「ずいずいずっころばし ごまみそずい」。子どものころ、意味もわからないまま口ずさんでいた方も多いのではないでしょうか。
あらためて歌詞を読むと、茶壺に追われたり、親が呼んでも行かなかったりと、よく考えると少し不思議で、どこか不穏な空気すら漂います。
じつはこのわらべうた、江戸時代の「お茶壺道中」という行列を背景にしているという説が有力です。その正体を知ると、歌の見え方が一気に変わります。

この記事では、ずいずいずっころばしの歌詞の意味をフレーズごとにかみくだき、背景にある史実、ささやかれる「怖い説」、そして手遊びとしての遊び方まで、まとめて解説します。
目次
ずいずいずっころばしとは?歌詞と基礎知識
ずいずいずっころばしは、江戸時代から日本各地に伝わるわらべうた(子どもの遊び歌)です。数人で輪になって遊ぶ「手遊びうた」として親しまれてきました。
作者や成立年代ははっきりわかっていません。口から口へと歌い継がれるうちに、地域ごとに歌詞や節回しが少しずつ変化していった、典型的な伝承童謡です。
ずいずいずっころばしの歌詞(全文)
まずは、もっとも広く知られている歌詞を確認しておきましょう。地域や時代によって細部は異なります。
茶壺に追われて とっぴんしゃん
抜けたら どんどこしょ
俵のねずみが 米食って ちゅう
ちゅう ちゅう ちゅう
おっとさんが呼んでも おっかさんが呼んでも 行きっこなしよ
井戸のまわりで お茶碗欠いたの だあれ
声に出してみると、意味よりも先に独特のリズムと語感が体に残ります。この「口ずさみやすさ」こそが、長く歌い継がれてきた大きな理由のひとつです。
「日本の歌百選」にも選ばれた一曲
ずいずいずっころばしは、2006年(平成18年)に文化庁と日本PTA全国協議会が選定した「日本の歌百選」にも入っています。親子で歌い継いでほしい唱歌・童謡として、101曲の中に選ばれました。

ずいずいずっころばしの歌詞の意味をフレーズごとに解説
一見するとナンセンスな言葉の連なりに見えますが、ひとつずつ分解すると、ある情景が浮かび上がってきます。代表的な解釈をフレーズごとに見ていきましょう。
ずいずいずっころばし ごまみそずい
冒頭の「ずいずいずっころばし ごまみそずい」は、意味のある言葉というより、歌い出しの調子をつくる「囃子詞(はやしことば)」だと考えられています。
一説には「胡麻味噌をすっている」日常のひとコマを表すとも言われますが、はっきりした定説はありません。「ずい」「ずっ」という音のころがり自体を楽しむ部分です。
茶壺に追われて とっぴんしゃん
ここが歌の核心です。「茶壺」とは、後述する「お茶壺道中」で運ばれた、将軍家へ献上する茶を入れる壺のこと。その行列が来たので、慌てて家に入り、戸をピシャリと閉めた様子が「とっぴんしゃん」という擬音で表されています。
つまり「茶壺(の行列)に追われて、戸を閉めた」という、当時の庶民の緊張感が込められたフレーズなのです。
抜けたら どんどこしょ
「抜けたら どんどこしょ」は、おそろしい行列が通り「抜けた」あと、ようやく一息ついて緊張がほどけた安堵を表すとされます。
張りつめた空気から解放され、思わず体の力が抜ける。そんな「やれやれ」の気分が、軽やかな音に乗っています。
俵のねずみが 米食って ちゅう
戸を閉めて息をひそめている家の中。静まりかえった空間に響くのは、米俵をかじるねずみの音だけ、という情景描写だと解釈されます。
「ちゅう ちゅう ちゅう」という鳴き声の繰り返しは、子どもが声に出して楽しい部分でもあります。緊張のあとに少しおどけた音が続くのが、わらべうたらしい呼吸です。
おっとさんが呼んでも おっかさんが呼んでも 行きっこなしよ
「お父さんが呼んでも、お母さんが呼んでも、外へは行かないよ」という意味です。行列が通り過ぎるまでは、たとえ親に呼ばれても外に出てはいけない、という当時の状況を映しているとされます。
子どもにとっては、ちょっとした我慢くらべの場面でもあったのでしょう。
井戸のまわりで お茶碗欠いたの だあれ
最後の「井戸のまわりで お茶碗欠いたの だあれ」は、前半とは意味がつながりにくい部分です。井戸端で茶碗を欠いた(割った)のは誰か、と犯人をさがすような、子ども同士のからかい言葉だと考えられています。
厳しい行列の話から一転して、日常の他愛ないやりとりで歌を締めくくる。この緩急こそ、わらべうたの面白さです。
ずいずいずっころばしの意味の核心「お茶壺道中」とは

ずいずいずっころばしの意味を理解するうえで欠かせないのが、江戸時代の「お茶壺道中(御茶壺道中)」です。これは、京都・宇治の上質な茶を将軍家へ献上するため、茶を詰めた壺を運んだ行列のことを指します。
お茶壺道中の歴史
幕府が宇治へ茶を取りに行かせた記録は、古いものでは慶長18年(1613年)にさかのぼります。その後、寛永10年(1633年)ごろに三代将軍・徳川家光によって制度化され、毎年の恒例行事となりました。
運ばれたのは将軍が口にする最高級の茶です。壺は単なる入れ物ではなく、将軍家の権威そのものを背負った「ご神体」のように扱われました。
なぜ庶民は茶壺に「追われた」のか
お茶壺道中の格式は非常に高く、その行列が通るときには、道中の大名行列でさえ道を譲ったといわれます。沿道の庶民は顔を上げることも許されず、ひたすら頭を下げて見送らねばなりませんでした。
行列が近づけば、道の掃除や補修を命じられ、商売も手控えるなど、人々の負担は少なくありませんでした。だからこそ「茶壺に追われて とっぴんしゃん」、つまり戸を閉めて家にこもり、通り過ぎるのをじっと待ったのです。

「怖い歌」って本当?歌に隠された諸説
ずいずいずっころばしは「じつは怖い意味がある」と語られることがあります。ただし、歌詞の解釈には複数の説があり、確定したものはありません。代表的な見方を整理しておきましょう。
お茶壺道中を風刺・おそれた歌とする説
もっとも有力なのが、これまで見てきたお茶壺道中説です。権威をかさに着た行列におびえ、戸を閉めてやり過ごす庶民の暮らしを、子どもの歌の形で映したという見方です。
「怖い」と言われるのは、この、庶民が息をひそめる緊張感に由来します。残酷な事件の歌というより、当時の社会の空気を伝える歌だと考えると腑に落ちます。
言葉のリズムを楽しむ言葉遊び説
一方で、わらべうたは意味よりも音の連なりやリズムを楽しむもので、お茶壺道中とは本来関係なかったのではないか、という見方もあります。
民俗学者の柳田國男は、結びの「とっぴんしゃん」を、東北地方の昔話の結句「とっぴんぱらりのぷう」と同じ系統の言葉だと指摘しました。意味づけはあとから結びついた可能性もある、というわけです。
大人の戯れ歌とする説
ほかにも、ひそかに男女の機微をうたった大人の戯れ歌だとする説など、意味深な解釈もいくつか伝わっています。
ただし、これらは確かな裏づけがあるわけではありません。さまざまな読み解きができること自体が、長く愛されてきたわらべうたの懐の深さだといえます。
ずいずいずっころばしの遊び方とルール

ずいずいずっころばしは、歌に合わせて遊ぶ手遊びうたとしても親しまれてきました。道具はいらず、数人いればすぐに始められます。
基本の遊び方
遊び方はとてもシンプルです。次の手順で進めます。
- 数人で内側を向いて輪になり、鬼を一人決めます。
- 鬼以外の人は、両手で軽くこぶしを握り、中央に穴をあけて前に出します。これが「茶壺」に見立てた的になります。
- 鬼は歌を歌いながら、人さし指を順番に一つずつ茶壺(こぶしの穴)に入れていきます。
- 歌が終わった瞬間に、指が入っていた人が次の鬼になります。
たったこれだけですが、歌い終わりがどこに来るかをめぐって、自然と盛り上がります。
別ルール・アレンジ
地域によっては、指が入った茶壺を順に引き抜いていき、最後まで残った人を鬼にする遊び方もあります。歌うスピードを変えるだけでも、ドキドキ感がぐっと増します。

似たわらべうた・意味が気になる昔のうた
ずいずいずっころばしのように、何気なく歌っていたわらべうたにも、背景の物語や「怖い意味」がささやかれるものは少なくありません。「かごめかごめ」や「通りゃんせ」などは、その代表格です。
なかでも「花いちもんめ」は、歌詞の意味をめぐっていくつもの説が語られる一曲です。あわせて読むと、わらべうたの奥深さがいっそう見えてきます。
ずいずいずっころばしのよくある質問(Q&A)
ずいずいずっころばしは何歳から楽しめますか?
手遊びとしては、2歳から3歳くらいの幼児から十分に楽しめます。指を入れる動作はシンプルなので、小さな子でも参加しやすい遊びです。
一方で、お茶壺道中などの歌詞の意味まで味わえるようになるのは、小学生以降でしょう。年齢に応じて二度おいしいのが、このうたの魅力です。
「とっぴんしゃん」とはどういう意味ですか?
戸を勢いよくピシャリと閉める音を表した擬音語だとされます。お茶壺道中の行列が来たので、慌てて戸を閉めた様子を音で表現したものです。
地域によっては「とっぴんしゃ」など、わずかに異なる形で歌われることもあります。
お茶壺道中は実際にどの道を通ったのですか?
宇治から江戸までを結ぶ街道が使われ、東海道のほか、年によっては中山道や甲州街道を経由したと伝えられます。行きと帰りで経路を変えることもありました。
沿道の宿場では、行列を迎えるための道の整備や掃除に大きな労力が割かれたといいます。
まとめ:ずいずいずっころばしが映す江戸の暮らし
ずいずいずっころばしは、ただのナンセンスな遊び歌ではありませんでした。
「茶壺に追われて とっぴんしゃん」の一節には、お茶壺道中という権威ある行列におびえ、戸を閉めてやり過ごした江戸の庶民の暮らしが映っています。
一方で、歌詞の意味には言葉遊び説などいくつもの解釈があり、「これが正解」という決まった答えはありません。その曖昧さもまた、長く歌い継がれてきた魅力です。
意味を知ったうえで、手遊びうたとしてもう一度口ずさんでみてください。子どものころとは少し違う景色が見えてくるはずです。


