
この記事では、古代ローマのシーザー暗号から、第二次世界大戦のエニグマ、そしていまだに解読されていない謎の暗号まで、世界の有名な暗号を30個厳選して紹介します。
それぞれの暗号がどんな仕組みで、どんな歴史的背景を持っているのかを丁寧に解説していきますので、暗号の世界をぜひ楽しんでいってください。
目次
古代の暗号(紀元前〜5世紀)

1. スキュタレー暗号(古代スパルタ)
紀元前7世紀頃の古代スパルタで使われていた、世界最古の暗号の一つです。細長い革の帯を特定の太さの棒に巻きつけ、横書きでメッセージを書くという仕組みでした。
帯を棒から外すと文字がバラバラになり、同じ太さの棒を持っている味方だけがメッセージを読めるという原理です。古代ギリシャの歴史家プルタルコスがこの暗号について記録を残しています。
現代の暗号学では「転置式暗号」に分類されます。文字そのものは変えず、並び順を変えるという発想は、シンプルながら実に巧みです。
2. シーザー暗号(古代ローマ・紀元前1世紀)
暗号の中で最も有名と言っても過言ではないのがシーザー暗号です。古代ローマの軍事指導者ガイウス・ユリウス・カエサルが軍事通信に使用したことから、この名前がつきました。
仕組みは非常にシンプルで、アルファベットを一定の数だけずらして置き換えるというものです。カエサルは3文字ずらしを好んだとされ、例えば「A」は「D」に、「B」は「E」に変換されます。
現代では数秒で解読できてしまいますが、当時は文字の読み書きができる人自体が少なかったため、この程度の暗号でも十分に機能したと考えられています。
3. ポリュビオスの暗号格子(古代ギリシャ・紀元前2世紀)
古代ギリシャの歴史家ポリュビオスが考案した暗号で、5×5のマス目にアルファベットを配置し、各文字を行番号と列番号の2つの数字で表現するものです。
例えば「A」は「11」、「B」は「12」のように変換されます。この暗号は松明の組み合わせで遠隔通信にも使えたため、古代の「テレグラフ」とも呼ばれています。
後にこの原理はプレイフェア暗号やADFGVX暗号など、より高度な暗号の基礎として発展していきました。暗号史における重要な基盤技術と言えるでしょう。
4. アトバシュ暗号(ヘブライ語・紀元前6世紀頃)
旧約聖書の中にも登場する古代ヘブライの暗号です。ヘブライ語のアルファベットの最初の文字と最後の文字を入れ替え、2番目と最後から2番目を入れ替え…という「鏡映し」の置換を行います。
名前の由来は、ヘブライ語の最初の文字「アレフ(א)」と最後の「タヴ(ת)」、2番目の「ベット(ב)」と最後から2番目の「シン(ש)」を組み合わせた「アトバシュ」です。
エレミヤ書の中で「ゼゼク」がバビロンを意味する暗号として使われていたとされます。宗教文書にまで暗号が使われていたというのは、暗号がいかに古くから人類に親しまれてきたかを示しています。
5. ステガノグラフィ(古代ギリシャ・紀元前5世紀)
暗号とは少し違いますが、メッセージの存在自体を隠す技術として歴史に名を刻んでいるのがステガノグラフィです。
最も有名なエピソードは、ペルシア戦争の際にギリシャの僭主ヒスタイオスが、信頼できる奴隷の頭を剃り、そこにメッセージを刺青し、髪が伸びてから送り出したというものです。歴史家ヘロドトスが記録しています。
また、見えないインクで書く方法(レモン汁など)も古代から使われていました。現代でもデジタルステガノグラフィとして、画像データの中にメッセージを隠す技術が存在します。

近世〜近代の暗号(16〜19世紀)

6. ヴィジュネル暗号(16世紀・フランス)
フランスの外交官ブレーズ・ド・ヴィジュネルが1586年に発表した暗号で、「解読不能の暗号」(le chiffre indéchiffrable)という異名を持ちます。
シーザー暗号が「固定のずらし幅」を使うのに対し、ヴィジュネル暗号はキーワードを使って文字ごとにずらし幅を変えるのが画期的でした。例えばキーワードが「KEY」なら、1文字目は10、2文字目は4、3文字目は24ずらすといった具合です。
このため、単純な頻度分析では解読できず、なんと約300年間にわたって暗号学者を苦しめ続けました。1863年にプロイセン軍の将校フリードリッヒ・カシスキが攻略法を発見するまで、文字通り「解読不能」だったのです。
7. メアリー・スチュアートの暗号(16世紀・スコットランド)
スコットランド女王メアリー・スチュアートは、イングランド女王エリザベス1世を暗殺する陰謀に関与した際、換字式暗号と記号を組み合わせた暗号文で共謀者と連絡を取り合いました。
しかし、エリザベス1世のスパイマスターであるフランシス・ウォルシンガムが、暗号解読者トマス・フェリッペスにこの暗号を解読させることに成功します。
解読された暗号文はメアリーの有罪の決定的な証拠となり、1587年に彼女は処刑されました。暗号の解読が一人の女王の命を奪った、暗号史上最もドラマチックな事件の一つです。
8. ベーコンの暗号(17世紀・イギリス)
哲学者フランシス・ベーコンが1605年に考案した暗号で、現代のコンピュータで使われる二進法の先駆けとも言える画期的なものでした。
各アルファベットを「a」と「b」の5文字の組み合わせで表現します。例えば「A」は「aaaaa」、「B」は「aaaab」、「C」は「aaaba」…といった具合です。
さらにベーコンは、通常の文章の中の文字のフォントを微妙に2種類使い分けることで、暗号メッセージを一見普通の文章の中に隠すことができました。これはステガノグラフィとの融合とも言えます。
9. グレートシファー(17世紀・フランス)
フランスのルイ14世に仕えたロシニョール父子が開発した暗号で、約200年間にわたって解読を阻み続けた強力な暗号です。
587個の数字がそれぞれ異なる音節・単語・フレーズに対応するという膨大なコードブックを使用しました。さらに、意味のない「ダミー数字」も混ぜることで解読を困難にしていました。
1893年にフランスの暗号学者エティエンヌ・バゼリーズが3年の歳月をかけてようやく解読に成功。その結果、鉄仮面の男の正体に関する文書など、フランス歴史上の謎を解く重要な情報が明らかになりました。
10. プレイフェア暗号(19世紀・イギリス)
1854年にチャールズ・ホイートストンが発明し、友人のライアン・プレイフェア男爵が英国政府に推奨したことからこの名前がつきました。2文字を1組にして暗号化する点が画期的でした。
5×5のマス目にキーワードを元にアルファベットを配置し、2文字ずつの組を暗号化ルールに従って変換します。1文字ずつ暗号化する従来の方式より格段に強力で、ボーア戦争や第一次世界大戦で実際に使用されました。
しかし、第二次世界大戦までには解読技術が追いつき、より高度な暗号に取って代わられることになります。

世界大戦を変えた暗号(20世紀前半)

11. ツィンメルマン電報(第一次世界大戦・1917年)
1917年1月、ドイツの外務大臣アルトゥール・ツィンメルマンがメキシコに送った暗号電報が、第一次世界大戦の流れを決定的に変えました。
電報の内容は「アメリカが参戦した場合、ドイツはメキシコと同盟してアメリカを攻撃する。見返りにテキサス・ニューメキシコ・アリゾナをメキシコに返還する」というものでした。
イギリスの暗号解読機関「ルーム40」がこの電報を解読し、アメリカに伝達。これがアメリカの第一次世界大戦参戦の直接的なきっかけの一つとなりました。暗号の解読が世界史を動かした瞬間です。
12. ADFGVX暗号(第一次世界大戦・ドイツ)
1918年にドイツ軍が西部戦線で使用した暗号で、ポリュビオスの暗号格子と転置式暗号を二重に組み合わせた高度な暗号です。
名前の由来は、暗号文に使用されるのが「A, D, F, G, V, X」の6文字だけだったことに由来します。これらの文字はモールス信号で互いに間違えにくいという実用的な理由で選ばれました。
フランスの暗号解読者ジョルジュ・パンヴァンが、数週間の激闘の末に解読に成功。1918年6月のドイツ軍の大攻勢を事前に察知し、連合軍の勝利に大きく貢献しました。
13. エニグマ暗号(第二次世界大戦・ナチスドイツ)
暗号史上最も有名な暗号機がエニグマです。1918年にドイツの発明家アルトゥール・シェルビウスが発明し、1920年代からドイツ軍が正式採用しました。
エニグマの強みは、3〜4枚の回転するローターと配線盤の組み合わせにより、約1.6×10の19乗通り(1京6000兆通り)もの設定パターンが存在した点です。毎日設定が変わるため、仮に1日分を解読しても翌日にはまた振り出しに戻ってしまいます。
この暗号の解読には、ポーランドの数学者マリアン・レイェフスキの先駆的な研究と、イギリスのブレッチリー・パークに集められた天才たち、特にアラン・チューリングの貢献が決定的でした。チューリングは「ボンベ」と呼ばれる電気機械式の解読装置を開発し、エニグマの日々の設定を効率的に割り出すことに成功します。
14. ナバホ・コードトーカー(第二次世界大戦・アメリカ)
アメリカ海兵隊が太平洋戦争で活用した、ナバホ族の言語をベースにした暗号通信です。ナバホ語は文字を持たない口承言語で、文法が極めて複雑なうえ、部族外の話者がほぼ存在しなかったため、事実上解読不可能でした。
約400人のナバホ族の兵士がコードトーカーとして従軍し、硫黄島の戦いなど重要な作戦で暗号通信を担当しました。硫黄島では上陸後48時間で800以上の暗号メッセージを伝達し、1つもエラーがなかったと記録されています。
日本軍はこの暗号を最後まで解読できませんでした。機械ではなく「言語そのもの」を暗号として使うという発想は、暗号史において非常にユニークな位置を占めています。
15. パープル暗号(第二次世界大戦・日本)
日本の外務省が使用した暗号機「九七式欧文印字機」を、アメリカ側がコードネーム「パープル」と呼んだものです。
アメリカの暗号解読チーム「SIS(Signal Intelligence Service)」の天才暗号学者ウィリアム・フリードマンが率いるチームが、実物を一度も見ることなくパープル暗号の解読に成功しました。彼らは解読結果から暗号機の構造を推定し、同等の機能を持つレプリカまで作り上げたのです。
この解読は「マジック」と呼ばれる情報源となり、日本の外交通信を読み取ることでアメリカの戦略立案に大きく貢献しました。ただし、真珠湾攻撃を事前に防げなかった点については、現在でも歴史家の間で議論が続いています。

いまだ解読されていないミステリー暗号

16. ヴォイニッチ手稿(15世紀?・出所不明)
世界で最も謎めいた書物と呼ばれるヴォイニッチ手稿は、1912年にポーランドの古書商ウィルフリッド・ヴォイニッチが発見した約240ページの手稿です。
未知の文字体系で書かれ、奇妙な植物・天体図・裸の人物像などの挿絵が描かれています。放射性炭素年代測定により、15世紀初頭(1404〜1438年頃)に羊皮紙が作られたことが判明していますが、内容は一切解読されていません。
AIによる解読の試みも行われていますが、そもそも既知のどの言語とも一致しないため、「実は意味のない偽文書なのでは?」という説も根強くあります。現在はイェール大学のバイネッキ希少本図書館に所蔵されています。
17. クリプトス(1990年・アメリカ CIA本部)
アメリカCIA本部の中庭に設置された芸術家ジム・サンボーンの彫刻作品「クリプトス」には、4つの暗号文が刻まれています。
1990年の設置以来、CIA職員やNSAの暗号専門家が挑戦し、第1〜第3パートは解読されましたが、第4パート(K4)の97文字はいまだに解読されていません。世界中の暗号マニアやコンピュータ科学者が挑戦を続けていますが、30年以上経った今も謎のままです。
サンボーン自身は2020年にK4の平文のうち6文字が「BERLIN」であることを唯一のヒントとして公表しましたが、完全解読には至っていません。
18. ゾディアック暗号(1969年・アメリカ)
1960年代後半にサンフランシスコ周辺で活動した連続殺人犯「ゾディアック・キラー」が、新聞社や警察に送りつけた4種類の暗号文です。
最も有名な「Z408暗号」は1969年に高校教師の夫婦によって解読されましたが、「Z340暗号」は51年間にわたって未解読のままでした。2020年にようやく、アマチュア暗号解読者3人のチームがコンピュータを駆使して解読に成功します。
しかし残りの「Z13暗号」と「Z32暗号」はいまだ未解読で、ゾディアック・キラーの正体とともに謎のまま残されています。犯人は現在も特定されていません。
19. ビール暗号(19世紀・アメリカ)
1885年に出版された小冊子に収録された3つの暗号文で、バージニア州に埋められたとされる莫大な財宝の場所を示しているとされます。
暗号は3つのパートからなり、第2暗号のみがアメリカ独立宣言を鍵として解読されました。その内容は「金・銀・宝石を含む財宝が特定の場所に埋められている」というもの。しかし、場所を示す第1暗号と内容の詳細を示す第3暗号は未解読のままです。
そもそもこの暗号自体が創作であるという説も有力で、「財宝伝説を利用した小冊子の売り込み」だった可能性も指摘されています。真偽はともかく、暗号マニアを引きつけ続けるロマンある謎です。
20. ファイストスの円盤(紀元前17世紀頃・クレタ島)
1908年にクレタ島のファイストス宮殿遺跡で発見された粘土製の円盤で、直径約16cmの両面に45種類の記号がらせん状に刻まれています。
記号はスタンプのような型で押されており、これは世界最古の「活版印刷」の一例とも言われています。しかし、同じ記号体系を持つ他の遺物が発見されていないため、比較対象がなく解読が極めて困難です。
ミノア文明の言語で書かれた宗教的なテキスト、暦、あるいは音楽の楽譜など、さまざまな仮説が提唱されていますが、どれも決定的な証拠に欠けます。暗号というより「未知の言語」ですが、人類最古級の解読不能テキストとして暗号史に名を連ねています。

日本の暗号の歴史

21. 上杉暗号(戦国時代・16世紀)
戦国武将の上杉謙信が使用したとされる暗号で、48種類の記号で文字を置き換える換字式暗号でした。この暗号表は「上杉暗号」として現在も記録が残っています。
戦国時代の日本では、合戦の情報が敵に漏れることは致命的だったため、武将たちは独自の暗号を発達させていました。上杉暗号はその中でも体系的に整備されたものとして知られています。
興味深いことに、西洋の換字式暗号と同時期に、日本でも独自に同じ原理の暗号が生まれていたのです。
22. 忍者の暗号術(戦国時代〜江戸時代)
忍者は多彩な暗号技術を駆使していたことが、忍術書の記録から明らかになっています。中でも有名なのが「五色米」です。
赤・青・黄・黒・紫の5色に染めた米粒を、特定の順番で並べることでメッセージを伝達しました。米粒なので、見つかっても暗号とは気づかれにくいというステガノグラフィの要素も持ち合わせていました。
他にも、特定の花を組み合わせて情報を伝える「花暗号」や、刀の鍔の模様に暗号を仕込む方法なども伝承されています。忍者は暗号の達人でもあったのです。
23. 薩摩藩の暗号(幕末・19世紀)
幕末の動乱期、薩摩藩は倒幕運動の密書を守るために独自の暗号を使用していました。特に有名なのが、いろは歌をベースにした暗号です。
いろは48文字に数字を対応させた暗号表を作成し、藩士間の秘密通信に使用しました。さらに、ダミーの文字を混ぜたり、暗号表自体を定期的に変更したりする工夫もされていたと伝えられています。
西郷隆盛や大久保利通の密書にもこうした暗号が使われていた可能性があり、明治維新を陰で支えた技術と言えるかもしれません。
24. 日本海軍暗号JN-25(第二次世界大戦)
日本海軍が使用した主力暗号「JN-25」は、約33,000語のコードブックと、数字の加算による二重暗号化を組み合わせた強力な暗号でした。
しかしアメリカ海軍の暗号解読チームが、パターン分析と膨大な暗号文の蓄積により、部分的な解読に成功します。この解読情報は、1942年のミッドウェー海戦において決定的な役割を果たしました。
日本軍は暗号の漏洩を完全には把握しておらず、コードブックの更新を適切に行わなかったことが、暗号の弱体化を招いたとされています。情報セキュリティの重要性を物語る歴史です。
25. 日本陸軍の「暗号名・紫」
前述のパープル暗号とは別に、日本陸軍も独自の暗号体系を持っていました。陸軍の暗号は海軍のJN-25とは異なる体系で、手動の暗号表による暗号化が主流でした。
興味深いのは、日本の陸軍と海軍がそれぞれ別の暗号を使い、互いに情報共有が不十分だったという点です。これは組織間の縦割り構造が暗号運用にも影響した例であり、暗号技術だけでなく運用体制の重要性を示す教訓となっています。
連合国側は陸海軍の暗号の違いを利用して情報を分析し、より正確な情報を得ることに成功しました。
暗号にまつわる驚きの雑学

26. アラン・チューリングの功績と悲劇
エニグマ解読の立役者アラン・チューリングは、暗号解読だけでなく「コンピュータ科学の父」としても知られる天才数学者です。現代のコンピュータの理論的基礎を築いた「チューリングマシン」の考案者でもあります。
しかし戦後、同性愛者であることを理由に逮捕され、化学的去勢を強制されました。1954年に41歳で亡くなりますが、死因は青酸カリを塗ったリンゴによる自殺とされています。
2013年にエリザベス2世からの恩赦が出され、2019年にはイングランド銀行の50ポンド紙幣にチューリングの肖像が採用されました。功績の正当な評価まで、実に半世紀以上を要したのです。
27. 暗号解読が戦争を2年縮めた?
エニグマ解読を中心とした連合国の暗号解読活動は、第二次世界大戦を少なくとも2年短縮したと推定されています。これは歴史家ハリー・ヒンズリーの分析によるものです。
2年間の短縮がなければ、さらに数百万人の命が失われていた可能性があり、暗号解読は文字通り「世界を救った」と言えるかもしれません。
ブレッチリー・パークには最大時で約1万人のスタッフが勤務しており、その中には多くの女性も含まれていました。暗号解読は一人の天才だけでなく、大勢の協力によって成し遂げられたチーム作業でした。
28. 現代のパスワードも暗号の子孫
私たちが毎日使っているパスワードやPINコードも、広い意味では暗号技術の一種です。現代のウェブサイトでは、パスワードは「ハッシュ関数」という一方向の暗号化技術で保存されています。
ハッシュ関数はパスワードを不可逆的に変換するため、仮にデータベースが流出しても元のパスワードを復元することは理論上できません。これもシーザー暗号から続く暗号技術の進化の到達点と言えます。
ちなみに、世界で最も多く使われているパスワードは「123456」で、これは「暗号をかけていない」に等しいレベルです。古代ローマ人のシーザー暗号のほうがまだ安全かもしれません。

29. 量子暗号は「物理法則で守られる暗号」
現代の暗号の最前線にあるのが量子暗号です。量子力学の原理を利用しており、盗聴しようとすると量子状態が変化するため、盗聴の試み自体が検知されるという特性を持っています。
つまり、数学的な難しさではなく「物理法則そのもの」が安全性を保証する暗号なのです。これはシーザー暗号から2000年以上かけてたどり着いた、暗号技術の究極の到達点と言えるかもしれません。
日本でも東芝や情報通信研究機構(NICT)が量子暗号通信の実用化に向けた研究を進めており、すでに一部の分野では実用化が始まっています。
30. 世界最大の暗号コンテスト「GCHQ Christmas Puzzle」
イギリスの情報機関GCHQ(政府通信本部)は、毎年クリスマスに一般向けの暗号パズルを公開しており、これが世界最大級の暗号コンテストとなっています。
2015年に初めて公開されたパズルには、60万人以上が挑戦したとされ、その難易度は素人から暗号専門家まで幅広く楽しめるように設計されています。
正解者には「GCHQからの手紙」が届くこともあり、暗号の世界を一般に広める活動として高い評価を受けています。暗号は今やスパイだけのものではなく、誰でも楽しめるパズルでもあるのです。

まとめ
古代スパルタのスキュタレーから量子暗号まで、暗号の歴史はまさに人類の知恵の歴史そのものです。
暗号は戦争の勝敗を左右し、女王の命を奪い、連続殺人犯の正体を追い、そして現代では私たちの個人情報やオンライン通信を守っています。
この記事で紹介した30の暗号の中には、いまだに解読されていないものもあります。ヴォイニッチ手稿やクリプトスのK4パート、ビール暗号は、あなたの挑戦を待っているかもしれません。
暗号の世界に興味を持った方は、まずシーザー暗号やポリュビオス暗号など、シンプルなものから試してみてはいかがでしょうか。暗号を「作る側」と「破る側」の両方を体験すると、その奥深さがより実感できるはずです。

