玄関先で手を挙げる招き猫、お正月の門松、合格祈願のだるま。わたしたちの暮らしには、じつにさまざまな「縁起物(えんぎもの)」があふれています。
そもそも「縁起」とは仏教から生まれた言葉で、もとは「因縁生起(いんねんしょうき)」の略でした。すべての物事は原因と条件が結びついて生じる、というお釈迦さまの根本の教えが語源です。それがいつしか「良い前ぶれ」「幸運を願う」という意味に転じ、福を招くための品物が縁起物と呼ばれるようになりました。
この記事では、招き猫やだるまといった定番の置物から、正月飾り、動物、植物、社寺の授与品、吉祥のシンボルまで、日本の縁起物52種類を種類別に整理しました。一つひとつの意味と由来、そして「なぜ縁起がいいのか」をていねいに解説していきます。

目次
縁起物とは?「縁起」の語源と意味【仏教由来の言葉】

縁起物とは、良いことがあるようにと願い、祝い祈るための品物の総称です。商売繁盛、家内安全、無病息災、長寿、子孫繁栄、合格祈願など、込められる願いは多岐にわたります。
前述のとおり「縁起」は、サンスクリット語の「プラティーティヤ・サムトパーダ」を訳した「因縁生起」を略した仏教語です。本来は「あらゆる物事は単独では存在せず、原因(因)と条件(縁)が関わり合って生まれる」という深い教えを指していました。
それが日本で「物事の起こり」「吉凶の前ぶれ」という意味に広がり、さらに良い前ぶれを願う品物そのものを「縁起物」と呼ぶようになったのです。多くの縁起物は、祭礼や縁日、社寺の参道や境内で参拝者に授与・販売されてきた歴史を持ち、江戸時代に庶民の文化として広く定着しました。
福を招く置物の縁起物【招き猫・だるま・福助】

まずは、家や店先に飾る定番の置物から見ていきましょう。日本人にとって最もなじみ深い、福を招くための縁起物たちです。
1. 招き猫(まねきねこ)
前足を上げて福を招く姿の猫の置物で、縁起物の代表格です。右手(前足)を上げた猫は金運を招き、左手を上げた猫は人(お客)を招くとされ、両手を上げたものもあります。色にも意味があり、白は開運招福、金は金運、赤は無病息災(病除け)、黒は魔除け、ピンクは恋愛成就を表すといわれます。
江戸時代に生まれたとされますが、発祥には豪徳寺(東京・世田谷)、自性院(新宿)、今戸神社(浅草)などの諸説があり、はっきり一つには定まっていません。豪徳寺には、雨宿りをしていた井伊直孝が猫に手招きされて難を逃れたという言い伝えが残ります。
2. だるま
倒してもすぐに起き上がることから、「七転び八起き」の象徴として親しまれる縁起物です。願いをかけるときに片方の目を入れ、願いがかなったらもう片方の目を入れる「目入れ」の風習でも知られます。
モデルは、インドから中国へ渡り禅宗を開いた達磨大師(だるまだいし)。壁に向かって9年間も坐禅を続けた「面壁九年」の伝説を持つ高僧です。群馬県の高崎だるまが有名で、200年以上前に少林山達磨寺の和尚が農民に張り子だるまの作り方を伝えたのが始まりとされます。赤い色は、達磨大師の衣の色という説や、魔除けの色という説があります。
3. 福助(ふくすけ)
正座をした大きな頭の男性の人形で、商売繁盛と幸福を招くとされます。「叶福助(かのうふくすけ)」とも呼ばれ、「願いが叶う」にかけた縁起のよい名前を持っています。
文化元年(1804年)ごろから江戸で流行し、茶屋や商家で祀られました。京都で成功した呉服商をモデルに、伏見の人形師が作ったのが始まりという説が有力です。頭の大きさは「福が大きい」象徴ともいわれます。
4. 信楽焼のたぬき
滋賀県の信楽焼で作られるたぬきの置物は、店先でおなじみの縁起物です。「たぬき」が「他抜き(他を抜く=商売で抜きん出る)」に通じることから、商売繁盛の象徴とされています。
その姿には「八相縁起(はっそうえんぎ)」という8つの縁起が込められています。大きな笠は災難除け、大きな目は気配りと正しい判断、笑顔は愛想のよさ、通い帳は信用、徳利は人徳、太い尻尾は最後までしっかり、金袋は金運、大きなお腹は冷静さと大胆さを表すといわれます。「信楽といえばたぬき」のイメージは、昭和天皇が信楽を訪れた際に歌を詠まれ、それが全国に報じられて広まったとされています。
5. 左馬(ひだりうま)
「馬」の字を左右逆さに書いた将棋の駒の置物で、山形県天童市の名産として知られる縁起物です。商売繁盛・千客万来のお守りとして飾られます。
縁起がよいとされる理由は二つ。一つは「うま」を逆から読むと「まう(舞う)」となり、めでたい席の舞を連想させること。もう一つは「馬」の字の下部が巾着(きんちゃく)の形に似ており、口がよく締まってお金が逃げない富の象徴とされることです。馬は人に引かれず人を引く動物であることから、お客を引き寄せるとも言われます。
6. 宝船(たからぶね)
米俵や金銀、宝物を山と積んだ帆船を描いた縁起物で、七福神が乗っている図柄が定番です。福を運んでくる船として、新年に飾られてきました。
正月の二日に宝船の絵を枕の下に敷いて眠ると、良い初夢が見られるという言い伝えもあります。絵に添えられる「なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな」という和歌は、上から読んでも下から読んでも同じ回文になっているのが面白いところです。
7. 打出の小槌(うちでのこづち)
振れば望むものが出てくるとされる、おとぎ話でおなじみの宝物です。七福神の大黒天が手にしていることから、金運や財運を招く縁起物とされています。
「一寸法師」の物語では、打ち出の小槌を振って法師が大きくなる場面が有名ですね。願いを込めて振るしぐさそのものが、福を呼び込む所作として親しまれてきました。
8. こけし
東北地方の温泉地で湯治のみやげとして作られた、木製の人形です。素朴な姿が愛され、子どもの健やかな成長を願う縁起物として飾られてきました。
名前の由来や成り立ちには諸説ありますが、江戸時代後期に東北の温泉地で生まれたとされています。地域ごとに形や模様が異なり、伝統こけしは現在も各地で大切に受け継がれています。
9. 犬張子(いぬはりこ)
犬の形をした張り子の人形で、子どもの守り神とされる縁起物です。犬はお産が軽く、多くの子を元気に育てることから、安産と子どもの健やかな成長の象徴とされてきました。
かつては赤ちゃんの宮参りや初節句に贈られ、枕元に置いて魔除けとしました。丸っこく愛らしい姿は、今も縁起のよい贈り物として親しまれています。

正月の縁起物一覧【門松・鏡餅・破魔矢】

一年で最も縁起物が活躍するのがお正月です。新年に幸福をもたらす年神(としがみ)様をお迎えするための飾りには、それぞれ深い意味が込められています。
10. 門松(かどまつ)
玄関の両脇に立てる松と竹の正月飾りで、年神様が家に降りてくるときの目印(依り代)になります。「松」は「神を待つ」「神を祀る」に通じ、冬も緑を保つ生命力の象徴とされます。
竹はまっすぐ早く伸びることから成長と繁栄を表し、添えられる梅とあわせて松竹梅のめでたさをかたちにしています。年の初めに家を清め、神様をお迎えする日本ならではの風習です。
11. しめ縄・しめ飾り
玄関や神棚に飾る、わらを綯(な)った縄です。しめ縄の内側は神聖な場所であることを示し、結界を張って不浄なものを寄せつけない役割を持ちます。
正月のしめ飾りは、「この家は年神様をお迎えする清らかな場所です」という目印です。裏白(うらじろ)や橙(だいだい)、紙垂(しで)などの縁起物を組み合わせて飾られます。
12. 鏡餅(かがみもち)
大小二段に重ねた丸い餅で、年神様へのお供え物であり、神様が宿る依り代でもあります。前の年に実った米への感謝を込めて供えられます。
丸い形は昔の青銅鏡(三種の神器の一つ)に由来するといわれ、円満を表します。てっぺんに乗せる橙(だいだい)は「代々(だいだい)家が栄えるように」との願いを込めた語呂合わせです。松の内が明けると、鏡開きで割っていただきます。
13. 破魔矢(はまや)
「魔を破る矢」と書く、神社で授与される矢の縁起物です。一年の厄を払い、幸運を射止めるお守りとして、初詣でよく授かります。
もともと「ハマ」は正月に弓の技を競う「射礼(じゃらい)」で用いた的のことで、それを射る矢を「はま矢」、弓を「はま弓」と呼びました。そこに「破魔」の字が当てられ、魔除けの意味が重ねられたのです。
14. 破魔弓(はまゆみ)
破魔矢と対になる弓の縁起物で、男の子の初正月や初節句に贈られます。弓の弦を強く鳴らして魔を払う、という古くからの考えに由来します。
「これからの人生で降りかかる魔(災い)を打ち破り、たくましく育ってほしい」という願いが込められた、子どもの成長を見守る縁起物です。
15. 羽子板(はごいた)
羽根つきに使う板で、女の子の初正月の贈り物として知られる縁起物です。羽根を打ち合う遊びには、一年の厄をはね(羽根)のけるという意味があります。
羽根の先につく黒い玉は「無患子(むくろじ)」という植物の種で、「子が患(わずら)わない」という願いがかけられています。トンボに似た羽根が、蚊(病を運ぶ虫)を食べるトンボを連想させ、厄除けになるともいわれます。
16. 熊手(くまで)
毎年11月の「酉の市(とりのいち)」で売られる、福をかき集める縁起物です。おかめや小判、米俵、宝船などの縁起物で華やかに飾り立てられています。
酉の市は、足立区の大鷲(おおとり)神社の収穫祭が起源とされ、農具だった熊手がやがて「福をかき込む」縁起物に変わりました。鷲(わし)が獲物をわしづかみにする爪の形から、「運をわしづかみにする」とも言われます。お札と稲穂をつけた「かっこめ」という熊手守も親しまれています。
17. 干支の置物(えとのおきもの)
その年の干支の動物をかたどった置物で、年賀の縁起物として正月に飾られます。一年の無事と幸福を願い、新年の床の間や玄関を彩ります。
十二支それぞれに意味や言い伝えがあり、毎年違う動物を迎える楽しみがあります。干支についてもっと知りたい方は、以下の記事もどうぞ。
18. お年玉(おとしだま)
今では子どもへのお小遣いですが、もともとは縁起物でした。語源は「御歳魂(おとしだま)」で、年神様の魂が宿った丸い餅を家長が家族に分け与えたことに由来するといわれます。
年神様の力を分けてもらい、新しい一年の活力を得る。お金に変わったのは時代が下ってからで、その根っこには「魂を分かち合う」という縁起のよい意味が眠っているのです。
19. 七福神(しちふくじん)
恵比寿・大黒天・毘沙門天・弁財天・福禄寿・寿老人・布袋の7柱の神様で、宝船に乗って福を運んでくる縁起物の代表格です。それぞれ商売繁盛や長寿、財運など異なるご利益を授けてくれます。
日本・インド・中国の神様が集まった国際色豊かなチームなのも面白いところ。詳しくは以下の記事で一柱ずつ解説しています。
縁起物の動物たち【鶴・亀・ふくろう】

動物には古くから神聖な力が宿ると考えられ、多くが縁起物として親しまれてきました。長寿や金運、魔除けなど、姿や鳴き声、語呂合わせから生まれた意味を見ていきましょう。
20. 鶴(つる)
「鶴は千年」といわれるように、長寿の象徴とされる縁起物です。生涯同じ相手と添い遂げるとされることから、夫婦円満の象徴でもあります。
結納品や婚礼の飾り、お祝いの折り紙などに欠かせません。亀とセットで「鶴亀」と呼ばれ、めでたさの定番として扱われます。
21. 亀(かめ)
「亀は万年」と続くとおり、鶴とともに長寿を表す縁起物です。ゆっくりでも着実に歩む姿が、堅実さや繁栄の象徴とされてきました。
甲羅の六角形は「亀甲(きっこう)文様」として吉祥文様になり、着物や工芸品に広く使われています。蓑(みの)をまとったように見える「蓑亀(みのがめ)」はとくに縁起がよいとされます。
22. 鯛(たい)
「めでたい」の語呂と、堂々とした赤い姿から、祝いの席に欠かせない縁起物です。七福神の恵比寿様が抱える魚としても知られます。
お食い初めやお祝い膳の尾頭付きの鯛は、その代表例です。赤い色も古来「魔を払う」めでたい色とされ、紅白のおめでたさを引き立てます。
23. 海老(えび)
長いひげと曲がった腰から、「腰が曲がるまで長生きできるように」と長寿を願う縁起物です。おせち料理にも欠かせません。
また、海老は脱皮を繰り返して成長することから、生まれ変わりや成長の象徴ともされます。赤くゆで上がった姿のめでたさも、祝い膳を華やかに彩ります。
24. ふくろう
その名前が「不苦労(苦労しない)」「福来郎(福が来る)」「不苦老(老いに苦しまない)」などと当て字され、たいへん縁起のよい鳥とされます。金運や開運の置物として人気です。
暗闇でも見通せる目と、首が大きく回ることから「見通しがきく」「商売がうまく回る」とも言われます。世界的にも知恵の象徴とされる鳥で、贈り物に喜ばれる縁起物です。
25. 蛙(かえる)
「かえる」という言葉が、「無事に帰る」「お金が返る」「福が迎える」「若返る」など、たくさんの縁起のよい言葉に通じることから、幸運の生き物とされます。
旅のお守りや財布に入れる小さな蛙の縁起物が人気です。たくさんの卵を産むことから、子孫繁栄の象徴ともされてきました。
26. 鯉(こい)
急流をさかのぼる力強さから、出世と立身の象徴とされる縁起物です。「鯉の滝登り」という言葉でもおなじみですね。
中国の故事「登竜門」では、竜門という滝を登りきった鯉が竜になったと伝えられます。端午の節句に揚げるこいのぼりも、子どもの健やかな成長と出世を願う縁起物です。
27. 龍(りゅう)
水を司り、雲を呼び天に昇る霊獣として、出世や繁栄、開運を象徴する縁起物です。十二支の中で唯一の架空の動物でもあります。
「昇り龍」は運気の上昇を表し、ビジネスの守り神としても飾られます。龍をはじめとする神獣について詳しくは、以下の記事もどうぞ。
28. 蛇(へび)・白蛇(はくじゃ)
とくに白い蛇は、七福神の弁財天の使いとされ、金運・財運を招く縁起物として信仰されてきました。脱皮を繰り返す姿から、再生や永遠の象徴ともされます。
抜け殻を財布に入れると金運が上がる、という言い伝えも各地に残ります。山口県の岩国白蛇神社など、白蛇を祀る神社も人気です。
29. こうもり(蝙蝠)
日本ではなじみが薄いかもしれませんが、中国由来の縁起物です。「蝙蝠」の「蝠」が幸福の「福」と同じ音であることから、福を呼ぶ吉祥の動物とされます。
5匹のこうもりを描いた「五福(ごふく)」の文様は、長寿・富・健康・徳・天寿をまっとうする五つの幸福を表します。中華圏では今も人気の高い吉祥モチーフです。
30. 狐(きつね)
稲荷神(お稲荷さん)の使いとされ、五穀豊穣と商売繁盛を司る縁起物です。全国の稲荷神社では、口に巻物や鍵をくわえた狐像が参拝者を迎えます。
田の神の使いとして稲を守ることから、農業や商売の守り神として広く信仰されてきました。油揚げを供える風習も、狐の好物という言い伝えから生まれたものです。

縁起の良い植物【松竹梅・南天】

厳しい冬を越して緑を保ち、花を咲かせる植物には、生命力や再生の力が宿ると考えられました。庭木や正月飾りに使われる、縁起のよい植物を紹介します。
31. 松竹梅(しょうちくばい)
松・竹・梅の3つを組み合わせた、おめでたさの象徴です。もとは中国の「歳寒三友(さいかんさんゆう)」に由来し、寒さに負けない3つの植物として文人に愛されました。
松は冬も色あせない常緑、竹はまっすぐ伸びる成長力、梅は寒中にいち早く花を咲かせる生命力を表します。日本では江戸時代に「めでたい植物の組み合わせ」として庶民に広まりました。
32. 南天(なんてん)
その名前が「難を転ずる(難転)」に通じることから、災いを福に変える縁起木として親しまれてきました。冬に赤い実をたわわにつける姿も、紅白でめでたいとされます。
江戸時代には火災除け・魔除けとして玄関先に植えられました。お赤飯やおせちに南天の葉を添えるのは、彩りだけでなく「難を転じる」願いと、葉に含まれる成分の防腐効果を兼ねたものです。
33. 福寿草(ふくじゅそう)
その名のとおり「福」と「寿(長寿)」を授ける、たいへん縁起のよい花です。早春にいち早く黄金色の花を咲かせ、新春を祝う鉢花として親しまれます。
旧暦の正月ごろに咲くため「元日草(がんじつそう)」とも呼ばれます。雪解けとともに咲くその姿は、希望と幸福の到来を告げる縁起物です。
34. 千両・万両(せんりょう・まんりょう)
どちらも冬に赤い実をつける植物で、名前に「両(昔のお金の単位)」がつくことから金運の縁起物とされます。正月の生け花に欠かせません。
見分け方は実のつき方。千両は葉の上に実をつけ、万両は葉の下に実をつけます。名前は万両のほうが上ですが、鳥に食べられにくい分、万両のほうが長く実を楽しめるといわれます。
35. ほおずき
赤いちょうちんのような実が、魔除けや先祖供養の縁起物とされます。お盆には、ご先祖の霊を導く提灯(ちょうちん)に見立てて飾られます。
毎年7月、浅草寺では「ほおずき市」が立ちます。この日(四万六千日)に参拝すると、なんと46000日分(約126年分)のご利益があるとされる特別な縁日です。
36. 橘(たちばな)
日本に古くから自生する常緑のミカンの仲間で、不老長寿の象徴とされる縁起物です。ひな飾りの「右近の橘」としても知られます。
常に緑の葉を保ち、香り高い実をつけることから「永遠」「繁栄」を表します。家紋や文様にも好んで使われ、気品ある縁起植物として親しまれてきました。
37. 柊(ひいらぎ)
とげのある葉が魔を払うとされ、魔除けの縁起木として知られます。節分には、いわしの頭を柊の枝に刺した「柊鰯(ひいらぎいわし)」を玄関に飾る風習があります。
鬼が柊のとげを嫌い、いわしの匂いを嫌って近づかない、という言い伝えに基づいています。とげのある葉で災いを遠ざける、昔ながらの知恵が生きた縁起物です。
38. 菊(きく)
古くから不老長寿と高貴さの象徴とされる、縁起のよい花です。皇室の紋章(菊花紋章)にも使われ、日本を代表する吉祥の花となっています。
9月9日の「重陽(ちょうよう)の節句」は別名「菊の節句」。菊の花を浮かべた菊酒を飲んで長寿を願う風習があり、邪気を払う薬草としても大切にされてきました。
社寺の授与品・お守り系の縁起物
神社やお寺で授かる縁起物は、神仏の力を身近に感じるためのよりどころです。願いを託し、日々の暮らしを見守ってもらうための授与品を見ていきましょう。
39. お守り(おまもり)
神社やお寺で授かる、身につける縁起物の代表です。学業成就、交通安全、縁結び、安産、金運など、願いに合わせてさまざまな種類があります。
中には神仏の力が込められた「内符(ないふ)」が納められており、持ち主を守るとされます。一年を目安に、感謝して社寺に納め、新しいものを授かるのが習わしです。
40. 絵馬(えま)
願い事を書いて社寺に奉納する、馬の絵が描かれた木の板の縁起物です。合格祈願や縁結びなど、思い思いの願いが書かれた絵馬が境内を彩ります。
その由来は、古代に神様へ本物の馬(神馬・しんめ)を奉納していたことにあります。馬は神様の乗り物とされましたが、生きた馬は高価なため、やがて木彫りや土の馬像、そして馬を描いた板へと簡略化され、現在の絵馬になりました。
41. お札(おふだ・神札)
神社で授かる、神様の名前や印が記された縁起物で、神棚に祀ってその家を守っていただきます。「神札(しんさつ)」とも呼ばれます。
伊勢神宮の「神宮大麻(じんぐうたいま)」をはじめ、地域の氏神様のお札を一緒に祀るのが一般的です。一年ごとに新しいお札に取り替え、古いものは納めて感謝します。
42. 鈴守(すずまもり)
鈴のついたお守りで、清らかな音が魔を払うとされる縁起物です。神社の拝殿の鈴を鳴らすのと同じように、音には邪気を退ける力があると信じられてきました。
澄んだ鈴の音は神様を招き、持ち主を災いから守るとされます。鈴そのものが、神聖さと魔除けを象徴する縁起物なのです。
43. 福笹(ふくざさ)
笹に小判や俵、鯛などの小さな縁起物を結びつけたもので、商売繁盛を願う縁起物です。とくに関西の「十日戎(とおかえびす)」で授与されることで知られます。
「商売繁盛で笹もってこい」のかけ声でおなじみですね。まっすぐ伸び、節をつけて成長する笹は、まさに商いの発展にふさわしい縁起植物とされています。
44. 千羽鶴(せんばづる)
折り鶴を糸でつないだもので、長寿の鶴を千羽集めることで、平癒や成就の願いを込める縁起物です。病気快復や合格の祈りとして贈られます。
一羽ずつ心を込めて折る行為そのものが、祈りのかたちになります。広島の平和記念公園に捧げられる千羽鶴は、平和への願いの象徴として世界に知られています。
金運・吉祥を呼ぶ縁起物のシンボル

最後に、初夢のモチーフや吉祥文様など、かたちあるものから図柄まで、福を呼ぶ象徴としての縁起物を紹介します。
45. 富士山(ふじさん)
初夢に見ると縁起がよいとされる「一富士二鷹三茄子(いちふじにたかさんなすび)」の筆頭です。日本一の高さと末広がりの姿から、開運と成功の象徴とされます。
「富士」が「無事」「不死」に通じるとも言われます。徳川家康の出身地・駿河国(現在の静岡県)の名物を並べたという説が、この初夢のことわざの由来として有名です。
46. 鷹(たか)
初夢の「二鷹」にあたる、鋭い目と力強さを持つ鳥の縁起物です。獲物をしっかりつかむことから「運やチャンスをつかむ」象徴とされます。
「鷹」が「高い(目標が高く成功する)」に通じるともいわれます。家康が鷹狩を好んだことも、縁起物として親しまれる背景にあるようです。
47. 茄子(なす)
初夢の「三茄子」にあたる、意外な縁起物です。「成す(物事を成し遂げる)」に通じることから、成功や子孫繁栄の象徴とされます。
駿河国の名産「折戸なす」を家康が好んだという説や、初物のなすが高値で取引されたことを並べた説など、由来には諸説あります。ちなみに続きは「四扇(しおうぎ)五煙草(ごたばこ)六座頭(ろくざとう)」と伝わります。
48. 末広(すえひろ)・扇(おうぎ)
扇は、閉じた根元から先に向かって広がる形が「末広がり」を表し、繁栄と発展の縁起物とされます。祝い事に「末広」と呼んで贈られます。
先へ行くほど栄えていく、という前向きな意味から、結納や祝儀の品に欠かせません。「八」の字も末広がりでめでたいとされ、扇とともに吉祥のかたちとして好まれます。
49. 俵・米俵(たわら・こめだわら)
米をたっぷり詰めた俵は、五穀豊穣と豊かさの象徴とされる縁起物です。大黒天が俵に乗った姿でも知られます。
米は日本人にとって命の糧であり、富そのものでした。俵を積み上げた姿は、満ち足りた豊かさと商売繁盛を願う縁起のかたちとして親しまれています。
50. 小判・大判(こばん・おおばん)
江戸時代の金貨をかたどった縁起物で、金運招福のシンボルです。招き猫が抱えていたり、熊手の飾りになっていたりと、めでたい場面でおなじみですね。
「千万両」と書かれた小判の置物などは、財運がどんどん集まるようにとの願いを込めたものです。見ているだけで景気がよくなりそうな、金運の定番縁起物です。
51. 七宝(しっぽう)・吉祥文様
同じ円を四分の一ずつ重ねていく「七宝」は、円満や調和、ご縁の連なりを表す吉祥文様です。「七宝」は仏教で7つの宝を意味する、ありがたい言葉でもあります。
このほか、麻の葉、亀甲、青海波(せいがいは)など、日本には縁起のよい文様が数多くあります。着物や器、ご祝儀袋などに使われ、暮らしにさりげなく福を添えています。
52. 瓢箪(ひょうたん)
くびれた形の瓢箪は、末広がりで縁起がよいとされ、無病息災や子孫繁栄の象徴とされる縁起物です。豊臣秀吉が馬印に「千成瓢箪(せんなりびょうたん)」を用いたことでも知られます。
とくに6つの瓢箪を「六瓢(むびょう)」と呼び、「無病(むびょう)」の語呂から無病息災のお守りとされます。中が空洞で多くの種を持つことから、繁栄を願う縁起物として親しまれてきました。

縁起物に関するクイズ5問
ここまで読んだあなたなら、もう縁起物博士かもしれません。最後に、楽しいクイズで知識をおさらいしてみましょう。答えはそれぞれの下にあります。
第1問
右手(前足)を上げた招き猫が招くとされるのは、次のうちどれでしょう?
A:お客 B:金運 C:健康
右手を上げた招き猫は金運を、左手を上げた招き猫は人(お客)を招くとされます。両方上げた欲ばりさんもいますよ。
第2問
だるまのモデルになったとされる人物は、次のうち誰でしょう?
A:弘法大師 B:聖徳太子 C:達磨大師
インドから中国へ渡り禅宗を開いた達磨大師がモデルです。壁に向かって9年間坐禅した「面壁九年」の伝説で知られます。
第3問
「難を転ずる」の語呂から、災いを福に変える縁起木とされる赤い実の植物は?
A:南天 B:椿 C:もみじ
「なんてん」が「難転(難を転ずる)」に通じます。江戸時代には魔除け・火災除けとして玄関に植えられました。
第4問
毎年11月の「酉の市」で売られる、福をかき集める縁起物といえば?
A:羽子板 B:熊手 C:破魔矢
農具だった熊手が「福をかき込む」縁起物に。鷲が獲物をわしづかみにする爪の形から、「運をわしづかみ」ともいわれます。
第5問
「一富士二鷹三茄子」。これらを見ると縁起がよいとされるのは、いつ見る夢でしょう?
A:初夢 B:昼寝の夢 C:怖い夢
新年に初めて見る「初夢」に登場すると縁起がよいとされます。徳川家康ゆかりの駿河国の名物を並べた説が有名です。
縁起物のよくある質問(FAQ)
Q1. 縁起物はどこに飾るのがよいですか?
基本は、人がよく集まる明るい場所で、目線より少し高い位置がよいとされます。招き猫は玄関や店先、お札は神棚、熊手は玄関や店の入り口など、それぞれにふさわしい場所があります。ほこりをためず、清潔に保つことも大切です。
Q2. 古くなった縁起物はどう処分すればいいですか?
ゴミとして捨てるのは気が引けますよね。神社やお寺の「お焚き上げ」や、年明けの「どんど焼き」に納めるのが丁寧な方法です。一年間見守ってくれたことに感謝して、お返しするとよいでしょう。
Q3. おせち料理も縁起物なのですか?
はい、おせちは縁起物の宝庫です。黒豆は「まめに健康に働けるように」、数の子は「子孫繁栄」、海老は「長寿」、昆布は「よろこぶ」、栗きんとんは「金運」、れんこんは「見通しがよくなるように」と、一品ずつに願いが込められています。
Q4. 招き猫の色は何を選べばいいですか?
かなえたい願いに合わせて選ぶとよいでしょう。金運なら金、恋愛成就ならピンク、魔除けなら黒、無病息災なら赤、開運招福なら白がおすすめです。最近は青(学業・交通安全)や緑(家内安全)などもあります。
Q5. 縁起物に本当に効果はあるのですか?
正直にお答えすると、科学的な根拠があるわけではありません。ただ、願いを目に見えるかたちにして毎日目にすることは、前向きな気持ちや日々の励みにつながります。縁起物は「心の支え」として、暮らしをそっと明るくしてくれる存在なのです。
まとめ|縁起物の意味を知れば日々がもっと楽しくなる
日本の縁起物52種類を、種類別に見てきました。
招き猫やだるまのような置物、門松や鏡餅といった正月飾り、鶴や亀などの動物、松竹梅や南天などの植物、お守りや絵馬の授与品、そして富士山や瓢箪のような吉祥のシンボル。どれも、暮らしの中に福を呼び込みたいという、先人たちの願いから生まれたものでした。
「不苦労」「無事かえる」「難転」といった語呂合わせや、達磨大師や徳川家康にまつわる由来を知ると、何気なく見ていた縁起物がぐっと身近に感じられます。


