「北欧神話」と聞いて、雷神トールや世界の終焉ラグナロクをイメージする方は多いのではないでしょうか。マーベル映画「ソー」の影響で名前だけは知っていても、神々の関係や世界観はよく分からない…という方に向けて、本記事では北欧神話に登場する神々・怪物・英雄25名を画像付きで徹底解説します。
北欧神話はスカンディナビア半島・アイスランド・デンマーク・ドイツ北部に暮らした北方ゲルマン人たちに伝わる神話体系です。主な資料は13世紀アイスランドで編纂された『古エッダ』『新エッダ(スノッリのエッダ)』で、これらに収録された古詩や散文にオーディンやトールらの物語が記されています。
登場する神々は大きくアース神族とヴァン神族の2系統に分かれ、神々の敵として巨人族(ヨトゥン)や怪物たちが対立します。本記事ではアース神族12柱・ヴァン神族3柱・英雄と戦乙女2人・怪物6体・世界の仕組み2項目の合計25名を、古典絵画とともに紹介していきましょう。

目次
北欧神話の基礎知識と世界観
本編に入る前に、北欧神話の世界観をざっくり押さえておきましょう。
北欧神話の世界は巨大な世界樹「ユグドラシル」によって九つに分かれているとされます。神々が住むアースガルズ、人間が住むミッドガルズ、巨人が住むヨトゥンヘイム、死者が赴くヘルヘイムなどがあり、ユグドラシルの根や枝によって互いに結ばれています。
神々は主に二つの部族に分かれます。戦争と秩序を司るアース神族(オーディン・トールら)と、豊穣と自然を司るヴァン神族(ニョルズ・フレイ・フレイヤら)です。両者はかつて戦争を経た後に和解し、人質交換によって一つの神々の集団として共に暮らすようになりました。
北欧神話を特徴付けるもう一つの大きな要素が、世界の終末「ラグナロク」です。ギリシャ神話などと違い、北欧神話では神々自身が滅びの運命から逃れられず、最終戦争で多くが命を落とします。しかし世界は完全に滅びるわけではなく、再生して新しい時代が訪れる…という希望も併せ持つのが北欧神話の独特な魅力です。
アース神族の主要な神々12柱
アース神族は戦争・秩序・法・知恵を司る神々の一族です。アースガルズと呼ばれる天上の都市に住み、オーディンを長として結束しています。
1. オーディン(Odin)|神々の父にして最高神

北欧神話における最高神であり、アース神族全体を統率する神々の父です。戦争と死・魔術と知識・詩歌を司る多面的な神で、片目を知恵の泉に捧げて知恵を得たエピソードが有名です。
肩には世界中から情報を集める2羽のワタリガラス「フギン(思考)」と「ムニン(記憶)」、足元には常に2匹の狼「ゲリ」と「フレキ」を従えています。乗騎は八本足の神馬スレイプニル、武器は決して目標を外さない魔槍グングニルです。
ラグナロクでは巨狼フェンリルに飲み込まれて命を落とす運命にありますが、その死は世界の再生へと繋がっていきます。

2. フリッグ(Frigg)|女神たちの長にして家庭と結婚の女神

オーディンの妻にして神々の女王、女神の長です。結婚・出産・家庭を司り、未来を予知する力を持つとされますが、自分の見た未来を口外しない沈黙の女神でもあります。
息子バルドルが死の予兆に苦しむとき、世界中のあらゆる物に「バルドルを傷つけない」という誓いを立てさせた母としての深い愛情で知られます。
画像ではフリッグが糸車で運命の糸を紡いでいる姿が描かれており、彼女が運命そのものと深く関わる存在であることを象徴しています。
3. トール(Thor)|雷鳴を轟かせる最強の戦神

アース神族の中でも最強とされる雷神で、オーディンと大地の女神ヨルズの息子です。赤毛・赤髭の屈強な体つきで、短気ながら庶民に親しまれる英雄的な神として描かれます。
武器は敵に投げれば必ず手元に戻ってくる神槌ミョルニル、乗騎は2頭の山羊タングニョーストとタングリスニルが曳く戦車です。人間社会を脅かす巨人族と戦い続ける守護神として、北欧の人々から熱狂的に信仰されました。
画像はスウェーデンの画家メーテン・エスキル・ヴィンゲが1872年に描いた「巨人族との戦い」で、北欧神話を代表する名画として現在もストックホルム国立美術館に所蔵されています。

4. バルドル(Baldr)|最も美しく愛された光の神

オーディンとフリッグの息子で、アース神族の中で最も美しく・優雅で・聡明な神とされます。あまりの光輝きに、彼が歩く草原さえ輝きを増したという伝承があるほどです。
しかしロキの奸計によってヤドリギの矢で射殺されてしまい、その死が神々の終末ラグナロクの始まりを告げる合図となります。母フリッグの嘆願により冥界から戻る条件が用意されますが、ロキの妨害で叶わず、バルドルはラグナロク後の新世界で復活する運命です。
画像は19世紀デンマークの画家エッカースベアが描いた「バルドルの死」で、中央に横たわる白衣のバルドルとそれを見守る神々が描かれています。
5. ヘイムダル(Heimdall)|虹の橋を守る全知の番人

アースガルズと人間界ミッドガルズをつなぐ虹の橋ビフレストを守る番人です。睡眠は鳥の眠り以下、聴覚は草の生える音すら聞き取り、視覚は500マイル先まで見通すという超人的な感覚を持っています。
角笛ギャラルホルンを所持しており、ラグナロクの到来を告げる一吹きで神々全員を目覚めさせる役目を負っています。
最終戦争ではロキと一騎打ちを繰り広げ、互いに相打ちとなって命を落とすという因縁の関係でも知られます。
6. テュール(Tyr)|片手を犠牲にした戦神

古くは最高神として崇められた戦いの神で、法と秩序の守護者でもあります。英語の「Tuesday(火曜日)」はこのテュールの日(Tiw’s Day)が語源です。
彼の最も有名なエピソードは巨狼フェンリルの拘束です。神々が魔法の鎖グレイプニルでフェンリルを縛ろうとしたとき、狼が「嘘ではない証」として誰かの手を口に入れるよう要求したのに対し、テュールだけが勇気を持ってフェンリルの顎に右手を差し入れました。結果、鎖が解けぬと知ったフェンリルはテュールの手を食いちぎり、彼は片腕を失ったまま戦神として戦い続けることになります。

7. ブラギ(Bragi)|詩と音楽を司る吟遊神

詩歌・音楽・雄弁を司る神で、長い髭をたたえた老人の姿で描かれることが多い詩人神です。オーディンの息子とされ、イドゥン女神の夫でもあります。
戦死した勇者たちがヴァルハラに迎えられたとき、最初に彼らを迎えて称賛の詩を詠むのがブラギの役目です。北欧では優れた詩人のことを「ブラギのように語る者」と称え、王の宮廷に仕える吟遊詩人たちは彼の加護を祈りました。
8. イドゥン(Idun)|若返りのリンゴを守る女神

神々に不老の若さを与える黄金のリンゴを管理する女神で、ブラギの妻です。神々が不死ではなく「老いない」のは、このイドゥンのリンゴを定期的に食べているからに他なりません。
ある時ロキの策略で巨人ティアチに攫われ、リンゴも一緒に失われた際には、神々が一気に老け込んで危機に陥るという事件が起きました。結局ロキが鷹の姿に変身してイドゥンを取り戻しますが、このエピソードは「若さ・美しさの源は誰かの犠牲で守られている」という北欧的な世界観を象徴しています。

9. ロキ(Loki)|神々と災厄をもたらすトリックスター

巨人族の血を引きながらアース神族の一員として暮らす特異な神で、知略と変身術に長けた狡猾なトリックスターです。姿を鷹・鮭・馬・蠅などあらゆる生き物に変えることができます。
初めは神々と巨人の間を取り持つ頼れる仲間でしたが、バルドルを死に追いやった一件から完全に敵対関係となり、洞窟に縛り付けられて蛇の毒を滴らせる刑を受けます。妻シギュンが毒を器で受け止めてくれますが、器を空ける一瞬の苦痛でロキが身悶えすると地震が起きるとされました。
ラグナロクでは巨人族・ヘル・フェンリル・ヨルムンガンドを率いて神々に反逆し、ヘイムダルと相打ちになります。
10. ヴィーザル(Vidar)|沈黙の復讐神

オーディンとグリーズとの間に生まれた「沈黙の神」で、めったに言葉を発しない寡黙な戦士として描かれます。力はトールに次ぐほど強大で、ラグナロクで極めて重要な役割を果たします。
父オーディンが巨狼フェンリルに飲み込まれたその瞬間、ヴィーザルは特別な靴(何世代にもわたり靴職人が切り落としたあらゆる皮革の端切れから作られた)でフェンリルの下顎を踏みつけ、上顎を両手で引き裂いて父の仇を討つのです。
ラグナロク後の新世界で生き残る数少ない神の一人とされ、再生した世界で新しい時代を築く存在として希望の象徴でもあります。
11. フォルセティ(Forseti)|裁きを下す法の神

バルドルと女神ナンナの息子で、正義と和解を司る法の神です。名前は古ノルド語で「議長・裁判官」を意味し、争いごとの仲裁をする最高の調停者として崇められました。
アースガルズにはグリトニルと呼ばれる黄金の柱と銀の屋根でできた美しい宮殿があり、そこがフォルセティの裁きの場とされます。画像は黄金の玉座で訴えを聞き裁きを下すフォルセティの姿で、古代の北欧世界における「法律」の神聖さが伝わってきます。
12. シヴ(Sif)|黄金の髪を持つ豊穣の女神

トールの妻で、黄金に輝く美しい髪を持つ豊穣の女神です。シヴの長い髪は実った小麦の穂を象徴しているとされ、大地の実りを司る存在として親しまれました。
有名な逸話として、ロキが悪戯でシヴの髪をすべて切り取ってしまった事件があります。激怒したトールに脅されたロキは、小人たちに依頼して髪を蘇らせるだけでなく、本物以上に美しく頭皮に馴染む「黄金の髪」を作らせるのです。このとき小人の兄弟対決から、トールの神槌ミョルニルやフレイの黄金の猪グリンブルスティも同時に作られたというエピソードも並行します。

ヴァン神族の3柱|豊穣と海を司る神々
ヴァン神族はアース神族と並ぶ神々の一族で、主に豊穣・海・自然・魔術を司ります。かつてはアース神族と戦争状態にありましたが、和解と人質交換によって今はアースガルズに住み、神々の一員として暮らしています。
13. ニョルズ(Njord)|海と航海を司る富の神

ヴァン神族の長老的存在で、海・風・航海・漁業・富を司る神です。ヴァン神族とアース神族の和平条約の際に人質としてアースガルズへ送られた、まさにヴァン神族側の代表的な神でもあります。
霜の巨人の娘である女神スカディと結婚しましたが、彼は海辺の宮殿ノアトゥーンを愛し、彼女は山を愛したため、9泊ごとに海と山を行き来する生活をした末に別居という独特な結末を迎えます。夫婦であっても価値観の違いは乗り越え難い…という、神々の世界でも変わらない普遍的なテーマが描かれているのです。
14. フレイ(Freyr)|豊穣と平和を司る太陽の神

ニョルズの息子でフレイヤの双子の兄にあたる、ヴァン神族第一位の豊穣神です。太陽・雨・収穫を司り、とくに北欧の農民から絶大な信仰を集めていました。
乗騎は小人の兄弟が作った黄金の猪グリンブルスティで、どんな闇夜でも輝きながら空を駆けます。愛する巨人の娘ゲルズと結ばれるため、無敵の魔剣を手放してしまうエピソードがあり、そのためラグナロクでは巨人スルトとの戦いで不利な状況に陥るという伏線にもなっています。

15. フレイヤ(Freyja)|愛・戦い・魔術を司る女神

フレイの双子の妹で、ヴァン神族の中で最も美しく多才な女神です。愛・美・豊穣・戦争・魔術・死をすべて司るという広大な領域を持ち、北欧神話の中でも特に重要な女神と位置付けられます。
2頭の山猫に曳かれた戦車に乗り、鷹の羽衣をまとって空を飛び、戦場で戦死した勇者の半数を自身の館フォールクヴァングに迎え入れます(残りの半数がオーディンのヴァルハラへ)。
彼女は「セイズ」と呼ばれる予言と運命操作の魔術の開祖であり、これをオーディンに伝授した師でもあります。
英雄と戦乙女|神々と人間を繋ぐ存在
北欧神話には神々だけでなく、人間の英雄や戦乙女ヴァルキューレも重要な役割を担います。ここでは代表的な2枠を紹介します。
16. シグルズ(Sigurd)|ドラゴンを倒した伝説の英雄

北欧神話圏で最も有名な人間の英雄で、後のドイツ英雄叙事詩『ニーベルングの歌』ではジークフリートとして登場します。父シグムントから受け継いだ名剣グラムを持ち、世界最強とされる竜ファーヴニルを討ち果たした竜殺しの英雄です。
竜の心臓を焼いて食べた際に、滴った血を指で舐めた瞬間から鳥の言葉が分かるようになり、裏切りの陰謀を察知するというエピソードも有名です。後年ワルキューレのブリュンヒルドとの悲恋に巻き込まれ、最後は謀殺されて短い生涯を閉じます。
画像はイギリスの画家アーサー・ラッカムが1901年に描いた「グラムで貫くシグルズ」で、巨大な竜ファーヴニルを見事な構図で表現した北欧神話イラストの傑作です。

17. ヴァルキューレ(Valkyrie)|戦場で勇者を選ぶ戦乙女たち

オーディンに仕える戦乙女たちで、戦場に降りて戦死者の中から優れた勇者を選び、ヴァルハラへ連れて行く役目を負っています。名前の意味は「戦死者を選ぶ者」です。
武装した美しい乙女の姿で、白馬に乗って空を駆ける姿が絵画に多く描かれました。代表的なヴァルキューレには前述のシグルズの恋人ブリュンヒルド、ヘルギー・フンディングスバニの妻シグルーン、死者を迎える「勝利の乙女」スリューズなどがいます。
画像はスウェーデン画家ヨハン・グスタフ・サンドバリが描いた「戦場へ駆けるヴァルキューレたち」(ストックホルム国立美術館所蔵)で、北欧神話を代表する名画のひとつです。
神々の敵対者|怪物と異形の存在5体
神々に対立する怪物や異形の存在は、北欧神話の物語を駆動する重要な役割を担っています。多くがロキの子供たち、あるいは原初の巨人の末裔です。
18. フェンリル(Fenrir)|神々を呑み込む巨狼

ロキと女巨人アングルボザの間に生まれた巨大な狼で、成長するにつれその体が山をも覆うほどに大きくなっていきます。神々は彼があまりに危険な存在になることを予言によって知り、魔法の鎖グレイプニルで縛り付けました。
前述の通りこの拘束時にテュールは右手を失いましたが、フェンリルは口にも剣を突き立てられて封印されます。しかしラグナロク到来とともに鎖が砕け散り、最初の犠牲者としてオーディン自身を呑み込むことになります。
画像は「マニュアル・オブ・ミソロジー」所収の版画で、フェンリルの頭蓋骨の巨大さが人間の大きさとの対比で見事に表現されています。
19. ヨルムンガンド(Jormungandr)|世界を取り巻く大蛇

フェンリルの兄弟にあたる巨大な海蛇で、オーディンによって海に投げ込まれた後、自らの尾を噛むほど大きく成長して世界そのものを取り巻いたことから「ミッドガルズの蛇」とも呼ばれます。
雷神トールとの宿命的な対立関係が有名で、巨人ヒュミルと釣りに出かけたトールがヨルムンガンドを釣り上げようとしたエピソードはアイスランドのサガにも残る名場面です。ラグナロクではトールの神槌でついに倒されますが、その毒を浴びたトールも9歩下がったところで息絶えるという壮絶な相打ちを演じます。
画像はスウェーデンの挿絵画家フロリックによる「トールとヨルムンガンドの死闘」で、倒れる両者の姿を繊細に描いた傑作です。
20. ヘル(Hel)|冥界を支配する死の女王

ロキと女巨人アングルボザの娘で、冥界ヘルヘイムを支配する女神です。体の上半身は生きた人間のような美貌の女性、下半身は青ざめた腐敗した死体という半生半死の姿で表現されます。
戦場で名誉ある死を遂げなかった者や病死・老衰した者たちがヘルヘイムに送られ、彼女の支配下で死後の時を過ごすとされました。入口には血まみれの番犬ガルムがいて、生者を追い返します。
ラグナロクでは父ロキと共に巨大な船ナグルファルに死者の軍勢を乗せ、神々への最後の反乱に参加する運命にあります。

21. スレイプニル(Sleipnir)|オーディンの八本足の神馬

オーディンが駆る最高の神馬で、8本の脚を持ち、陸も海も空中も自在に駆け抜けられる不思議な存在です。
誕生の経緯がユニークで、ロキが種馬スヴァジルファリの注意を引き付けるために牝馬に変身した際に生まれた子供、つまりロキが「母親」になっている馬なのです。北欧神話で最も奇妙な誕生譚のひとつであり、ロキの変身能力の象徴でもあります。
画像はロキリッツ・フロリックの挿絵で、槍グングニルを持ちスレイプニルに乗るオーディンが描かれています。スレイプニルの8本脚が前後重なるように表現されているのが特徴的です。
22. ヴァルハラ(Valhalla)|戦士たちが集う栄光の館

厳密には怪物ではなく神々の建造物ですが、北欧神話を語る上で欠かせない存在なので紹介します。ヴァルハラはオーディンが戦死した勇者を迎える壮大な館で、屋根は黄金の盾で葺かれ、扉は540もあるとされます。
ヴァルハラに迎えられた戦死者は「エインヘリャル」と呼ばれ、昼は館の外で戦いの訓練を続け、夜は復活して館の中で宴を楽しむという永遠の日々を送ります。彼らはラグナロクの最終決戦でオーディンと共に戦うため、毎日鍛錬を重ねているのです。
画像はドイツ画家エミール・デプラーによる「ヴァルハラ」で、豪華な柱と宴の様子、右端にヴァルキューレの姿が描かれた代表的な一枚です。

23. ユミル(Ymir)|世界を構成した原初の巨人

創造の始原に存在した霜の巨人で、すべての巨人族の祖先です。火と氷がせめぎ合う原初の空間ギンヌンガガップから生まれ、汗から巨人族を生み出しました。
その後オーディンとその兄弟ヴィリ・ヴェーがユミルを倒し、その死体を素材として世界そのものを作り上げます。肉は大地に、血は海に、骨は山に、頭蓋骨は天空に、脳は雲に、髪の毛は森に、眉毛はミッドガルズの防壁に…と、すべてがユミルの身体から生み出されたのです。
画像はデンマーク画家フロリックによる「ユミルの殺害」で、オーディン三兄弟が巨大なユミルを倒す象徴的な場面が描かれています。
世界の終末と再生|ラグナロクとユグドラシル
最後に、北欧神話の世界観を象徴する2つの概念を紹介します。「すべてが滅び、再生する」という独特なサイクルが、北欧神話を他の神話と一線を画す存在にしているのです。
24. ラグナロク(Ragnarok)|神々の黄昏と世界の終末

「神々の運命」を意味する北欧神話最大のクライマックスで、神々と巨人・怪物たちの最終戦争です。3年続く厳冬「フィンブルヴェトル」を前兆として始まり、オーディンはフェンリルに呑まれ、トールはヨルムンガンドと相打ち、ヘイムダルとロキも刺し違え、フレイは巨人スルトに倒されます。
しかしすべてが終わった後、バルドルが冥界から蘇り、ヴィーザル・ヴァーリ・モージ・マグニらが新しい世界で神々となり、人間も男女二人が新しく生まれて世界を再出発させます。つまりラグナロクは終わりではなく、新しい世界への橋渡しなのです。
画像は19世紀ドイツ画家ヨハネス・ゲールツの「ラグナロク」で、中央で戦うトールと周囲の激闘が一枚に凝縮された傑作です。

25. ユグドラシル(Yggdrasil)|九つの世界を繋ぐ世界樹

北欧神話の宇宙そのものを支える巨大な世界樹「トネリコの木」です。根は三方向に伸び、それぞれアース神族の住むアースガルズ、霜の巨人の住むヨトゥンヘイム、死者の国ニヴルヘイムへ達しています。
枝には神々の住む9つの世界が連なり、幹には運命を紡ぐ三女神ノルンたちが住み、根元では竜ニーズヘッグが絶えず樹を齧り続けています。頭上には全知の鷲が止まり、リスのラタトスクが鷲と竜の悪口を伝言する役目を果たすなど、ユグドラシルを舞台にした小さな物語も豊富です。
ラグナロクによって世界が炎に包まれても、ユグドラシルだけは焼け残り、再生する新世界を支え続けるとされています。
画像はドイツ画家フリードリヒ・ヴィルヘルム・ハイネの「トネリコの樹ユグドラシル」で、9つの世界を包み込む巨大な樹木が壮大に描かれた代表作です。
北欧神話をさらに深く知りたい方へ|おすすめ資料
本記事で北欧神話の世界に興味を持たれた方は、原典や関連資料を辿ってみるとさらに深い魅力に出会えます。以下に代表的な資料を紹介しておきましょう。
一次資料としては、13世紀アイスランドの詩人スノッリ・ストゥルルソンが編纂した『新エッダ(スノッリのエッダ)』が最も体系的で読みやすい入門書です。詩形で語られる『古エッダ』は文学的価値も高く、北欧神話の原点を感じられる素晴らしい資料です。両者とも日本語訳(谷口幸男訳の『エッダ―古代北欧歌謡集』新潮社など)が出版されています。
二次資料としては、ニール・ゲイマン『北欧神話』(原書房)が現代的で読みやすく、入門書として人気があります。またマーベル映画「ソー」シリーズや、ゲーム「ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク」などのポップカルチャー作品でも北欧神話要素が取り入れられており、物語としての魅力をエンタメで味わうこともできます。
まとめ|北欧神話は「滅びと再生」の物語
以上、北欧神話に登場する神々・英雄・怪物・世界観を合わせた25名を紹介しました。
アース神族12柱(オーディン・フリッグ・トール・バルドル・ヘイムダル・テュール・ブラギ・イドゥン・ロキ・ヴィーザル・フォルセティ・シヴ)、ヴァン神族3柱(ニョルズ・フレイ・フレイヤ)、英雄と戦乙女2枠(シグルズ・ヴァルキューレ)、怪物と異形5体(フェンリル・ヨルムンガンド・ヘル・スレイプニル・ユミル)、そして世界の仕組みを表す3項目(ヴァルハラ・ラグナロク・ユグドラシル)。これらが織りなす壮大な物語が北欧神話の魅力です。
最大の特徴は「神々自身が滅びの運命を知りつつ戦い続ける」という悲劇性と、「滅びの後に必ず再生がある」という希望の両立にあります。完璧ではない神々が自らの限界を受け入れ、それでも世界を守ろうとする姿勢には、現代の私たちにも通じる深い示唆が込められているのではないでしょうか。

北欧神話の興味深さに触れていただけましたでしょうか。当ブログでは世界の神話・伝説・不思議をテーマにした記事を多数掲載していますので、ぜひ他の記事もご覧ください。

