夕焼けの「茜色」、新緑の「萌黄(もえぎ)」、深い藍染めの「紺色」。日本には、自然や暮らしの中から生まれた美しい色の名前が千を超えて伝わっています。これらを総称して日本の伝統色(和色)と呼びます。
西洋の色名にくらべて、日本の伝統色は植物・花・鳥・染料の名がそのまま色名になっているのが大きな特徴です。微妙な色合いの違いに一つひとつ名前をつけてきた、繊細な美意識が宿っています。
この記事では、日本の伝統色を色相別に54色厳選し、読み方・カラーコード・名前の由来をまとめて一覧で紹介します。あわせて、色が身分をあらわした「冠位十二階」や、江戸の粋を生んだ「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず)」など、和色を読み解く歴史と豆知識もたっぷり解説します。

目次
日本の伝統色とは?和色の特徴と数

日本の伝統色とは、日本の歴史や文化の中で生まれ、古い文献に出典のある色名を含む、日本固有の色のことです。その数は諸説ありますが、名前のついた色だけで千百余色(1100色以上)にのぼるともいわれます。
和色の最大の特徴は、名前の多くが自然や植物に由来することです。これは、古来の日本では紅花(べにばな)・藍(あい)・茜(あかね)・紫草(むらさき)といった植物染料が身近にあり、その染め色がそのまま色名になっていったためと考えられます。四季の移ろいや自然現象を色で表現する文化が、早くから根づいていたのです。
もうひとつの特徴が、中間色の豊かさです。ほんの少しの色みの違いに、別々の名前をつけて呼び分けてきました。次の章から、その繊細な色の世界を色相ごとにのぞいていきましょう。
赤・紅系の日本の伝統色【桜色・紅色・茜色など8色】
赤系は、生命力や魔除けの力をあらわす色として、最も古くから大切にされてきた色のグループです。原料となる紅花や茜、辰砂などはどれも貴重で、特に紅花から採る「紅(くれない)」は金にたとえられるほどの高級品でした。
| 色見本 | 色名・読み方 | カラーコード | 由来・意味 |
|---|---|---|---|
| 桜色 さくらいろ |
#fef4f4 | 桜の花びらを思わせる、ほんのり赤みを含んだごく淡い白。平安時代から春を象徴する色として親しまれ、襲(かさね)の色目にも登場します。 | |
| 撫子色 なでしこいろ |
#eebbcb | 秋の七草のひとつナデシコの花のような、やわらかな赤紫みの桃色。「大和撫子」の語にも通じる、しとやかさを感じさせる色です。 | |
| 紅梅色 こうばいいろ |
#f2a0a1 | 紅梅の花のような明るい紅色。平安の女性が好み、『枕草子』や和歌にもたびたび詠まれた、早春を告げる色です。 | |
| 韓紅 からくれない |
#e95464 | 紅花(べにばな)をぜいたくに使って濃く染め上げた、冴えた紅色。「唐紅」とも書き、舶来の華やかさを思わせる高級な色でした。 | |
| 紅色 べにいろ |
#d7003a | 紅花の花びらから採った鮮やかな赤。紅花は大変貴重で「紅一匁、金一匁」と言われ、女性の口紅や着物の裏地を彩りました。 | |
| 茜色 あかねいろ |
#b7282e | アカネの根で染めた、やや沈んだ赤。日本最古級の植物染料のひとつで、夕焼け空を「茜さす」と表すように古くから親しまれました。 | |
| 緋色 ひいろ |
#d3381c | 茜や紅で染めた、黄みを帯びた鮮烈な赤。「緋縅(ひおどし)の鎧」など武具にも使われ、燃えるような力強さを持つ色です。 | |
| 朱色 しゅいろ |
#eb6238 | 辰砂(しんしゃ)という鉱物から採れる、黄みの強い赤。神社の鳥居や漆器に使われ、魔除けや生命力の象徴とされてきました。 |
同じ赤でも、植物由来の「茜色」はやや沈んだ深い赤、鉱物由来の「朱色」は黄みの明るい赤と、原料によって表情が変わります。神社の鳥居の朱は、魔を払い建物を守る色として塗られてきました。
橙・黄系の和色【山吹色・鬱金色・刈安色など8色】
黄色は、実りや豊かさ、輝きをあらわす色です。ウコンやクチナシ、カリヤスなど身近な植物でよく染まったため、明るい黄色から赤みの強い黄色まで、さまざまな和色が生まれました。
| 色見本 | 色名・読み方 | カラーコード | 由来・意味 |
|---|---|---|---|
| 柿色 かきいろ |
#ed6d3d | 熟した柿の実のような、あたたかみのある橙色。柿渋(かきしぶ)染めにも通じ、のちに紹介する歌舞伎の團十郎茶のルーツともいわれます。 | |
| 橙色 だいだいいろ |
#ee7800 | 果物の橙(だいだい)の皮のような色。「代々(だいだい)栄える」に通じる縁起物として、正月のしめ飾りにも使われます。 | |
| 山吹色 やまぶきいろ |
#f8b500 | ヤマブキの花のような、赤みを帯びた濃い黄色。小判の輝きにたとえられ、時代劇の「山吹色のお菓子」(賄賂)でもおなじみです。 | |
| 黄金色 こがねいろ |
#e6b422 | 黄金(おうごん)のように輝く、豊かでつややかな黄色。実りの稲穂や金そのものをあらわし、富や繁栄の象徴とされます。 | |
| 鬱金色 うこんいろ |
#fabf14 | ショウガ科のウコンの根で染めた、赤みのある鮮やかな黄色。防虫効果があるとされ、大切な着物を包む風呂敷にも使われました。 | |
| 梔子色 くちなしいろ |
#fbca4d | クチナシの実で染めた、赤みを帯びた黄色。染料であると同時に食用の着色料でもあり、きんとんや沢庵の色づけにも使われます。 | |
| 刈安色 かりやすいろ |
#f5e56b | イネ科のカリヤスで染めた、やや緑みの明るい黄色。よく染まり手に入りやすかったため、黄色染めの基本となった色です。 | |
| 卵色 たまごいろ |
#fcd575 | 鶏卵の黄身のような、やわらかな黄色。かつて鶏卵が貴重だったことから、あたたかく上品な色として好まれました。 |
中でも「山吹色」は小判の色の代名詞。時代劇で悪代官に差し出される「山吹色のお菓子」は、小判を菓子に見立てた賄賂のことです。色名の知識があると、こうした言い回しもぐっと面白く感じられます。
茶系の伝統色と「四十八茶百鼠」【路考茶・團十郎茶など8色】
地味に見える茶色こそ、江戸の人々が最も知恵と遊び心を注いだ色でした。その背景には、幕府がたびたび出した奢侈禁止令(しゃしきんしれい/ぜいたく禁止のお触れ)があります。
| 色見本 | 色名・読み方 | カラーコード | 由来・意味 |
|---|---|---|---|
| 黄土色 おうどいろ |
#c39143 | 黄土(おうど)という土の顔料の色で、やや暗い黄褐色。古代の壁画や絵の具にも使われた、人類最古級の色のひとつです。 | |
| 朽葉色 くちばいろ |
#917347 | 朽ちて枯れた落ち葉のような、くすんだ黄褐色。平安時代に大流行し、赤朽葉・黄朽葉など細かなバリエーションが生まれました。 | |
| 路考茶 ろこうちゃ |
#82663a | 江戸の人気女形・二代目瀬川菊之丞(俳名「路考」)に由来する、緑みを帯びた茶色。1766年の舞台で着た衣装が江戸中の女性の流行を生みました。 | |
| 團十郎茶 だんじゅうろうちゃ |
#9f563a | 歌舞伎の名跡・五代目市川團十郎が「暫(しばらく)」の衣装に用いた、赤みの茶色。柿渋で染めた色で、市川家を象徴します。 | |
| 芝翫茶 しかんちゃ |
#b48a76 | 三代目中村歌右衛門(俳名「芝翫」)が好んだ、明るく渋い茶色。役者の名がそのまま流行色になった「役者色」の代表格です。 | |
| 利休茶 りきゅうちゃ |
#8c7042 | 緑がかった渋い茶色。茶人・千利休を思わせる「わび・さび」の趣から、後世にその名が冠されました。 | |
| 海老茶 えびちゃ |
#773c30 | 伊勢海老の殻のような、赤黒い茶色。明治・大正期には女学生の袴の色として大流行し、「海老茶式部」という言葉も生まれました。 | |
| 鳶色 とびいろ |
#95483f | 猛禽トビ(鳶)の羽のような、赤暗い茶色。江戸の渋い色好みを代表する、落ち着いた茶系の色です。 |
四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず)とは
江戸時代、町人が豊かになって着物が派手になると、幕府は倹約のために庶民が着てよい色を「茶色・鼠色・藍色」などに制限しました。そこで人々は、許された地味な色の中に無数のニュアンスを生み出して楽しんだのです。これを「四十八茶百鼠」と呼びます。
「四十八」も「百」も実際の数ではなく「たくさんある」という意味です。火事の多かった江戸では「灰色」は縁起が悪いとされ、同じ色でも「鼠色」と呼ぶことが好まれました。茶系は約80種、鼠系は70種近くもあったといわれます。
役者色(やくしゃいろ)とは
これらの流行色には、人気の歌舞伎役者の名がつけられることがよくありました。表の「路考茶」「團十郎茶」「芝翫茶」がその代表で、「役者色」と呼ばれます。ほかにも初代尾上菊五郎にちなむ「梅幸茶(ばいこうちゃ)」などがあり、当時のスター役者は今でいうファッションリーダーそのものでした。

緑系の伝統色【萌黄・若竹色・常磐色など8色】
緑系は、若葉や常緑樹など植物の生命力をあらわす色です。日本語では古くから青と緑をはっきり区別せず、緑のものを「青」と呼ぶ習慣がありました(この話は後の豆知識でくわしく触れます)。
| 色見本 | 色名・読み方 | カラーコード | 由来・意味 |
|---|---|---|---|
| 若草色 わかくさいろ |
#c3d825 | 芽吹いたばかりの若草のような、明るい黄緑。春の生命力を象徴し、襲の色目にも用いられました。 | |
| 萌黄 もえぎ |
#aacf53 | 春に萌え出る若芽のような冴えた黄緑。「萌葱」とも書き、若々しい生命力を象徴する色として鎧の縅(おどし)などにも使われました。 | |
| 若竹色 わかたけいろ |
#68be8d | 若い竹の幹のような、みずみずしい青緑。生長する竹にちなみ、清新さや成長を感じさせる色です。 | |
| 青磁色 せいじいろ |
#7ebeab | 青磁の焼き物を思わせる、淡くやわらかな青緑。中国から伝わった陶磁器への憧れから生まれた、上品な色名です。 | |
| 常磐色 ときわいろ |
#007b43 | 松や杉など常緑樹の葉のような、深い緑。「常磐(ときわ)」は永遠不変を意味し、めでたさや長寿の象徴とされます。 | |
| 鶯色 うぐいすいろ |
#928c36 | 春告げ鳥ウグイスの羽のような、緑みを帯びた黄褐色。鶯餅でおなじみですが、実際のウグイスは想像よりも地味な色をしています。 | |
| 苔色 こけいろ |
#69821b | 苔(こけ)のような、深く渋い黄緑。落ち着いた和の風情を感じさせ、日本庭園の美意識とも結びついた色です。 | |
| 翡翠色 ひすいいろ |
#38b48b | 宝石の翡翠(ひすい)や、水辺の鳥カワセミ(翡翠)を思わせる、鮮やかな青緑。古来、宝石としても珍重されました。 |
「鶯色(うぐいすいろ)」は、和菓子の鶯餅でおなじみの色。ただし本物のウグイスは、私たちがイメージする鮮やかな黄緑ではなく、もっと地味な茶緑色をしています。鮮やかな緑の鳥は、よく似たメジロと混同されているのです。
青・藍系の日本の伝統色と「藍四十八色」【藍色・縹・浅葱など8色】

青系の主役は、何といっても藍染めです。タデアイという植物で染める藍は、染め重ねる回数によって淡い水色から黒に近い濃紺まで、無段階に色が変化します。そのため青系には驚くほど多くの色名が生まれ、「藍四十八色」とも呼ばれました。
| 色見本 | 色名・読み方 | カラーコード | 由来・意味 |
|---|---|---|---|
| 甕覗 かめのぞき |
#a2d7dd | 藍染めの中で最も淡い青。藍の染め液を張った甕(かめ)に布をほんの一瞬くぐらせた、あるいは甕を覗いた程度の薄さ、という名の由来があります。 | |
| 浅葱色 あさぎいろ |
#00a3af | ネギ(葱)の若い葉のような、薄い藍色。幕末に活躍した新選組の隊士が、だんだら模様の羽織に用いた色としても有名です。 | |
| 縹色 はなだいろ |
#2792c3 | 藍染めの中間的な青で、古くからある青の代表的な色名。奈良時代には濃さによって深縹(こきはなだ)・浅縹(あさはなだ)などに分けられました。 | |
| 露草色 つゆくさいろ |
#38a1db | ツユクサの花のような、あざやかな青。色が水で落ちやすい性質から、染め物の下絵を描くための絵の具に使われました。 | |
| 群青色 ぐんじょういろ |
#4c6cb3 | 藍銅鉱(らんどうこう)という鉱物から作る、深く鮮やかな青の顔料。日本画や仏画に欠かせない、高貴な色でした。 | |
| 瑠璃色 るりいろ |
#1e50a2 | 宝石の瑠璃(ラピスラズリ)のような、紫みを帯びた深い青。仏教で珍重される七宝のひとつで、神秘的な美しさを持ちます。 | |
| 藍色 あいいろ |
#165e83 | タデアイで染めた、緑みを帯びた濃い青。日本の暮らしに最も深く根づいた青で、のちに紹介する「ジャパン・ブルー」を代表する色です。 | |
| 紺色 こんいろ |
#223a70 | 藍を何度も染め重ねた、最も濃い青系の色。丈夫で褪せにくく、武士の装束や庶民の作業着・のれんなどに広く使われました。 |
淡い順に並ぶ藍の色名
藍染めは、薄いものから濃いものへと次のように呼び分けられます。甕覗(かめのぞき)→水浅葱(みずあさぎ)→浅葱(あさぎ)→縹(はなだ)→納戸(なんど)→紺(こん)→褐(かち)。同じ一つの染料から、これだけの色の階段が生まれるのです。
最も濃い「褐色(かちいろ)」は「勝(か)つ」に音が通じることから、武士に縁起の良い色として好まれました。明治のはじめに来日した外国人が、町にあふれる藍の青を見て「ジャパン・ブルー」と呼んだという話も伝わっています。
紫系の和色|江戸紫と京紫の違い【藤色・二藍など7色】
紫は、古代から最も高貴とされた特別な色です。原料の紫草(むらさき)の根で染めるには手間がかかり、後で述べる「冠位十二階」でも最高位の色とされました。
| 色見本 | 色名・読み方 | カラーコード | 由来・意味 |
|---|---|---|---|
| 藤色 ふじいろ |
#bbbcde | フジの花のような、青みを帯びた淡い紫。平安時代には藤原氏の象徴として高貴とされ、雅やかさをあらわす色です。 | |
| 菖蒲色 あやめいろ |
#cc7eb1 | アヤメ(菖蒲)の花のような、赤みの紫。初夏を彩る花の色として、襲の色目にも取り入れられました。 | |
| 二藍 ふたあい |
#915c8b | 紅花(古くは「紅藍」とも呼ばれた)と藍を重ねて染めた紫。二つの染料を「藍」と呼んだことに由来し、平安貴族に愛された色です。 | |
| 江戸紫 えどむらさき |
#745399 | 武蔵野に自生した紫草(むらさき)で染めた、青みの強い紫。歌舞伎『助六』の鉢巻でも知られ、粋でいなせな江戸好みを代表します。 | |
| 京紫 きょうむらさき |
#9d5b8b | 京都で染められた、赤みを帯びた紫。青みの江戸紫と対比され、雅やかで上品な趣をあらわします。 | |
| 古代紫 こだいむらさき |
#895b8a | くすんだ落ち着いた紫。鮮やかな「今紫(=江戸紫)」に対して、古くからの紫をしのばせる色としてこう呼ばれました。 | |
| 桔梗色 ききょういろ |
#5654a2 | 秋の七草キキョウの花のような、青みの強い紫。凛とした清楚さを感じさせる色です。 |
江戸紫と京紫はどう違う?
同じ紫でも、江戸紫は青みの強い紫、京紫は赤みを帯びた紫です。江戸紫は武蔵野に自生する紫草で江戸が染めた、いなせで力強い色。歌舞伎『助六』の主人公が締める鉢巻の色として知られます。一方の京紫は京都で染めた伝統的な紫で、雅やかで優美な趣をあらわします。
「二藍(ふたあい)」も興味深い色です。紅花と藍という二種類の染料を重ねて染めることで生まれる紫で、平安貴族に愛されました。一つの色名の裏に、染めの工夫が隠れているのです。
白・黒・鼠系の伝統色【利休鼠・鈍色・漆黒など7色】
無彩色にも、日本人は豊かな名前を与えてきました。とりわけ鼠色は、前に紹介した「四十八茶百鼠」のとおり、わずかな色みの違いで数多くの名が生まれた色です。
| 色見本 | 色名・読み方 | カラーコード | 由来・意味 |
|---|---|---|---|
| 胡粉色 ごふんいろ |
#fffffc | 貝殻を砕いて作る白い顔料「胡粉(ごふん)」の色。日本画や雛人形の肌の彩色に使われる、わずかに黄みを含んだ白です。 | |
| 生成り色 きなりいろ |
#fbfaf5 | 染めや漂白をしていない、糸や布そのままの色。やや黄みがかった自然な白で、素朴であたたかな印象を与えます。 | |
| 鼠色 ねずみいろ |
#949495 | ネズミの毛のような灰色。江戸時代には「四十八茶百鼠」と呼ばれるほど、多彩な鼠色が生み出されました。 | |
| 利休鼠 りきゅうねず |
#888e7e | 緑みを帯びた渋い鼠色。千利休の名を冠し、北原白秋の詩「城ヶ島の雨」の一節「利休鼠の雨がふる」でも知られます。 | |
| 鳩羽鼠 はとばねず |
#9e8b8e | ハト(鳩)の羽のような、わずかに紫みを帯びた鼠色。江戸の粋を感じさせる、上品な灰色です。 | |
| 鈍色 にびいろ |
#727171 | 濃い灰色。平安時代には喪服やそれに準じる装束の色とされ、悲しみや無常をあらわす色でした。 | |
| 漆黒 しっこく |
#0d0015 | 漆(うるし)を塗ったような、深くつややかな黒。「烏(からす)の濡れ羽色」とも通じる、日本人が美しいとした究極の黒です。 |
「鈍色(にびいろ)」は平安時代、喪の装束に用いられた色で、悲しみや無常の象徴でした。一方で「漆黒」や「烏の濡れ羽色」のように、深い黒は美しい髪の形容にも使われます。同じ系統でも、文脈によってまとう意味が大きく変わるのが和色の奥深さです。
色が身分を表した時代|冠位十二階と禁色(きんじき)
かつて日本では、色は「身につけてよい人」が厳しく決められた、身分そのものでした。
冠位十二階(603年)の色の順番
飛鳥時代の603年、聖徳太子らが定めたとされる冠位十二階は、役人の位を冠の色で示す制度でした。位の高い順に徳=紫、仁=青、礼=赤、信=黄、義=白、智=黒とされ、それぞれを濃い・淡いの大小に分けて十二の階としました。最高位が紫だったことが、紫を高貴な色とする感覚の出発点になっています。
天皇だけの色「黄櫨染」
のちの時代には、特定の身分の人しか使えない禁色(きんじき)が定められました。中でも黄櫨染(こうろぜん)は天皇だけが着られる「絶対禁色」で、ハゼの黄色と蘇芳(すおう)の赤を掛け合わせた、太陽を象徴する色です。皇太子の色は黄丹(おうに)で、こちらは昇る朝日をあらわすとされました。これらの色は、今も即位の儀式などで受け継がれています。

和色を生んだ草木染め|天然染料と化学染料の歴史

和色の名前の多くが植物由来なのは、その色が実際に草木で染められていたからです。代表的な天然染料には次のようなものがあります。
- 紅花(べにばな)…紅色・韓紅などの鮮やかな赤。大変貴重でした。
- 藍(あい)…浅葱から紺まで、あらゆる青。日本の青の中心です。
- 茜(あかね)…茜色・緋色などの落ち着いた赤。最古級の染料です。
- 紫草(むらさき)…高貴な紫。根を使うため手間がかかりました。
- 刈安(かりやす)・鬱金(うこん)・梔子(くちなし)…さまざまな黄色。
こうした天然染料の時代が長く続きましたが、転機は近代に訪れます。1856年、イギリスの18歳の化学者ウィリアム・パーキンが、偶然から世界初の合成染料「モーブ(モーヴ)」という紫を生み出しました。日本にも明治期に化学染料が輸入され、手間をかけずに鮮やかで均一な色が染められるようになります。和色の世界は、長い草木染めの歴史の上に成り立っているのです。
日本の伝統色にまつわる雑学・豆知識
「青信号」はどう見ても緑色なのに、なぜ青?
日本語の「青」は、もともと緑色までを含む広い色をさす言葉でした。青葉・青菜・青リンゴが緑色なのはその名残です。だから緑色の信号も、昔ながらの感覚で「青信号」と呼ばれています。緑系の和色に「青」と名のつくものが多いのも、同じ理由です。
かさねの色目(いろめ)で四季を着る
平安貴族は、何枚も重ねた衣の表と裏、上下の配色で季節を表現しました。これを「かさねの色目」といい、「桜」「紅梅」「若菖蒲」など、配色そのものに季節の名前がついています。色のコーディネートで季節感を競う、世界でも例の少ない繊細な文化です。
色をめぐる言葉や感覚については、こちらの記事もあわせてどうぞ。
日本の伝統色クイズ【全6問】
ここまで読めば、もう立派な和色通。名前の由来をヒントに、全6問に挑戦してみましょう。答えはそれぞれの下にあります。
第1問
幕末の新選組が、だんだら模様の羽織に用いた藍染めの薄い青色は何色でしょう?
ネギの若い葉のような薄い藍色です。
第2問
「紅一匁、金一匁」と言われるほど高価だった、紅花から採る鮮やかな赤色は?
花びらからわずかしか採れないため、金にたとえられました。
第3問
江戸時代、ぜいたく禁止令の下で庶民が茶や鼠の地味な色を多彩に楽しんだことを表す言葉は?
「四十八」「百」は「たくさん」の意味です。
第4問
歌舞伎の名跡・五代目市川團十郎の衣装に由来する、赤みの茶色は?
柿渋で染めた、市川家を象徴する色です。
第5問
冠位十二階で最高位とされ、天皇の色ともつながる、最も高貴とされた色は何系の色でしょう?
染めるのに手間がかかり、希少だったためです。
第6問
青みの紫で、歌舞伎『助六』の鉢巻に使われた、いなせな江戸好みの紫は?
赤みの「京紫」と対比される色です。
日本の伝統色に関するよくある質問(FAQ)
日本の伝統色は全部で何色ありますか?
諸説ありますが、出典のある色名を含めると千百余色(1100色以上)にのぼるともいわれます。日常的によく使われる代表的な色は、数百色ほどです。
和色と洋色(西洋の色)の違いは何ですか?
和色は植物・花・鳥・染料など自然に由来する名前が多く、微妙な中間色を細かく名づけているのが特徴です。一方、洋色は鉱物や人名、地名に由来するものが多く見られます。
なぜ植物の名前の色が多いのですか?
古来の日本では紅花・藍・茜・紫草といった植物染料が身近にあり、その染め色がそのまま色名になっていったためです。四季の自然を愛でる文化も影響しています。
カラーコード(16進数の値)は公式に決まっていますか?
厳密な公式値があるわけではなく、出典の文献やメーカーによって数値が多少異なります。本記事では一般に広く使われている値を掲載しています。
伝統色を暮らしに取り入れるには?
着物や和雑貨、和室の配色のほか、名づけ、ウェブやポスターの配色などに使えます。「かさねの色目」を参考に、季節に合わせた色合わせを楽しむのもおすすめです。
まとめ|日本の伝統色を暮らしに
日本の伝統色を、色相別に54色とその歴史・豆知識まで紹介してきました。和色の名前には、植物や自然への愛着、染めの技術、そして時代ごとの暮らしや美意識が、まるごと閉じ込められています。
「茜色の夕焼け」「萌黄の若葉」と心の中で名前を添えるだけで、見慣れた景色が少し特別に感じられます。お気に入りの一色を見つけて、季節の色を楽しんでみてください。


