楽譜を開いたとき、音符のまわりにある「f」や「♯」、見慣れない反復記号の意味がわからず、なんとなく読み飛ばしてしまった経験はないでしょうか。
音楽記号は、作曲家が「どう演奏してほしいか」を演奏者に伝えるための大切なサインです。意味を知っているかどうかで、1枚の楽譜から受け取れる情報量はまったく変わってきます。
この記事では、音部記号・音符・強弱記号・反復記号といった音楽記号を、読み方・意味・使い方つきで一覧にまとめました。さらに「なぜ音楽用語はイタリア語なのか」「4分の4拍子をなぜCと書くのか」といった、記号の由来や歴史もあわせて解説します。

目次
音楽記号とは?楽譜を読むための基礎知識
音楽記号とは、楽譜の上で音の高さ・長さ・強さ・速さ・表情などを指示するための記号の総称です。五線(ごせん)と呼ばれる5本の線の上に音符を並べ、そのまわりにさまざまな記号を書き加えることで、演奏者は曲を再現できます。
音楽記号は役割ごとに、おおまかに次のグループへ分けられます。まずは全体像をつかんでおきましょう。
- 音部記号…ト音記号・ヘ音記号など、音の高さの基準を決める記号
- 音符・休符…音を鳴らす長さ、音を休む長さを表す記号
- 変化記号…♯・♭・♮など、音を半音上げ下げする記号
- 拍子記号…1小節に何拍入るかを表す記号
- 強弱記号…p・fなど、音の大きさを表す記号
- 速度記号…曲の速さを表す記号や言葉
- 発想記号…曲の表情や気分を伝える言葉
- アーティキュレーション…音の切り方・つなぎ方を表す記号
- 反復記号…同じ部分の繰り返しを指示する記号
- 装飾記号…音を飾って華やかにする記号
それぞれを順番に、読み方と意味、そして由来まで見ていきます。
音部記号(ト音記号・ヘ音記号・ハ音記号)の読み方と由来

音部記号(おんぶきごう)は、五線のどこがどの音なのか、高さの基準を決める記号です。同じ位置に書かれた音符でも、音部記号が変わると読み方が変わります。
ト音記号(高音部記号)
最もなじみ深い記号で、うずまきの中心が通る第2線が「ソ(G)」になります。主に高い音域を担当し、右手のピアノパートやヴァイオリン、フルートなどで使われます。
ト音記号の「ト」は、日本の音名でソを指す言葉です。形はアルファベットの「G」を装飾的にくずしたもので、ソ=Gの位置を示すデザインになっています。
ヘ音記号(低音部記号)
2つの点ではさんだ第4線が「ファ(F)」になる記号です。低い音域を担当し、左手のピアノパートやチェロ、コントラバス、トロンボーンなどで使われます。
「ヘ」はファの日本音名で、形はアルファベットの「F」がもとになっています。
ハ音記号(中音部記号)
記号の中心が「ド(C)」を示す記号で、ビオラなどで使われます。中心の位置を上下にずらして使えるのが特徴で、アルト記号・テノール記号などと呼び分けられます。「ハ」はドの日本音名で、形はアルファベットの「C」が由来です。
音符と休符の種類一覧|長さの読み方と音楽記号
音の長さを表すのが音符、音を出さずに休む長さを表すのが休符です。全音符を基準に、半分・さらに半分…と長さが決まっていきます。
- 全音符(ぜんおんぷ)…4拍分のばす。対応する休みは全休符
- 2分音符(にぶおんぷ)…2拍。白い玉に棒がつく。休みは2分休符
- 4分音符(しぶおんぷ)…1拍。拍を数える基本の長さ。休みは4分休符
- 8分音符(はちぶおんぷ)…半拍。旗(はた)が1本つく。休みは8分休符
- 16分音符(じゅうろくぶおんぷ)…4分の1拍。旗が2本つく。休みは16分休符
付点・タイ・連符
音符の右に小さな点をつけた付点(ふてん)音符は、もとの長さの1.5倍になります。付点4分音符なら1拍半です。
タイは、となり合う同じ高さの音符を弧線で結び、2つの音をつなげて1つの長さとして演奏する記号です。
3連符(さんれんぷ)は、本来2つ分の長さを3等分して演奏する記号です。なめらかなリズムの変化を出したいときに使われます。
変化記号(シャープ・フラット・ナチュラル)の意味と起源

変化記号(臨時記号)は、音を半音単位で上げ下げする記号です。基本の3つに、効果を2倍にした記号が加わります。
- ♯(シャープ・嬰)…音を半音上げる
- ♭(フラット・変)…音を半音下げる
- ♮(ナチュラル・本位)…♯や♭を打ち消して、もとの高さに戻す
- ダブルシャープ(×)…音を全音(半音2つ分)上げる
- ダブルフラット(♭♭)…音を全音下げる
♯・♭・♮はすべて「b」から生まれた
この3つの記号は、もとをたどるとアルファベットの「b」から生まれた、いわば兄弟です。
中世のヨーロッパでは「ファ」と「シ」が同時に鳴る響き(三全音)が不安定で、「悪魔の音程」として恐れられていました。これを避けるため、シの音を半音下げて演奏することがありました。
このとき、下げた柔らかい音を「丸いb」、もとの硬い音を「角ばったb」と書き分けたのが始まりです。丸いbがフラット(♭)に、角ばったbがナチュラル(♮)とシャープ(♯)へ分かれていきました。ドイツ音名でシを「H」、変ロを「B」と書くのも、この名残です。
記号がアルファベットから生まれた話つながりで、ギリシャ文字の由来もあわせて読むと面白いです。
拍子記号の読み方|4分の4をCと書く理由
拍子記号は、1小節に何拍入るかを示す記号で、分数のように書きます。下の数字が「何音符を1拍とするか」、上の数字が「1小節に何拍あるか」を表します。
- 4分の4…4分音符が1小節に4つ。行進曲やポップスの基本
- 4分の3…4分音符が3つ。ワルツのリズム
- 8分の6…8分音符が6つ。舟歌やバラードに多い
- 2分の2…2分音符が2つ。行進曲などのアラ・ブレーヴェ
「C」はアルファベットのCではない
4分の4拍子は「C」という記号で書かれることがあり、コモンタイムと呼ばれます。じつはこのC、英語のCommon(共通)の頭文字ではありません。
中世のヨーロッパでは、キリスト教の三位一体にちなんで「3」が完全な数とされ、3拍子を完全な円「○」で表しました。一方、2拍子や4拍子は不完全とされ、円を欠いた「半円」で書かれたのです。この半円が、のちにアルファベットのCの形に見えるようになりました。
半円に縦線を入れた記号は、2分の2拍子(アラ・ブレーヴェ)を表します。何気なく見ていたCに、こんな歴史が隠れているのです。

強弱記号の音楽記号一覧(ピアノ・フォルテ)と楽器ピアノの語源

強弱記号は、音の大きさを指示する記号で、イタリア語の頭文字で書かれます。弱いp(ピアノ)と強いf(フォルテ)を基準に、重ねるほど度合いが強まります。
- ppp(ピアニッシシモ)…きわめて弱く
- pp(ピアニッシモ)…とても弱く
- p(ピアノ)…弱く
- mp(メゾピアノ)…やや弱く
- mf(メゾフォルテ)…やや強く
- f(フォルテ)…強く
- ff(フォルティッシモ)…とても強く
- fff(フォルティッシシモ)…きわめて強く
だんだん変化する記号
クレッシェンド(cresc. または <の形の記号)は「だんだん強く」、デクレッシェンド・ディミヌエンド(decresc./dim. または >の形の記号)は「だんだん弱く」を表します。
sf・sfz(スフォルツァンド)は「その音だけ特に強く」、fp(フォルテピアノ)は「強く出してすぐ弱く」という意味です。
楽器「ピアノ」の名前は強弱記号が由来
弱いをp、強いをfと書くこのルールは、じつは楽器のピアノの名前そのものにつながっています。
ピアノが生まれる前の鍵盤楽器チェンバロは、弦を爪ではじく構造のため、音の強弱をつけられませんでした。その後、ハンマーで弦を叩いて強弱を出せる楽器が発明されます。
この楽器は「弱い音(ピアノ)も強い音(フォルテ)も出せる」という意味で、「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」と名づけられました。これが短くなって「ピアノフォルテ」、さらに略されて、今の「ピアノ」になったのです。

速度記号・テンポを表す音楽記号一覧
速度記号(速度標語)は、曲の速さを表します。古くからイタリア語の言葉で書かれてきました。おそい順に並べると流れがつかめます。
- Largo(ラルゴ)…幅広く、ゆるやかに
- Adagio(アダージョ)…ゆるやかに
- Andante(アンダンテ)…歩くくらいの速さで
- Moderato(モデラート)…中くらいの速さで
- Allegro(アレグロ)…速く、陽気に
- Vivace(ヴィヴァーチェ)…活発に速く
- Presto(プレスト)…きわめて速く
速さを変える・戻す記号
リタルダンド(rit.)は「だんだん遅く」、アッチェレランド(accel.)は「だんだん速く」、ア・テンポ(a tempo)は「もとの速さに戻す」という意味です。
メトロノーム記号「♩=120」は、1分間に4分音符を120回打つ速さ、という正確なテンポ指定を表します。数字が大きいほど速くなります。
発想記号・標語の音楽記号一覧(なぜイタリア語?)
発想記号(発想標語)は、曲の表情や気分を演奏者に伝える言葉です。速さや強さだけでは表せない「ニュアンス」を補います。
- dolce(ドルチェ)…甘く、やわらかに
- cantabile(カンタービレ)…歌うように
- espressivo(エスプレッシーヴォ)…表情豊かに
- legato(レガート)…なめらかに、音を切らずに
- grazioso(グラツィオーソ)…優雅に
- marcato(マルカート)…一つ一つはっきりと
- tranquillo(トランクィッロ)…静かに、穏やかに
音楽用語がイタリア語なのはなぜ?
強弱・速度・発想の記号がイタリア語ばかりなのには、はっきりした理由があります。17世紀ごろ、五線による記譜法が定着したのがイタリアでした。
当時のイタリアはオペラをはじめ西洋音楽の中心地で、すぐれた作曲家や演奏家がヨーロッパ各国で活躍していました。彼らがイタリア語の楽譜を持ち込んだことで、イタリア語が音楽用語の世界共通語として広まっていったのです。
アーティキュレーション記号(スタッカート・テヌート・スラー)の読み方
アーティキュレーションは、音と音の切り方・つなぎ方で、フレーズに表情をつける記号です。同じ音符の並びでも、ここが変わると印象が大きく変わります。
- スタッカート(音符の上下に点)…音を短く切って
- テヌート(音符の上下に横線)…音の長さを十分に保って
- アクセント(>型の記号)…その音を目立たせて、強めに
- スラー(弧線)…高さの違う音をなめらかにつなぐ
- スタッカーティシモ(くさび形)…スタッカートよりさらに短く
- フェルマータ(半円と点の記号)…その音をほどよく長く伸ばす
語源を知ると意味が覚えやすい
スタッカートは「分離する」、テヌートは「保つ」という意味のイタリア語が語源です。言葉の意味が、そのまま演奏の指示になっています。
フェルマータは「停止する」が語源で、音符の上にあればその音を伸ばし、小節線の上に置かれた場合は曲の終わり(フィーネ)を表します。
反復記号(リピート・ダ・カーポ・ダル・セーニョ)の音楽記号と演奏順
反復記号は、同じ部分を繰り返して演奏するための記号です。楽譜を短くまとめられる反面、演奏する順番がわかりにくく、つまずきやすいポイントでもあります。
- リピート記号(‖: と :‖ ではさむ)…はさまれた範囲を繰り返す
- ダ・カーポ(D.C.)…曲のいちばん最初に戻る
- ダル・セーニョ(D.S.)…セーニョ記号の場所まで戻る
- コーダ…結びの部分(コーダ記号)へ飛ぶ
- フィーネ(Fine)…ここで曲を終わる
- 1番カッコ・2番カッコ…繰り返しの2回目で終わり方を変える
演奏順の考え方
ダ・カーポ(D.C.)が出てきたら曲の先頭に戻り、フィーネ(Fine)またはフェルマータのついた場所で終わります。
ダル・セーニョ(D.S.)はセーニョ記号まで戻り、「to Coda」の指示があれば、そこからコーダ記号へジャンプします。慣れないうちは、演奏する順番に番号を書き込んでおくと迷いません。

装飾記号(トリル・ターン・アルペジオ)の音楽記号一覧
装飾記号は、メインの音に飾りをつけて、華やかに演奏するための記号です。クラシックでは特によく登場します。
- トリル(tr)…となり合う2つの音をすばやく交互に鳴らす
- モルデント…主音と隣の音を一瞬だけ行き来する
- ターン…主音の上下の音を、なめらかに回るように鳴らす
- アルペジオ(縦の波線)…和音を下から順に分散して弾く
- グリッサンド(gliss.)…音と音の間を、すべるようにつなぐ
- 装飾音符…小さな音符で主音を軽く飾る
知っておくと面白い音楽記号の雑学
最後に、音楽記号にまつわる雑学を紹介します。記号の見え方が少し変わるかもしれません。
fffよりさらに強い記号もある
強弱記号は、理論上どこまでも重ねられます。チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」では、第1楽章でppp→pppp→ppppp→ppppppと、pを6つ重ねた「ピアニッシシシシシモ」が登場します。
同じ曲には、fを4つ重ねたffffも書かれています。極端な弱音と強音の振り幅が、「悲愴」の劇的さを生み出しているのです。
記号の多くは「言葉の意味そのまま」
スタッカート=分離、テヌート=保つ、ドルチェ=甘く、のように、音楽記号の多くはイタリア語の日常語が語源です。
イタリア語の意味を知っていると、初めて見る発想記号でも、おおよその雰囲気をつかめます。記号は丸暗記より、由来とセットで覚えるのが近道です。
同じように「記号の由来」を掘り下げると面白いのが、数学で使う記号です。あわせてどうぞ。
音楽記号クイズ|読み方に挑戦
ここまでの知識を使って、音楽記号クイズに挑戦してみましょう。答えはそれぞれの下にあります。
Q1. 「♯」の読み方と意味は?
Q2. 「p」が表すのは「強く」「弱く」のどちら?
Q3. 「Allegro(アレグロ)」はどんな速さ?
Q4. ト音記号のうずまきの中心が示す音は?
Q5. 「D.C.(ダ・カーポ)」が出てきたら、どこに戻る?
Q6. 「フェルマータ」の意味は?
音楽記号に関するよくある質問(FAQ)
Q. 音楽記号は全部でいくつありますか?
A. 細かいものまで含めると数百種類あるといわれますが、ふだん楽譜でよく目にするのは数十種類です。本記事で紹介した音部記号・音符・強弱・速度・反復記号をおさえれば、一般的な楽譜はほぼ読めるようになります。
Q. なぜ音楽用語はイタリア語が多いのですか?
A. 17世紀ごろ、五線の記譜法が定着したのがイタリアで、当時のイタリアが西洋音楽の中心地だったためです。イタリアの作曲家・演奏家が各国で活躍し、イタリア語の楽譜が世界に広まりました。
Q. ト音記号とヘ音記号はどう使い分けますか?
A. 高い音域にはト音記号、低い音域にはヘ音記号を使います。ピアノでは右手にト音記号、左手にヘ音記号を使うのが一般的です。
Q. 「♯」と「♭」はどちらが上げる記号ですか?
A. ♯(シャープ)が半音上げる、♭(フラット)が半音下げる記号です。♮(ナチュラル)は、どちらの効果も打ち消して、もとの高さに戻します。
まとめ|音楽記号を覚えて楽譜を読もう
音楽記号は、作曲家が「どう演奏してほしいか」を伝えるためのサインです。
音部記号で音の高さの基準を決め、音符で長さを、強弱記号で大きさを、速度記号で速さを指示します。役割ごとに整理して覚えると、ばらばらに見えた記号が、ひとつの言語としてつながってきます。
さらに、♯・♭・♮が「b」から生まれたことや、4分の4拍子のCが「不完全な円」だったことなど、由来を知ると記号はぐっと身近になります。
まずはよく出てくる記号から少しずつ覚えて、楽譜を読む楽しさを味わってみてください。

楽譜の読み方や音楽用語をもっと詳しく知りたい方は、以下の公式ガイドも参考になります。

