インド神話の神々・英雄30選!ブラフマー・ヴィシュヌ・シヴァ・ガネーシャ・ハヌマーンまで画像付きで徹底解説

ブラフマー・ヴィシュヌ・シヴァの三大神、愛されキャラの象頭神ガネーシャ、そして叙事詩『ラーマーヤナ』の猿神ハヌマーン——インド神話には個性的すぎる神々が数え切れないほど登場します。

ヒンドゥー教では神の数は「3億3千万」とも言われ、ヴェーダ時代から4000年以上語り継がれる物語は世界最古級の神話体系のひとつです。ヨガ・映画『RRR』・カンボジアのアンコールワットなど、現代のエンタメや文化にも影響を与え続けています。

この記事では、インド神話を代表する30柱を「三大神」「三女神」「ヴェーダの古代神々」「シヴァ家族と女神」「ヴィシュヌの化身」「叙事詩の英雄」「聖なる動物と魔族」の7カテゴリに分けて、画像付きで徹底解説します。

インド神話の女神ラクシュミー(ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ画)

画像はラジャ・ラヴィ・ヴァルマ(1848〜1906)をはじめとする19世紀〜20世紀の公式絵画・寺院彫刻・民族画から厳選しています。Wikipediaに基づく信頼性の高い情報で、初心者の方でも読み進めやすいようにまとめました。

インドの神様って本当にカラフルで、一度覚えたら忘れないほど個性的ですよ!ヨガ好きな方や、インド映画が気になる方にもおすすめです。

インド神話とは?概要と3つの時代

インド神話は、インド亜大陸で紀元前1500年頃から発展した世界最古級の神話体系です。大きく3つの時代に分けられます。

  • ヴェーダ神話(紀元前1500〜前500年):最古の聖典『リグ・ヴェーダ』を中心とする。雷神インドラ、火神アグニ、太陽神スーリヤなど自然神が主役
  • 叙事詩・プラーナ神話(紀元前500〜後500年頃):『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』の時代。ヴィシュヌ・シヴァ・女神信仰が中心になる
  • ヒンドゥー教神話(現代まで):三大神トリムルティや数多の化身・女神が体系化。現代のヒンドゥー教徒に信仰され続ける

ギリシャ神話・北欧神話・日本神話と同じくインド・ヨーロッパ語族の神話に属し、雷神や火神といった共通のモチーフが見られます。一方でヴィシュヌの10化身(ダシャーヴァターラ)やアヴァターラ思想など、独自の発展を遂げた要素も豊富です。

補足
名古屋大学OpenCourseWareによると、インド神話に登場する神は「3億3千万」とも言われますが、これは古文書にある「33種類(33 Koti Gods)」の誤訳という説もあります。いずれにせよ膨大な数の神々が存在することに変わりはありません。

【カテゴリ1】三大神トリムルティ(創造・維持・破壊)

ヒンドゥー教の中心的な概念である「トリムルティ(三神一体)」。宇宙を「創造・維持・破壊」の永遠のサイクルで捉える世界観を象徴する、最高位の3柱の神々です。

01. ブラフマー(Brahma)——宇宙の創造神

ブラフマーは宇宙を創造した最高神のひとり。4つの顔と4本の腕を持ち、それぞれ東西南北を向いて世界を見守っています。手にはヴェーダ聖典・数珠・水瓶・蓮華を持ち、乗り物(ヴァーハナ)は白鳥ハンサ。

ブラフマー神——4つの顔を持つ創造神、白鳥ハンサに乗る

面白いことに、三大神の中でブラフマー信仰の寺院はインド国内に2つしかないと言われています(ラージャスターン州プシュカルが最も有名)。かつて娘のサラスヴァティーに恋をしたという伝承が原因で、シヴァに呪われて信仰が廃れたなど諸説あります。配偶者は知恵と芸術の女神サラスヴァティーで、夫婦で学問・芸術を司ります。

02. ヴィシュヌ(Vishnu)——世界を維持する神

ヴィシュヌは宇宙の秩序(ダルマ)を維持する神。青い肌、4本の腕に円盤(スダルシャナ・チャクラ)・棍棒・法螺貝・蓮華を持ち、ヘビの神シェーシャ(アナンタ)の上で横たわる姿が特徴です。

ヴィシュヌ神——青い肌の維持神、ヘビ王シェーシャの守護

世界が危機に陥ると、ヴィシュヌは10の化身(ダシャーヴァターラ)として地上に現れます。魚のマツヤ、亀のクールマ、猪のヴァラーハ、人獅子ナラシンハ、小人ヴァーマナ、そしてラーマ・クリシュナ・ブッダなど、インド神話の主役級キャラの多くが実はヴィシュヌの化身。国際的に最もファンが多いヒンドゥー教の神のひとりです。

ラーマもクリシュナもブッダも、全部ヴィシュヌの化身というのがすごいですよね。ヒンドゥー教の器の大きさを感じます。

03. シヴァ(Shiva)——破壊と再生の神

シヴァは「破壊」を司る神ですが、同時に再生・ヨーガ・瞑想・芸術の守護神でもあります。額の第三の目(破壊の目)、首に巻いたコブラ、三日月の髪飾り、タイガースキンの腰巻、三叉の槍トリシューラが特徴。乗り物は白い牛ナンディン。

シヴァ神——天から降るガンジス河を受け止める破壊神(ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ画)

シヴァには多彩な姿があり、宇宙のダンスを踊る「ナタラージャ(踊りの王)」や、首元に青い毒を溜めた「ニーラカンタ(青い喉)」など。この毒は乳海撹拌(サムドラ・マンタナ)で宇宙の危機を救うために自ら飲み込んだものです。配偶者はパールヴァティー、息子はガネーシャとスカンダ。ヨガ行者たちの信仰を集める偉大な神です。

【カテゴリ2】三女神トリデーヴィー(知恵・富・愛)

三大神の妻である「トリデーヴィー(三女神)」は、それぞれ知恵・富・愛を司ります。女性のエネルギー「シャクティ」を代表する存在で、ヒンドゥー教徒の家庭で特に大切にされている女神たちです。

04. サラスヴァティー(Saraswati)——学問と芸術の女神

サラスヴァティーはブラフマーの妻で、学問・音楽・詩・弁舌を司る女神。白い衣をまとい、楽器ヴィーナ(琵琶に似た弦楽器)を奏でる姿が典型的。手にはヴェーダ聖典と数珠、傍らには孔雀と白鳥。

サラスヴァティー——楽器ヴィーナを奏でる学問の女神(ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ画)

仏教にも取り入れられ、日本では「弁財天(弁天)」として広く知られています。関東の江ノ島神社、京都の天河神社など、日本でもサラスヴァティーの化身である弁財天を祀る神社は数多くあります。インドでは学生や芸術家が試験・発表会の前にお参りする、最も身近な女神のひとりです。

05. ラクシュミー(Lakshmi)——富と幸運の女神

ラクシュミーはヴィシュヌの妻で、富・美・幸運・繁栄を司る女神。4本の腕に蓮華を持ち、金貨を降らせる姿が有名です。乗り物はフクロウ、両脇に象がつき従います。

ラクシュミー——蓮華の上に立つ富と幸運の女神(ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ画)

インドでは毎年秋の「ディーワーリー(光の祭り)」でラクシュミーを祀り、家を掃除して灯明を灯し、女神が家に入ってきて富をもたらすよう願います。仏教では「吉祥天」として伝わり、日本でも奈良時代から信仰されてきました。現代インドのビジネスマンに最も人気の神のひとりで、商売繁盛のお守りとしても親しまれています。

06. パールヴァティー(Parvati)——愛と力の女神

パールヴァティーはシヴァの妻で、愛・家族・母性・山の力を司る女神。ヒマラヤ山脈の王の娘として生まれ、苦行を重ねてシヴァの心を射止めました。

パールヴァティー——息子ガネーシャと共にライオンに寄り添う愛の女神

パールヴァティーには多くの姿があり、怒りを解放すると戦いの女神ドゥルガー破壊の女神カーリーに変化します。優しい家庭の母としての顔と、魔を退治する戦士としての顔の両面を持つのが大きな特徴。息子はガネーシャとスカンダ。インドの家庭では「理想の妻・母」の象徴として尊敬されています。

パールヴァティーは普段は優しいけれど、怒ると一番怖いタイプの女神ですね。家族を想う母の愛の強さから来る怒りという設定がドラマチックです。

【カテゴリ3】ヴェーダの古代神々(自然の力を神格化)

ヒンドゥー教が成立する前、紀元前1500年頃のヴェーダ時代に信仰された古代神々。雷・火・風・太陽など自然現象を神格化した存在で、ギリシャ神話や北欧神話と共通するインド・ヨーロッパ系神話のルーツです。

07. インドラ(Indra)——神々の王、雷神

インドラはヴェーダ時代最高の神。雷霆ヴァジュラ(金剛杵)を操り、干ばつのドラゴン・ヴリトラを退治して世界に雨をもたらした戦いの英雄です。『リグ・ヴェーダ』全1028讃歌のうち約4分の1がインドラに捧げられた讃歌で、当時の信仰の中心でした。

インドラ——白象アイラーヴァタに乗る神々の王

乗り物は白象アイラーヴァタ、住居は天界アマラーヴァティー。仏教にも取り入れられ、日本では「帝釈天(たいしゃくてん)」として知られます。映画『男はつらいよ』の「フーテンの寅さん」が柴又帝釈天で有名になったように、日本にも深く根付いた神です。

08. アグニ(Agni)——火の神、神々への使者

アグニは火そのものを神格化した神。祭祀の火を通じて人間の祈りを神々に届ける「メッセンジャー」としての役割を持ちます。『リグ・ヴェーダ』の最初の讃歌はアグニに捧げられており、インドラに次ぐ重要神です。

アグニ——炎を背負い山羊に乗る火の神(ナンダラール・ボース画)

赤い肌、2つの顔(不滅と死滅の象徴)、7本の舌、乗り物は雄山羊メーシャ。日本の密教でも「火天(かてん)」として登場し、護摩焚きの儀式は本来アグニへの供物の名残と言われます。インドのヒンドゥー教徒は今も結婚式・火葬・祭祀の際にアグニへの祈りを捧げます。

09. ヴァーユ(Vayu)——風の神

ヴァーユは風・生命の息吹・呼吸を司る神。人間の肺の中の「気(プラーナ)」そのものとも同一視され、ヨガの呼吸法の守護神でもあります。

ヴァーユ——カモシカに乗る緑肌の風神

乗り物はカモシカ。インド神話ではハヌマーンの父とされ、「風の子ハヌマーン」と呼ばれる英雄の強大な力(空を飛ぶ・山を持ち上げる等)は、父ヴァーユから受け継いだものとされます。空気がないと生きていけない以上、ヴァーユは現代でも人々の生存に不可欠な神と考えられています。

10. スーリヤ(Surya)——太陽神

スーリヤは太陽を神格化した神。7頭の馬に引かれた戦車で毎日天空を駆け抜け、御者のアルナ(曙神)が手綱を握ります。4本の腕に蓮華を持ち、赤い肌と金色の髪を持つ若々しい姿で描かれます。

スーリヤ——7頭の馬が引く戦車で天空を駆ける太陽神

ヨーガの伝統的な準備運動「スーリヤ・ナマスカーラ(太陽礼拝)」はスーリヤ神への挨拶の動きです。日本でも朝の太陽に手を合わせる文化がありますが、インドでは4000年前からスーリヤを拝んできました。マハーバーラタの英雄カルナはスーリヤの息子として生まれた設定です。

11. ヤマ(Yama)——死と正義の神

ヤマは死者の国を司る神。人類で最初に死んだ者として、以後すべての死者を自分の王国に迎え入れる役目を負います。青い肌、水牛に乗り、手には縄パーシャ(魂を捕らえる)と棍棒ダンダ(罪人を裁く)を持ちます。

ヤマ——水牛に乗る死の神、魂を裁く正義の神

日本の「閻魔大王(えんまだいおう)」はヤマが仏教経由で伝わったもの。死後の審判で人の生前の行いを判断する、という基本設定はインドから日本まで共通です。仏教の「舌を抜かれる」という日本独自の脚色は後世のもの。インドのヤマは冷徹ながら公正な裁判官として描かれ、「運命」「時間」そのものと同一視されることもあります。

閻魔様のルーツがインドのヤマだったとは!神話って国境を超えて伝わっていくのが面白いです。

【カテゴリ4】シヴァ家族と強大な女神

三大神シヴァの家族と、その妻パールヴァティーの化身である強大な女神たち。インドの家庭で最も親しまれている「家族神話」の主役たちです。

12. ガネーシャ(Ganesha)——象頭の幸運の神

ガネーシャはシヴァとパールヴァティーの息子で、障害を取り除く・知恵・幸運・芸術を司る神。象の頭と人間の体、大きなお腹、4本の腕、片方の牙が折れているという特徴的な姿で、インドで最も人気のある神とも言われます。

ガネーシャ——ネズミに乗る象頭の幸運の神(ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ・プレス版)

興味深いのは乗り物(ヴァーハナ)がネズミ(ムーシカ)であること。大きな象神が小さなネズミに乗る姿は「どんな小さな存在も軽んじない」という教訓とも言われます。インドでは商売を始めるとき、結婚式、試験の前など、あらゆる「始まり」の儀式でガネーシャに祈りを捧げる習慣があります。日本では「歓喜天(聖天)」として伝わっています。

13. スカンダ(Skanda / Murugan)——軍神・戦争の神

スカンダは神々の軍を率いる最高司令官。シヴァとパールヴァティーの息子で、ガネーシャの弟にあたります。6つの顔と12本の腕を持ち、乗り物は孔雀。南インドでは「ムルガン」と呼ばれ、タミル地方で特に深く信仰されています。

スカンダ(ムルガン)——孔雀に乗る六面十二臂の軍神(ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ画)

スカンダは生まれながらの戦士で、誕生後すぐにアスラ(魔族)の王ターラカを倒したとされます。日本の仏教にも「韋駄天(いだてん)」として伝わり、足の速い神の代名詞になりました。大河ドラマ『いだてん』のタイトル元になった神でもあります。

14. ドゥルガー(Durga)——戦いの女神

ドゥルガーはパールヴァティーが怒りを解放した姿で、10本の腕にあらゆる神々の武器を持ち、ライオンに乗って魔族と戦う戦士の女神です。三大神でさえ倒せなかった水牛の魔王マヒシャースラを倒した伝説で有名。

ドゥルガー——ライオンを従えた戦いの女神(ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ画)

毎年秋に行われるベンガル地方の大祭「ドゥルガー・プージャー」は世界的にも有名。巨大なドゥルガー像が街中を練り歩き、最終日には川に流されます。2021年にはユネスコ無形文化遺産に登録されました。現代インド女性のエンパワーメントの象徴ともなっている女神です。

15. カーリー(Kali)——時と死の破壊女神

カーリーは「時間」「死」「破壊」を司る女神で、パールヴァティーの最も恐ろしい化身。黒い(または青い)肌、赤く長い舌、髑髏の首飾り、切断された手の腰巻という衝撃的な姿で描かれます。足元にはシヴァ神が寝そべり、彼女の狂暴さを鎮めています。

カーリー——青い肌に髑髏の首飾り、時と死を司る破壊女神(ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ画)

一見すると残虐な姿ですが、インドではカーリーは「すべてを破壊して新たな創造のスペースを作る母なる女神」として深く愛されています。カルカッタ(現コルカタ)の名はカーリーの街「カーリー・クシェトラ」に由来。怖い姿は表面的なもので、献身者を守る慈悲深い母としての顔が本質だと考えられています。

【カテゴリ5】ヴィシュヌの化身(ダシャーヴァターラ前半)

ヴィシュヌは世界が危機に陥るたびに10の化身(ダシャーヴァターラ)として地上に顕現します。ここでは前半5柱を紹介。後半のラーマとクリシュナは次のカテゴリで詳しく解説します。

16. マツヤ(Matsya)——魚の化身

マツヤはヴィシュヌ最初の化身で、巨大な魚の姿。世界を飲み込む大洪水の際、賢者マヌに方舟を作らせて人類と7人の聖仙、あらゆる生命の種子を救いました。

マツヤ——人間の上半身と魚の尾を持つ、ヴィシュヌ最初の化身

この洪水神話はノアの方舟や日本の『古事記』の洪水伝説と類似しており、世界各地の神話に共通するモチーフとして研究されています。マツヤは津波や洪水から守る神として、沿岸部の漁師に特に信仰されています。

17. クールマ(Kurma)——亀の化身

クールマはヴィシュヌの2番目の化身で、巨大な亀の姿。有名な「乳海撹拌(サムドラ・マンタナ)」の神話で、神々とアスラが不死の飲物アムリタを得るために乳海をかき回す際、海底に沈んだマンダラ山を自分の甲羅で支えました。

クールマ——亀の甲羅でマンダラ山を支えるヴィシュヌ第2の化身(寺院彫刻)

乳海撹拌の神話はカンボジアのアンコールワットの巨大な浮き彫りレリーフでも有名。神話の壮大さがインド文化圏全体に広まった代表例で、東南アジアの神殿芸術にも深い影響を与えています。

18. ヴァラーハ(Varaha)——猪の化身

ヴァラーハはヴィシュヌ3番目の化身で、猪の頭を持つ巨体の戦士。アスラの王ヒラニヤークシャが地球(大地の女神ブーミ・デーヴィー)を宇宙の海に沈めた際、猪の姿になって海に潜り、大地を牙で持ち上げて救いました。

ヴァラーハ——猪頭のヴィシュヌの化身(カジュラホ寺院彫刻)

インドのカジュラホ寺院群やウダヤギリ石窟寺院の巨大なヴァラーハ像は、4〜5世紀のグプタ朝時代に作られた傑作。多くの寺院で目にする人気の姿で、大地や環境を守護する神としての側面から、現代では「地球を救う神」として環境運動のシンボルにもなっています。

19. ナラシンハ(Narasimha)——人獅子の化身

ナラシンハはライオンの頭・人間の体を持つ4番目の化身。「人間でも獣でもない」「昼でも夜でもない」「屋内でも屋外でもない」存在によってのみ倒されるという不死の加護を受けた魔王ヒラニヤカシプを、黄昏時・戸口の敷居の上・人獅子の姿で撃破しました。

ナラシンハ——人獅子の姿をしたヴィシュヌ第4の化身(19世紀民族画)

「あらゆる抜け穴を突いて問題を解決する知恵」の象徴として愛され、特に南インドのアーンドラ州で広く信仰されています。凶暴な姿ですが、信者のプラフラーダ王子を守った慈悲深い神として知られ、バクティ(信愛)の精神と結びついた神です。

20. ヴァーマナ(Vamana)——小人の化身

ヴァーマナは5番目の化身で、小さな婆羅門(バラモン)僧の姿。地上を征服した善王マハーバリに対し、「3歩で歩ける範囲の土地」を請うた後、巨大化して1歩目で地上、2歩目で天界を覆い、マハーバリを地下世界に封じ込めました。

ヴァーマナ——巨大化する小人の姿をした第5の化身(石像)

この神話は南インドのケーララ州では「オーナム祭」として毎年祝われます。マハーバリが年に一度地下から戻ってくる、という設定で、ケーララ州最大の祭典になっています。「約束を守る賢さ」と「謙虚さ」の象徴で、ビジネスや交渉の知恵の神としても人気です。

1歩で地上、2歩で天界を覆うって、サイズ感の振れ幅が激しくてインド神話らしい発想ですね!

【カテゴリ6】叙事詩の英雄——ラーマーヤナとマハーバーラタ

インド二大叙事詩『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』に登場する英雄たち。ヴィシュヌの化身ラーマ・クリシュナ、猿神ハヌマーン、そしてパーンダヴァ五兄弟が主役です。

21. ラーマ(Rama)——正義の理想王、ヴィシュヌ第7の化身

ラーマはヴィシュヌの7番目の化身で、叙事詩『ラーマーヤナ』の主人公。アヨーディヤー王国の王子として生まれ、父王の誓いのために14年間森に追放され、その間に妻シーターを魔王ラーヴァナに誘拐されます。猿神ハヌマーンの助けを得てランカ島でラーヴァナを倒し、シーターを取り戻しました。

ラーマ——青肌のヴィシュヌ第7の化身とハヌマーン(ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ画)

ラーマは「ダルマ(正義)の化身」として、インドで最も尊敬される英雄の一人。凱旋帰還した日はヒンドゥー暦の「ディーワーリー(光の祭典)」のルーツになっています。モーハンダース・ガンディーは死ぬ瞬間に「ヘー・ラーム(おおラーマよ)」と呟いたと伝えられ、現代インドの倫理観の象徴でもあります。

22. ハヌマーン(Hanuman)——忠誠と怪力の猿神

ハヌマーンはラーマに仕える忠実な猿神。風神ヴァーユの息子で、空を飛ぶ・山を持ち上げる・身体のサイズを自由に変えるなど超人的な力を持ちます。ラーマがシーター奪還に向かう際、ランカ島まで海を飛び越えて情報を集め、戦いを勝利に導きました。

ハヌマーン——薬草の山を丸ごと持ち上げる猿神(ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ・プレス版)

ハヌマーンは忠誠心・勇気・無私の奉仕の象徴。戦いで負傷したラクシュマナを救うため、薬草のある山を丸ごと持ち上げてヒマラヤから運んだエピソードは特に有名です。中国の『西遊記』に登場する孫悟空のモデルとも言われ、アジア各地の猿神信仰のルーツになっています。

23. クリシュナ(Krishna)——愛と知恵の英雄、ヴィシュヌ第8の化身

クリシュナはヴィシュヌの8番目の化身で、『マハーバーラタ』に登場する最重要キャラクター。青い肌、孔雀の羽根の冠、フルート(バーンスリー)を吹く姿が有名。幼少期は牛飼いとして育ち、美男子として数々の恋愛エピソードを残しました。

クリシュナ——マハーバーラタの青肌のヴィシュヌ第8の化身(ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ画)

『マハーバーラタ』ではアルジュナ王子の御者となり、戦場で戦意を失った彼に人生とダルマ(正義)の教えを説きました。その教えは『バガヴァッド・ギーター』としてヒンドゥー教最高の聖典の一つに数えられ、「為すべき行動を結果にとらわれずに行う」という思想はガンディーをはじめ世界中の思想家に影響を与えています。

24. アルジュナ(Arjuna)——最強の弓の達人

アルジュナはマハーバーラタの主役級の英雄で、パーンダヴァ五兄弟の三男。雷神インドラの息子とされ、弓の名手として知られます。あらゆる武器に精通し、三大神シヴァ本人からも「パーシュパタ」と呼ばれる究極の武器を授かった唯一の人間。

アルジュナとスバドラー——パーンダヴァ三男の弓の名手(ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ画)

クリシュナの親友・義弟(妻スバドラーはクリシュナの妹)として、カウラヴァ百兄弟との戦い「クルクシェートラの戦い」の主役を務めます。戦場で親族と戦うことに迷うアルジュナに対し、クリシュナが説いた教えが『バガヴァッド・ギーター』。迷いから立ち上がる普遍的な英雄像として、現代インドでも愛され続ける存在です。

25. ビーマ(Bhima)——怪力のパーンダヴァ次兄

ビーマはパーンダヴァ五兄弟の次男で、怪力の持ち主。風神ヴァーユの息子(つまりハヌマーンとは異母兄弟)。巨大なこん棒(ガダ)の使い手で、一撃で象を倒す・山を引き裂くほどの怪力を誇ります。

ビーマ——怪力のパーンダヴァ次兄、魔王バカースラを倒す(ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ・プレス版)

大食漢としても有名で、一度に通常の16倍の食事を摂ったという伝説も。魔王バカースラやキーチャカを退治したエピソードが特に有名で、戦士としての勇敢さと純粋な性格から、パーンダヴァの中でも特に親しまれるキャラクター。現代インドの漫画やTVシリーズでも人気の英雄です。

【カテゴリ7】聖なる動物と魔族

インド神話の世界を彩る動物ヴァーハナ(神の乗り物)と、英雄たちに立ち向かう魔族たち。それぞれが神話の中で重要な役割を担っています。

26. ガルダ(Garuda)——ヴィシュヌの神鳥

ガルダは鷲の頭と翼を持つ巨大な神鳥で、ヴィシュヌの乗り物(ヴァーハナ)。蛇族ナーガの天敵で、常に蛇を踏みつけた姿で描かれます。空を飛び、蛇を食らい、速さは太陽にも追いつくとされる伝説の鳥。

ガルダ——ヴィシュヌと妃たちを背に飛翔する神鳥(ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ・スタジオ版)

仏教にも取り入れられ、日本では「迦楼羅(カルラ)」として知られます。インドネシアの国章とガルーダ・インドネシア航空の象徴でもあり、東南アジア全体で国家のシンボルとして使われるほど影響力を持つ存在。タイ王国の国章にも使われています。

27. ナンディン(Nandi)——シヴァの聖なる牡牛

ナンディンは白い牡牛で、シヴァ神の乗り物兼門番。シヴァ寺院には必ずナンディンの像があり、本殿のシヴァを向いて座っています。静かで忠実、シヴァの最側近として信仰されています。

ナンディン——シヴァとパールヴァティーを乗せる白牛

インドでは牛が神聖な動物とされる理由の一つがナンディン信仰。シヴァ寺院を訪れる参拝者は、まずナンディンに願い事を伝え、シヴァに取り次いでもらうという習慣があります。インド南部のタンジャーヴール・ブリハディーシュワラ寺院の巨大なナンディン石像(全長約6メートル)は世界遺産に登録されています。

28. アイラーヴァタ(Airavata)——インドラの白象

アイラーヴァタはインドラの乗り物である白く巨大な象。4本の牙、7本の鼻を持つ(伝承により異なる)神聖な象で、乳海撹拌の際に海から生まれ、インドラのもとに献上されました。雷雨を呼び、雲を作り出す力を持つとされます。

アイラーヴァタ——インドラが乗る神聖な白象(アムリトサル壁画)

タイ王国の「エラワン」はアイラーヴァタのタイ語訛りで、バンコクの有名なエラワン廟や「白象」がタイ文化の象徴になっていることからも影響の大きさが伺えます。バンコクのエラワン博物館には巨大な三頭アイラーヴァタ像があり、世界各地からの観光客が訪れます。

29. ラーヴァナ(Ravana)——十首の魔王、ラーマの宿敵

ラーヴァナは10の頭と20本の腕を持つランカ島の魔王。ラーマの妻シーターを誘拐し、『ラーマーヤナ』最大の敵役として登場します。だが単なる悪役ではなく、学識豊かな大学者でもあり、シヴァ神の熱心な信者でもあったという複雑な人物。

ラーヴァナ——10頭20臂の魔王(大英博物館象牙彫刻)

ラーヴァナの出身地ランカ島は現在のスリランカと同一視されており、スリランカには「ラーヴァナ王の宮殿」とされる遺跡も残っています。インドの祭り「ダシャラー(Vijayadashami)」では、ラーマがラーヴァナを倒した日を祝い、巨大なラーヴァナ像を燃やすイベントが全国で行われます。

30. ヴリトラ(Vritra)——雨を塞ぐドラゴン

ヴリトラは大地を干ばつに陥れた巨大な竜神。天の水を自分の体で塞ぎ込み、雨を降らせなかったため、世界は荒廃しました。雷神インドラが雷霆ヴァジュラでヴリトラを退治し、世界に雨をもたらした——これが『リグ・ヴェーダ』最大の英雄神話です。

ヴリトラ——天の水を塞ぐ蛇神、インドラと戦ったヴェーダの最大の敵

ヴリトラの名は「覆い隠す者」という意味で、雨雲や冬の寒さなど自然の障害を象徴します。インド・ヨーロッパ語族の神話に共通する「雷神が竜を倒して水をもたらす」モチーフの原型で、北欧神話のトールとヨルムンガンド、ギリシャ神話のゼウスとテュポーンとも同じ系譜です。

ドラゴン退治の神話が世界中にあるって、人類共通のロマンですよね。インドラが元祖とも言えそうです。

まとめ——インド神話の豊かな世界

インド神話は4000年以上の歴史を持つ世界最古級の神話体系。三大神トリムルティから始まり、10の化身・叙事詩の英雄・強大な女神・聖なる動物・魔族まで、登場する神々の多様性は他の神話を圧倒します。

  • ヴェーダ時代の自然神(インドラ・アグニ・ヴァーユ・スーリヤ・ヤマ)は、ギリシャ・北欧・日本神話と同じインド・ヨーロッパ系神話のルーツ
  • 三大神(ブラフマー・ヴィシュヌ・シヴァ)と三女神(サラスヴァティー・ラクシュミー・パールヴァティー)が宇宙の創造・維持・破壊を司る
  • ヴィシュヌは10の化身として地上に顕現し、ラーマやクリシュナなど叙事詩の主役として活躍
  • 象頭のガネーシャ、猿神ハヌマーン、白象アイラーヴァタなど、動物モチーフの神が非常に豊か
  • 仏教・ヒンドゥー教を通じて日本・東南アジア・西洋にまで影響を与え続けている

ヨガ、インド映画『RRR』、カンボジアのアンコールワット、タイのエラワン廟——現代のあらゆる場面でインド神話の神々は今も生き続けています。この記事をきっかけに、奥深いインド神話の世界に触れていただければ幸いです。

ヴィシュヌの10化身(ダシャーヴァターラ)——ラジャ・ラヴィ・ヴァルマ・プレス版

補足
紹介した神々はインド神話のごく一部です。ヒンドゥー教にはクベーラ(富の神)、ヴァルナ(水の神)、ガンガー(ガンジス河の女神)、カーマ(愛の神)など、まだまだ魅力的な神々が多数います。興味を持った方はぜひ名古屋大学OpenCourseWareの解説や、新・アルテック社『いちばんわかりやすいインド神話』などの入門書をご覧ください。