「われ、なにしよん!」と凄まれると怖いのに、「ぶち好きじゃけぇ」と言われるとドキッとする。広島弁は、映画『仁義なき戦い』のような「怖い」イメージと、「かわいい」という評判が同居する、ふしぎな魅力を持つ方言です。
さらに広島弁には、「たちまち」「えっと」のように標準語とまったく同じ形なのに意味が違う”罠ワード”がたくさんあります。知らずに聞くと、会話がすれ違ってしまうほどです。
この記事では、広島弁の特徴や「じゃけぇ」「〜よる・〜とる」といった文法の仕組みから、標準語と意味が違う言葉、かわいい告白フレーズ、『仁義なき戦い』で有名な怖い言い回しの本当の意味まで、意味と例文をつけて42語まとめて解説します。

目次
広島弁とは?特徴と「安芸弁」「備後弁」の違い

広島弁は、言語学的には西日本方言の「中国方言」、さらにその中の「西中国方言」に分類される方言です。山口弁や島根の石見弁とも語彙や言い回しが近いのが特徴です。
ひとくちに広島弁といっても、県内で大きく2つに分かれます。広島市や呉市を中心とする西側の「安芸弁(あきべん)」と、福山市や尾道市を中心とする東側の「備後弁(びんごべん)」です。
安芸弁はアクセントが東京式に近く、「〜じゃけぇ」のように語尾を伸ばす傾向があります。一方の備後弁は、隣接する岡山弁や関西弁の影響を受け、「〜けん」「〜じゃ」を多く使うなど、少しずつ語感が違います。
この記事では、もっとも広く知られている広島市周辺の安芸弁を中心に紹介していきます。同じ広島県でも地域で違いがあることを、頭の片隅に置いておくと面白いですよ。
広島弁の文法|「じゃけぇ」「〜よる・〜とる」の仕組み

広島弁を「広島弁らしく」しているのは、単語よりもむしろ文法です。ここを押さえると、一気に広島弁が分かるようになります。とくに有名な5つの仕組みを見ていきましょう。
断定の「じゃ」(=だ)
標準語の「だ」にあたるのが「じゃ」です。「そうじゃ(そうだ)」「ええんじゃ(いいんだ)」のように使います。この「じゃ」が、広島弁の力強い響きの土台になっています。
理由の「けぇ・けん」(=から・ので)
「〜だから」と理由を言うときは「〜けぇ」「〜けん」を使います。「眠いけぇ寝る(眠いから寝る)」のように、文の最後につけます。広島弁の代表格「じゃけぇ」は、この「じゃ」と「けぇ」が合体したもので、「だから」という意味なのです。
進行の「〜よる」と結果の「〜とる」
これが広島弁、いえ西日本方言の白眉です。標準語では「雨が降っている」のひと言で済むところを、広島弁は2つに区別します。
「雨が降りよる」は、今まさに降っている最中(進行)を表します。一方「雨が降っとる」は、すでに降った跡が残っている状態(結果)を表します。「〜よる」が動作の進行中、「〜とる」が動作の完了後と、きっちり使い分けるのです。
標準語にはないこの繊細な区別は、広島の人にとっては当たり前です。「何しよん?(今何してるの)」と「何しとん?(何をした状態なの)」も、実は別の意味なんですよ。

やわらかい命令の「〜んさい」
「〜しなさい」にあたるのが「〜んさい」です。「食べんさい(食べなさい)」「見んさい(ご覧なさい)」のように使います。命令形ですが響きはやわらかく、お母さんが子どもに語りかけるような、あたたかい言い方です。後で出てくる「怖い広島弁」の誤解は、実はこのあたりに原因があります。
推量の「〜じゃろう・じゃろ」(=だろう)
「〜だろう」「〜でしょう」にあたるのが「〜じゃろう」、縮めて「〜じゃろ」です。「明日は晴れるじゃろう」「おいしいじゃろ?」のように使います。語尾を上げて「〜じゃろ?」と言うと、同意を求めるやわらかい問いかけになり、これがまた「かわいい」と評判なのです。
このほか、発音にも特徴があります。「赤い」が「あかー」、「白い」が「しろー」のように、母音が連なると一つに溶ける「連母音融合」が起こります。「言う」が「ゆう」、「買うた」が「こーた」になるのも広島弁らしい音の変化です。
標準語と意味が違う広島弁の「罠ワード」10選

広島弁でいちばん面白いのが、標準語とまったく同じ形なのに意味が違う言葉です。広島の人は方言だと気づかずに使っていることが多く、県外の人との会話で「え?」というすれ違いが生まれます。知っておくと役に立つ”罠ワード”を10個紹介します。
1. たちまち(=とりあえず・ひとまず)
標準語の「たちまち」は「あっという間に」という意味ですが、広島弁では「とりあえず」「ひとまず」という意味です。居酒屋の「たちまちビールで!」は「とりあえずビールで!」のこと。スピード注文しているわけではありません。
2. えっと(=たくさん・いっぱい)
標準語では考えるときの「えっと…」ですが、広島弁の「えっと」は「たくさん」という意味です。「えっと食べんさい(たくさん食べなさい)」と言われて口ごもらないように。語源は「あまた(数多)」が変化したものと言われています。
3. たう(=高い所に手が届く)
「届く」という意味で、とくに「手が高い所に届く」場面で使います。「棚の上に手がたう?(棚の上に手が届く?)」のように使う、広島県民が方言と気づいていない代表格です。
4. たわん(=届かない)
「たう(届く)」の否定形で「届かない」という意味です。「背が低いけぇ、上の棚にたわん(背が低いから、上の棚に届かない)」のように使います。「たう・たわん」はセットで覚えましょう。
5. みてる(=なくなる・尽きる)
「見てる」ではなく「(残量が)なくなる」という意味です。「醤油がみてた(醤油がなくなっていた)」のように使います。冷蔵庫の前で「あー、みてとる」と言っていたら、何かが切れたサインです。
6. みやすい(=簡単・たやすい)
「見やすい」ではなく「簡単だ」「たやすい」という意味です。「そんなんみやすいよ(そんなの簡単だよ)」のように使います。テストの感想で「みやすかった」と言われたら、楽勝だったということです。
7. かける(=走る)
標準語の「駆ける」に近いですが、広島では日常の「走る」をごく普通に「かける」と言います。「急いでかけりゃ間に合う(急いで走れば間に合う)」のように使います。
8. なおす(=片付ける・しまう)
西日本で広く使われる代表的な罠ワードです。標準語の「直す(修理する)」ではなく「片付ける」「しまう」という意味で使います。「これなおしといて」は「これ片付けておいて」のこと。壊れていなくても「なおす」のです。
9. ほうる・ほる(=捨てる)
「放る(投げる)」が変化した言葉で、広島では「捨てる」という意味で使います。「そのゴミほうっといて」は「そのゴミ捨てておいて」という意味。投げ捨てているわけではありません。
10. さら(=新品)
「皿」ではなく「新品・おろしたて」という意味です。「このくつ、さらなんよ(この靴、新品なんだよ)」のように使います。標準語にも「まっさら」という言葉が残っているので、意味はつながっていますね。
これらの「とても」を表す方言や全国の面白い方言は、別の記事でも地方別にまとめています。あわせてどうぞ。
かわいい広島弁と告白フレーズ|「好きじゃけぇ」の破壊力

怖いと言われる一方で、広島弁は「告白されたい方言」の常連でもあります。力強い語尾と、ふとした瞬間のやわらかさのギャップが、かわいさを生むのです。代表的なかわいい広島弁を見てみましょう。
11. 〜じゃろ?(=でしょ?)
語尾を上げて「おいしいじゃろ?」「ええじゃろ?」と同意を求める言い方です。標準語の「でしょ?」より親しみがあり、甘えたような響きになります。
12. 〜のん(=〜なの?)
「どうしたん?」「なに食べるん?」のように、語尾につく「ん」「のん」もかわいいと人気です。柔らかく問いかけるニュアンスで、女性が使うとぐっと親しみが増します。
13. はぶてる(=すねる・むくれる)
「すねる」「ふくれっ面をする」という意味です。「すぐはぶてるんじゃけぇ(すぐすねるんだから)」のように使います。響きがどこか愛嬌たっぷりで、怒っていても憎めない雰囲気が出ます。
14. ぶち(=とても・すごく)
広島・山口を代表する強調表現で「とても」「すごく」の意味です。「ぶちかわいい」「ぶちうまい」のように使います。今や若者言葉として全国区になりつつあります。
15. 好きじゃけぇ(=好きだから)
広島弁の告白といえばこれ。「あんたのこと、好きじゃけぇ」とまっすぐ言われると、断定の「じゃ」と理由の「けぇ」が合わさって、強い気持ちがストレートに伝わります。コワモテな響きの語尾だからこそ、告白に使うとギャップで破壊力抜群なのです。
16. 〜しんさいや(=〜しなよ)
「〜んさい」をさらにやわらかくした言い方で、「食べんさいや」「がんばりんさいや」のように、語尾に「や」をつけて優しく背中を押すニュアンスになります。命令というより応援に近い、あたたかい広島弁です。

怖いと言われる広島弁と『仁義なき戦い』|実は優しい意味

広島弁が「怖い」というイメージは、1973年公開の映画『仁義なき戦い』の影響が大きいと言われます。深作欣二監督・菅原文太主演で、戦後広島の実際の暴力団抗争をモデルにした実録もので、迫力ある広島弁のセリフが強烈な印象を残しました。
でも、実際の広島弁は決して怖い言葉ではありません。怖く聞こえる代表的な言い回しと、その本当の意味を見てみましょう。
17. われ(=お前・あんた)
映画では「われ、なめとんか!」と凄む場面でおなじみですが、もともとは二人称の「お前」「あんた」を指す言葉です。きつい口調で使えば威圧的ですが、親しい仲間内では「われも来いや(お前も来いよ)」と気軽に使われます。
18. おどりゃ(=お前)
「おのれ」が変化したとされる、より荒っぽい二人称です。これは確かに喧嘩腰の言葉で、日常会話ではあまり使いません。映画のイメージを作った言葉の代表ですが、普通の広島県民が使う場面はほとんどないので安心してください。
19. のう(=ねえ・なあ)
「ええのう(いいねえ)」「そうじゃのう(そうだねえ)」のように、文末につく相づち・呼びかけの言葉です。任侠映画では凄みに聞こえますが、本来は同意やしみじみとした気持ちを表す、とても穏やかな表現です。
20. どうしょん・なにしょん(=どうしてるの・何してるの)
「〜しよる(進行)」が変化した言い方で、「今どうしてるの」「何してるの」と相手を気づかう言葉です。早口で言うと強く聞こえますが、中身はごく普通の「元気にしてる?」なのです。
21. 〜んさい(命令に聞こえるが、実は丁寧)
先ほど文法でも紹介した「〜んさい」。「行きんさい」「やめんさい」は、文字で見ると命令口調で怖く感じますが、本来は「〜してください」にあたる丁寧でやわらかい表現です。お年寄りが孫に語りかけるときの定番でもあります。
このように、怖く見える広島弁の多くは、実は身内への親しみや気づかいの言葉です。方言クイズで「これはどこの方言?」と腕試ししたい方は、こちらの記事もどうぞ。
日常でよく使う広島弁一覧|感情・状態の言葉
ここからは、広島県民が日常でよく使う言葉を一覧表でまとめます。まずは感情や体の状態を表す言葉から。どれも会話に自然に出てくる頻出フレーズです。
| 広島弁 | 意味 | 例文・メモ |
|---|---|---|
| 22. たいぎい | だるい・面倒くさい | 「月曜はたいぎい」。漢字で「大儀い」。広島県民の口ぐせ。 |
| 23. えらい | しんどい・疲れた | 「今日はえらかった」。「偉い」ではなく「疲れた」。 |
| 24. せわしい | 忙しい・落ち着かない | 「年末はせわしいのう」。気ぜわしい様子を表す。 |
| 25. ぬくい | あたたかい | 「今日はぬくいね」。西日本で広く使う。反対は「さぶい」。 |
| 26. さぶい | 寒い | 「外さぶいけぇ上着いるよ」。「寒い」のくだけた形。 |
| 27. いなげな | 変な・おかしな | 「いなげな味じゃ」。主に備後地方で使う。 |
| 28. やれん | たまらない・やってられない | 「暑うてやれん」。困った気持ちや音を上げる感じ。 |
とくに「たいぎい」は広島県民の朝の口ぐせとも言われるほどの頻出ワードです。意味や由来は方言クイズでも定番なので、覚えておくと広島っ子との距離がぐっと縮まります。
日常でよく使う広島弁一覧|動作・あいさつの言葉

続いて、動作やあいさつ、相づちなどに使う広島弁です。語尾の文法と組み合わせると、ぐっと広島弁らしくなります。
| 広島弁 | 意味 | 例文・メモ |
|---|---|---|
| 29. めげる | 壊れる | 「傘がめげた」。心が折れる意味の標準語と違う。 |
| 30. かばちたれる | 文句・屁理屈を言う | 「かばちたれな(文句言うな)」。「かばち」が文句の意味。 |
| 31. いぬ・いんでくる | 帰る・帰ってくる | 「もう、いぬわ(もう帰るね)」。古語「往ぬ」が残ったもの。 |
| 32. こーた | 買った | 「新しい服こーた」。「買うた」のウ音便。 |
| 33. わや | めちゃくちゃ・台無し | 「雨で予定がわやになった」。収拾がつかない様子。 |
| 34. ちいと | 少し・ちょっと | 「ちいと待ちんさい(少し待って)」。「ちっと」とも。 |
| 35. ようけ | たくさん | 「ようけ採れた」。「えっと」と同じくたくさんの意味。 |
| 36. がんす | 〜です・ございます | 「おはようがんす」。安芸地方の古風で丁寧な言い方。 |
| 37. ほいじゃ | それじゃ・それなら | 「ほいじゃ、またね」。別れぎわのあいさつにも。 |
| 38. そうじゃのう | そうだねえ | しみじみ同意するときの相づち。「のう」が効いている。 |
| 39. 〜じゃん | 〜だね・〜だよね | 「ええじゃん」。同意・共感の語尾として広く使う。 |
| 40. しんさんな | 〜するな(やさしい禁止) | 「無理しんさんな(無理しないでね)」。気づかう禁止。 |
| 41. おらぶ | 大声で叫ぶ | 「そんなにおらぶな」。大声を出す動作を表す。 |
| 42. ぶり・ばり | とても(最上級) | 「ぶち」をさらに強めた言い方。「ばりうまい」。 |
こうして並べると、広島弁は語彙だけでなく、語尾と発音の組み合わせで成り立っていることが分かります。一つひとつ覚えるより、「じゃけぇ」「〜とる・〜よる」の文法ごと身につけると、ぐっと自然になりますよ。
広島弁クイズに挑戦!意味が分かるかな?
ここまで読んだあなたの広島弁レベルを、クイズで確かめてみましょう。全5問、答えはそれぞれの下にあります。
第1問
居酒屋で広島出身の友人が「たちまちビールで!」と注文しました。さて、どういう意味でしょう?
広島弁の「たちまち」は「とりあえず・ひとまず」。「あっという間に」ではありません。
第2問
「冷蔵庫の牛乳、みてとるよ」と言われました。牛乳はどうなっているでしょう?
「みてる」は「なくなる・尽きる」。「見ている」ではないので、補充が必要です。
第3問
「この問題、みやすいわ」とテスト後に言う広島っ子。どんな気持ちでしょう?
「みやすい」は「簡単・たやすい」。「見やすい」ではありません。
第4問
「雨が降りよる」と「雨が降っとる」。今まさに降っているのはどちらでしょう?
「〜よる」は進行中、「〜とる」は降った後の結果。西日本方言ならではの繊細な区別です。
第5問
「これ、なおしといて」とお皿を渡されました。どうすればいいでしょう?
「なおす」は「片付ける・しまう」。お皿は割れていません。修理しなくて大丈夫です。

広島弁のよくある質問(FAQ)
Q1. 広島弁はなぜ「怖い」と言われるのですか?
最大の理由は、1973年の映画『仁義なき戦い』のイメージです。実録ヤクザ映画で使われた迫力ある広島弁が強く印象に残り、「広島弁=怖い」というステレオタイプが広まりました。実際の広島弁は、身内への親しみや気づかいにあふれた、あたたかい方言です。
Q2. 広島弁と関西弁はどう違うのですか?
断定が広島弁は「じゃ」、関西弁は「や」という違いが分かりやすいポイントです。「そうじゃ(広島)」と「そうや(関西)」のように分かれます。また理由を表す「けぇ・けん(広島)」も、関西の「から・さかい」とは違う特徴です。
Q3. 「じゃけぇ」と「じゃけん」はどちらが正しいのですか?
どちらも正しく、地域差や個人差です。広島市周辺の安芸地方では語尾を伸ばす「じゃけぇ」、東部の備後地方や近隣では「じゃけん」がよく使われる傾向があります。意味はどちらも「〜だから」で同じです。
Q4. 広島弁の「かわいい」と言われる言葉は何ですか?
「〜じゃろ?」「〜のん?」といったやわらかい語尾や、「はぶてる(すねる)」「ぶち(とても)」などが人気です。とくに「好きじゃけぇ」は、力強い語尾とのギャップで「告白されたい方言」として上位の常連です。
Q5. 広島弁を使う有名人はいますか?
広島出身のタレントや、プロ野球・広島東洋カープの選手のインタビューなどで、自然な広島弁を聞くことができます。「じゃけぇ」「〜しとる」といった言い回しは、テレビ中継でもおなじみです。生きた広島弁に触れたいなら、カープの選手インタビューがおすすめです。
まとめ|広島弁は「怖い」と「かわいい」の二刀流
広島弁を42語、意味と例文つきで紹介しました。最後にポイントを整理します。
広島弁の正体は、「じゃ」「けぇ」「〜よる・〜とる」「〜んさい」といった文法の仕組みにあります。ここを押さえると、単語が分からなくても会話の流れがつかめます。
そして最大の面白さは、「たちまち」「えっと」「みてる」のように標準語と同じ形なのに意味が違う罠ワードです。これを知っていると、広島の人との会話で一目置かれます。
『仁義なき戦い』ゆずりの怖いイメージとは裏腹に、広島弁の多くは身内への気づかいの言葉です。「好きじゃけぇ」のかわいさと「われ、なにしよん」の迫力。この二刀流のギャップこそ、広島弁が愛される理由なのです。


