正方形をたった7枚に切り分けただけの道具で、動物や人、家、ヨット、アルファベットまで、無限に近い形を作り出せるパズルがあります。それが「タングラム」です。
子ども向けの知育おもちゃとして知られていますが、その正体は200年以上にわたって世界中の大人をも夢中にさせてきた、奥の深い図形パズルです。あのナポレオンも遊んでいたという記録が残っているほどです。

この記事では、タングラムの基本ルールや遊び方、折り紙でできる作り方から、中国発祥といわれる歴史の真相、7ピースに隠された数学の秘密、さらに日本版タングラム「清少納言知恵の板」まで、たっぷり徹底解説していきます。
目次
タングラムとは?7枚のピースで形を作るシルエットパズル

タングラム(tangram)とは、1つの正方形を7つのピースに分割し、それらを組み合わせてさまざまな形(シルエット)を作って遊ぶパズルです。
「シルエットパズル」「分割パズル」「カッティングパズル」などとも呼ばれます。決められた輪郭の中にピースをぴったり収めたり、自由に動物や物の形を作ったりして楽しみます。
使うピースはたった7枚。それなのに組み合わせ方は膨大で、シンプルな三角形から複雑な人物のポーズまで、アイデア次第でいくらでも表現できます。この「少ない道具で無限に遊べる」点が、長く愛され続けてきた理由です。
タングラムを構成する7つのピース
タングラムの7ピースは、次のような内訳になっています。すべて直線だけでできた、シンプルな幾何学図形です。
- 大きな直角二等辺三角形:2枚
- 中くらいの直角二等辺三角形:1枚
- 小さな直角二等辺三角形:2枚
- 正方形:1枚
- 平行四辺形:1枚
7枚のうち5枚が直角二等辺三角形で、残りが正方形と平行四辺形という構成です。面積で比べると、小さな三角形を1とした場合、中くらいの三角形・正方形・平行四辺形はそれぞれ小さな三角形2枚分、大きな三角形は4枚分にあたります。7枚をすべて合わせると、小さな三角形16枚分の大きな正方形になります。
注目したいのが平行四辺形です。7ピースの中で唯一、裏返すと鏡に映したような左右反転の形になります。そのため「ピースの裏返しを認めるかどうか」で、作れる形が少し変わってくるのです。
タングラムのルールと基本の遊び方
タングラムのルールはとてもシンプルです。基本は次の3つだけ覚えておけば、すぐに遊び始められます。
- 7枚のピースをすべて使う
- ピース同士を重ねない(平らに並べる)
- お題のシルエットと同じ形を完成させる
お手本になるのは、中身が黒く塗りつぶされた「影絵(シルエット)」です。その輪郭の中に7枚のピースをぴったり収められれば正解になります。どのピースをどこに使うかは決められていないので、正解にたどり着く道筋は一通りではありません。ここが、ピースの位置が決まっている普通のジグソーパズルとの大きな違いです。
ピースを裏返してよいかどうかは、流派によって異なります。平行四辺形を裏返さないと作れない形もあるため、家庭で遊ぶときは「裏返しOK」にすると難易度がほどよく下がり、小さな子どもでも楽しめます。

タングラムの遊び方のバリエーション
同じ7ピースでも、遊び方を変えると一気に楽しみ方が広がります。代表的なものを紹介します。
- シルエット復元:お題の影絵と同じ形を作る、最も基本的な遊び方です。問題集やアプリのお題を使います。
- 自由創作:お題なしで、自分の好きな動物や物を自由に表現します。発想力が試される遊び方です。
- 凸多角形チャレンジ:へこみのない多角形だけを作る、数学的で歯ごたえのある遊び方です。
- スピード対戦:同じお題を二人で用意し、早く完成させたほうが勝ち。盛り上がる遊び方です。
- 文字・数字づくり:アルファベットや数字を作り、並べてメッセージにして楽しみます。
タングラムの作り方(折り紙や厚紙で簡単手作り)

タングラムは市販もされていますが、家にあるものでも簡単に手作りできます。1つの正方形を規則的に切り分けるだけなので、特別な道具は必要ありません。
用意するのは、折り紙や厚紙、牛乳パック、フェルトなど。正方形にカットした素材を、次の手順で7ピースに分けていきます。
- 正方形を対角線で半分に折り、大きな三角形2枚に分けます。
- 片方の大きな三角形を、頂点から底辺の中点へさらに半分に切り、大きな直角二等辺三角形2枚を作ります。
- 残り半分の三角形を、中くらいの三角形1枚・小さな三角形2枚・正方形・平行四辺形の5ピースに細かく分けます。
厚紙やマグネットシートで作ると、何度でも繰り返し遊べて丈夫です。100円ショップのマグネットシートを使えば、冷蔵庫にくっつけて遊ぶこともできます。色画用紙で7枚を別々の色にすると、どのピースを使ったかが分かりやすくなり、小さな子どもにもおすすめです。
タングラムの問題に挑戦!難易度別のお題
タングラムの問題(お題)は、作る形によって難易度が大きく変わります。代表的なお題を、難易度別に見てみましょう。
- 入門:正方形・長方形・三角形などの基本図形。ピースの置き方に慣れる練習になります。
- 初級:家・ヨット・ろうそく・矢印など。輪郭が分かりやすく、達成感を得やすいお題です。
- 中級:走る人・座る人・猫・うさぎなど。手足やしっぽの表現に工夫が必要になります。
- 上級:複雑なポーズの人物・漢字・アルファベット・凸多角形。大人でも頭をひねる難問です。
解くときのコツは、いきなり細部から考えないことです。まずは輪郭全体をながめ、面積の大きい「大きな三角形2枚」をどこに置くかを決めると、残りのピースが収まる場所が一気に見えてきます。
タングラムの歴史と由来(中国発祥の七巧板)

タングラムのルーツは、中国の「七巧板(しちこうばん)」にあるといわれています。七巧図とも呼ばれ、7枚の板で形を作るという点は、現在のタングラムとまったく同じです。
その成立時期は、はっきりとは分かっていません。宋の時代の宴会用テーブルの配置図「燕几図(えんきず)」や、明の時代に厳澄が考案した「蝶几図(ちょうきず)」が源流という説があります。ただし、遊びとしての七巧板が実際に広まったのは、清の時代、18世紀末から19世紀初頭にかけてと考えられています。
その後、19世紀の初めにヨーロッパへ伝わります。1805年の書籍で紹介され、1817年にはイギリスで問題集が発売されると、欧米で爆発的なブームを巻き起こしました。19世紀末にはドイツのリヒター社が製品として売り出し、世界中に広まっていきます。
200年あまりという数字を聞くと短く感じるかもしれませんが、これほど長く世界中で遊ばれ続けてきたパズルは、決して多くありません。シンプルさゆえの普遍的な面白さが、時代と国境を越えてきた証といえます。
タングラムに隠された数学の秘密
シンプルに見えるタングラムですが、数学の世界では、れっきとした研究対象になっています。代表的な2つの「秘密」を紹介します。
作れる凸多角形はちょうど13種類だけ
1942年、数学者の王福春(Fu Traing Wang)と熊全治(Chuan-Chih Hsiung)は、タングラムの7ピースで作れる「凸多角形(へこみのない多角形)」が、ちょうど13種類しかないことを証明しました。
その内訳は、三角形が1種類、四角形が6種類、五角形が2種類、六角形が4種類です。七角形以上の凸多角形は、7ピースをどう組み合わせても作れません。自由な形なら無数に作れるのに、凸多角形に限ると13種類で打ち止め、という事実は驚きです。
面積は同じなのに違って見えるタングラム・パラドックス
同じ7ピースを使う以上、できあがる図形の面積は必ず同じになります。ところが、ほとんど同じに見える2つの形を並べたとき、片方だけに出っ張りや欠けがあるように見える不思議な図があります。これを「タングラム・パラドックス」と呼びます。
イギリスのパズル作家ヘンリー・デュードニーが紹介した、足のある僧侶と足のない僧侶の図が特に有名です。どちらも同じ7ピースで作られているのに、片方には足があり、もう片方にはない。これは面積の差ではなく、ピースの配置の妙が生み出す目の錯覚なのです。
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タングラムを愛した世界の有名人
19世紀の欧米ブームの中で、タングラムは数々の著名人を魅了しました。
最も有名なのが、フランス皇帝ナポレオン・ボナパルトです。長らく逸話とされてきましたが、20世紀末の調査で、マルメゾン城に残るナポレオンの遺品コレクションの中から、象牙でできたタングラムと問題集が見つかりました。失脚後の静かな時間に、彼が実際にこのパズルを楽しんでいたことがうかがえます。
『不思議の国のアリス』の作者ルイス・キャロルや、『黒猫』などで知られる作家エドガー・アラン・ポーも、タングラムの愛好家だったと伝えられています。論理パズルや言葉遊びを好んだ作家たちが夢中になったのも、うなずける話です。

日本版タングラム「清少納言知恵の板」
実は日本にも、タングラムによく似た伝統的なシルエットパズルがあります。それが「清少納言知恵の板(せいしょうなごんちえのいた)」です。
文献での初出は、1742年(寛保2年)に刊行された同名の書物で、著者は多賀谷環中仙だと考えられています。タングラムと同じく7枚のピースで形を作りますが、正方形の分割の仕方が異なり、一般にタングラムよりも難しいとされています。
この本には、いろは48文字すべてに対応する作例が載っているのが大きな特徴です。名前に「清少納言」とありますが、『枕草子』の清少納言が実際に作ったり遊んだりしたわけではありません。「聡明で知恵のある女性」の代名詞として、その名が借りられたと考えられています。
清少納言知恵の板(1742年)と中国の七巧板は、どちらも18世紀ごろに登場しており、正確な発祥は分かっていません。それぞれ独立して生まれた可能性や、片方が伝わって変化した可能性など、複数の説があります。日本にも江戸時代から独自のシルエットパズルがあったという事実は、覚えておくと話のタネになります。

タングラムの知育効果(子どもから大人まで)
タングラムが知育おもちゃとして人気なのには、きちんとした理由があります。遊びながら、さまざまな力を自然に育てられるのです。
- 図形感覚・空間認識力:ピースを回転させたり組み合わせたりするうちに、図形を頭の中で動かす力が養われます。
- 論理的思考力:どのピースをどこに置くかを順序立てて考えることで、筋道を立てる力がつきます。
- 創造力:自由に形を作る遊びは、発想力や表現力を伸ばします。
- 集中力・忍耐力:完成までじっくり取り組むことで、物事に向き合う集中力が育ちます。
- 指先の巧緻性:小さなピースを並べる動作が、手先の器用さにつながります。
これらの効果は、子どもだけのものではありません。大人にとっても、タングラムは手軽な脳トレになります。テレビを見ながら、コーヒーブレイクのお供に、気軽な頭の体操として楽しめます。図形を扱う力は、年齢を問わず鍛えられるのです。
タングラムに関するよくある質問(FAQ)
Q. タングラムのピースは何枚ですか?
A. 7枚です。大きな三角形2枚、中くらいの三角形1枚、小さな三角形2枚、正方形1枚、平行四辺形1枚で構成されています。
Q. タングラムは何歳から遊べますか?
A. 一般的には3歳ごろから楽しめます。最初は少ないピースの簡単なお題から始め、慣れてきたら7ピース全部を使う問題に挑戦するとよいでしょう。
Q. タングラムと清少納言知恵の板の違いは?
A. どちらも7ピースのシルエットパズルですが、正方形の分割の仕方が異なります。清少納言知恵の板のほうが分割が複雑で、難易度が高いといわれています。
Q. タングラムで作れる形はいくつありますか?
A. 自由な形まで含めれば無数にあります。一方で、へこみのない「凸多角形」に限ると、作れるのはちょうど13種類だけだと数学的に証明されています。
Q. 道具がなくても遊べますか?
A. 折り紙や厚紙があれば簡単に手作りできます。スマートフォンやパソコンのアプリでも遊べるので、手軽に試したい場合はアプリもおすすめです。
まとめ:タングラムはシンプルで奥深い世界のパズル
タングラムは、1つの正方形を7枚に分けただけのシンプルなパズルです。しかしそのルールの手軽さとは裏腹に、作れる形は無数にあり、子どもから大人まで長く楽しめます。
歴史をたどれば、中国の七巧板から19世紀の欧米ブームへとつながり、ナポレオンやルイス・キャロルといった著名人をも魅了してきました。「4000年の歴史」は作り話でしたが、200年以上も世界で愛されてきたという事実だけでも、十分に魅力的です。
7ピースに隠された「凸多角形は13種類だけ」という数学の秘密や、日本独自の「清少納言知恵の板」の存在など、知れば知るほど奥が深い世界が広がっています。
まずは折り紙で1セット手作りして、お子さんと一緒に、あるいは一人の頭の体操として、タングラムの世界に触れてみてはいかがでしょうか。


