スタイルのことです。ドライバーの腕が問われる方法です。
70. つけ待ち:駅前やホテルなど、決まった場所でお客さんを待つ営業スタイルのことです。流しの反対にあたります。
71. 大番(おおばん):長距離など、売上の大きい上客のことです。出会えるとその日の成績が一気に伸びる、うれしいお客さんです。
72. 実車(じっしゃ):お客さんを乗せて走っている状態のことです。メーターが動いている「営業中」を指します。
73. 回送(かいそう):お客さんを乗せず、営業していない状態のことです。表示が「回送」のタクシーは、基本的に乗ることができません。
金融・IT・ビジネスの業界用語【リスケ・アサイン】

最後は、オフィスで働く人なら一度は耳にする、ビジネス・IT・金融系のカタカナ業界用語です。会議やメールで飛び交うので、意味を押さえておくと安心です。
74. リスケ:「リスケジュール(reschedule)」の略で、予定や計画を組み直すことです。「打ち合わせをリスケして」で日程変更を意味します。
75. アサイン:英語「assign」から、人を仕事や役割に割り当てることです。「このプロジェクトにアサインされた」のように使います。
76. フィックス:「fix」から、内容や日程を最終確定させることです。「企画はフィックスしました」で「もう決定」という意味になります。
77. ペンディング:「pending」から、結論を出さずに保留・先送りにすることです。「その件はいったんペンディングで」と使います。
78. バッファ:「buffer(緩衝)」から、予定や見積もりに持たせておく余裕のことです。「バッファを取っておく」で「余裕を見ておく」という意味です。
79. エビデンス:「evidence」から、主張を裏づける証拠や根拠のことです。ビジネスでは記録やデータ、医療では科学的根拠を指します。
80. なる早(なるはや):「なるべく早く」の略です。期限を明確にせずに急ぎを伝える、便利だけれど少し曖昧な言葉です。
81. テレコ:物事が入れ違い・あべこべになっていることです。歌舞伎で二つの筋を交互に見せる演出が語源といわれ、関西を中心に広まりました。
82. ローンチ:「launch」から、新しいサービスや製品を世に出して開始することです。IT業界で「来月ローンチ予定」のように使います。
83. リソース:「resource」から、仕事に使える人員・時間・お金などの資源のことです。「リソースが足りない」は「手が回らない」という意味です。
84. コミット:「commit」から、責任を持って結果に関わる・約束することです。「成果にコミットする」のように使われます。
85. ベンダー:「vendor」から、製品やサービスを販売・提供する業者のことです。特にIT業界で、システムを納入する会社を指します。
86. ステークホルダー:「stakeholder」から、その事業に関わるすべての利害関係者(顧客・社員・株主・取引先など)のことです。会議の頻出ワードです。
業界用語・符牒を使うときの3つの注意点
知ると使いたくなる業界用語ですが、場面を間違えると逆効果になることもあります。最後に、気をつけたいポイントをまとめます。
1つ目は、お客さんの前で多用しないこと。符牒や隠語は、もともと部外者に悟られないための言葉です。お客として行った店で店員のように使うと、通ぶって見えてしまうこともあります。
2つ目は、相手や業界によって意味が変わること。同じ「ピン」でも数字の1だったり、最上位の意味だったりします。文脈を取り違えると誤解のもとです。
3つ目は、配慮が必要な隠語もあること。医療や警察の隠語には、当事者への配慮から生まれたものがあります。面白がって不用意に広めるのは避けたいところです。
まとめ:業界用語・隠語を知ると世界が面白くなる
今回は、寿司・飲食・テレビ・警察・医療・出版・小売・タクシー・金融やITまで、9つの業界の業界用語・符牒・隠語を86個、意味と由来つきで紹介しました。
シャリが仏舎利、サンズイが「汚」の偏というように、一つひとつの言葉にはちゃんとした理由や歴史があります。由来まで知ると、ただの暗号が「文化」に見えてくるから不思議です。
お店やテレビで「あ、今の業界用語だ」と気づけると、いつもの日常が少し面白くなります。気になった業界の言葉を、ぜひ誰かに話してみてください。

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