幼稚園や保育園で一度は歌ったことのある「大きな栗の木の下で」。両手を頭の上で大きく広げる、あの手遊びでおなじみですよね。
じつはこの歌、もとをたどると日本生まれの童謡ではなく、海を越えたイギリス民謡が原曲だとご存じでしょうか。しかもイギリスの国王が少年キャンプで振り付けを披露して大流行させた、という驚きのエピソードまで残っているのです。

この記事では、「大きな栗の木の下で」の1番から3番までの歌詞の意味、原曲であるイギリス民謡の正体、日本に伝わった由来、そして名作小説にまつわる意外な小ネタまで、まるごと徹底解説していきます。
目次
大きな栗の木の下でとは?まずは基本をおさらい

夏の栗の木。青々とした葉のあいだに、トゲに包まれた若いイガがのぞいています。秋になれば、あの実が顔を出します。
「大きな栗の木の下で」は、両手を使った手遊び歌として親しまれている一曲です。幼稚園や保育園の定番で、音楽の教科書にも掲載されています。
2007年には、文化庁と日本PTA全国協議会が選んだ「日本の歌百選」の一つにも選ばれました。世代を問わず愛されている、日本を代表する童謡・唱歌のひとつといえます。
ところが、この歌の作詞者・作曲者はいずれも「不詳」とされています。というのも、原曲は日本生まれではなく、イギリス民謡だからです。この意外な出自こそが、この歌を奥深いものにしています。

大きな栗の木の下での歌詞(1番)の意味を解説
1番の歌詞は、「大きな栗の木の下で、あなたとわたしが、なかよく遊びましょう」という、とてもシンプルな内容です。
ここで歌われているのは、大きな栗の木という安心できる場所で、あなたとわたしという二人が仲良く過ごす、という情景です。栗の木はどっしりと枝を広げ、涼しい木陰をつくってくれます。その下は、子どもにとって格好の遊び場だったのでしょう。
難しい言葉はひとつも使われていません。しかし、大きな木の下で親しい人と過ごす心地よさは、時代や国を越えて誰もが思い浮かべられる普遍的な情景です。だからこそ、世界中で歌い継がれてきたのですね。
2番・3番の歌詞と意味|登場人物が広がっていく仕掛け
じつは「大きな栗の木の下で」には、あまり歌われませんが2番と3番があります。この続きにこそ、作り手の込めたメッセージが隠れています。
2番では、「お話ししましょう、みんなで輪になって」と歌われます。1番では「あなたとわたし」の二人だけだった登場人物が、2番では「みんな」へと広がっているのがポイントです。
そして3番では、「大きな夢を、大きく育てましょう」と歌われます。「大きな」「大きく」という言葉が重ねられ、栗の木のようにのびのびと夢を育てよう、という前向きなメッセージで締めくくられます。
二人からみんなへ、そして夢へと、歌が進むごとに世界がどんどん広がっていく構成になっているわけです。何気なく口ずさんでいた歌に、こんな仕掛けが隠れていたのですね。
2番3番の訳詞者は阪田寛夫|1番は「訳詞者不詳」の謎
この歌の日本語詞には、少しややこしい事情があります。訳詞者が番によって違い、しかも一部は「不詳」とされているのです。
2番と3番の訳詞を手がけたのは、詩人・作家の阪田寛夫さんとされています。阪田寛夫さんは「サッちゃん」や「おなかのへるうた」などの童謡の作詞で知られ、小説「土の器」で芥川賞も受賞した実力派です。
一方で、いちばん有名な1番の訳詞者は「不詳」となっています。振付師の平多正於さんとする説もありますが、確定はしていません。さらに、訳詞者を寺島尚彦さんとする資料もあり、諸説が入り混じっているのが実情です。
これほど有名な歌なのに、肝心の1番の作者がはっきりしない。これも、原曲が海外から口伝えで伝わってきたことの名残なのかもしれません。
大きな栗の木の下での原曲はイギリス民謡だった

秋になると実る栗。この木を舞台にした歌は、じつは遠いイギリスで生まれました。
「大きな栗の木の下で」の原曲は、英語で「Under the Spreading Chestnut Tree(枝を広げた栗の木の下で)」というイギリスの歌です。日本語のタイトルは、この英題をほぼそのまま訳したものだったのですね。
そのメロディの源流は、さらに古い時代までさかのぼります。研究者アン・ギルクリストによれば、この旋律は「Go no more a-rushing」という古い英国の曲がもとになっており、エリザベス朝の作曲家ウィリアム・バードやジャイルズ・ファーナビーが鍵盤楽器のために編曲していたと伝えられています。
1939年には、チェコの作曲家ヴァインベルゲルが、この旋律を主題にした管弦楽曲「『大きな栗の木の下で』による変奏曲とフーガ」を作曲しています。数百年の時を越えて受け継がれてきた、由緒あるメロディだったわけです。

大きな栗の木の下でを動作つきで歌う起源|ジョージ6世の逸話
「大きな栗の木の下で」といえば、歌詞に合わせて体を動かす手遊びが定番です。じつはこの「動作をつけて歌う」スタイルも、イギリス時代からのものでした。
この歌がイギリスで一躍有名になったのは、1938年のことと伝えられています。当時の国王ジョージ6世が、少年たちのためのキャンプ(ヨーク公キャンプ)でこの歌の振り付けを自ら楽しそうに演じる様子が撮影され、大きな話題になりました。
国王までもが身振り手振りで歌うということで、この歌はイギリス中に広まりました。その後、名門グレン・ミラー楽団が1939年にレコードへ吹き込むなど、一大流行歌となっていったのです。
「みんなで体を動かしながら歌う」という遊び方は、国も言葉も違う日本の手遊びとまったく同じですね。歌の遊び方まで、海を越えて受け継がれてきたのです。
戦後GHQから日本へ|NHK「うたのおじさん」が広めた
では、イギリス生まれのこの歌は、どうやって日本にやってきたのでしょうか。
きっかけは、太平洋戦争の後だと言われています。日本に来ていたGHQ(連合国軍総司令部)の人々が口ずさんでいたのを、日本人が聞き覚えて歌い出したのが始まりとされています。
そして全国区の人気曲になったのは、テレビの力でした。NHKの子ども向け番組「うたのおじさん」で、声楽家の友竹正則さんが動作をつけて歌ったことで、手遊び歌として一気に定着したのです。
戦後の日本の子どもたちは、こうしてイギリス民謡を「日本の童謡」として自然に受け入れていきました。今ではすっかり、日本の歌のひとつになっていますね。
英語版の歌詞と動作(chest・nut・tree)で遊ぶ方法
せっかくなので、原曲である英語版の歌詞も見てみましょう。遊び歌としての英語版は、次のような歌詞で知られています。
「Under the spreading chestnut tree, there we sit both you and me. Oh how happy we will be, under the spreading chestnut tree.(大きな栗の木の下で、あなたとわたしが座る。ああ、なんて幸せなんだろう、大きな栗の木の下で)」
英語版の面白いところは、歌をくり返すたびに単語をひとつずつ「動作」に置き換えていく遊び方です。たとえば「chest(胸)」で胸をたたき、「nut(頭)」で頭を指さし、「tree(木)」で両手を上に伸ばします。歌詞の言葉を声に出さず、ジェスチャーだけで表現していくのです。
回を追うごとに黙る単語が増えていくので、最後はほとんど身振りだけになります。これは英語の発音やリズムに親しむ教材としても優秀で、英語の手遊びうたとして今も親しまれています。
同じように、海外の歌が原曲でありながら日本で手遊び歌として定着した例に「アルプス一万尺」があります。あわせて読むと、童謡のルーツ探しがいっそう楽しくなります。
オーウェル『1984年』に登場する「大きな栗の木の下で」
もうひとつ、この歌には文学好きをうならせる小ネタがあります。イギリスの作家ジョージ・オーウェルの名作「1984年」に、この歌が登場するのです。
ただし、小説の中では歌詞が不気味に書き換えられています。「Under the spreading chestnut tree, I sold you and you sold me.(大きな栗の木の下で、私はあなたを売り、あなたは私を売った)」という替え歌になっているのです。
「1984年」は、徹底した監視社会を描いたディストピア小説です。この替え歌は、拷問の末に互いを裏切ってしまった主人公たちの悲しい運命を象徴する、切ないフレーズとして作中でくり返されます。

手遊びのやり方と替え歌アレンジ|保育や親子で楽しむ

栗を思い浮かべながら歌えば、手遊びはもっと楽しくなります。
実際に手遊びをするときの基本の振り付けも紹介しておきましょう。決まった正解があるわけではないので、園や地域によって少しずつ違います。
定番なのは、「大きな」で両手を大きく広げ、「栗」で頭の上に手で栗の形をつくり、「木」で両手を上へ伸ばす、といった動きです。歌詞の言葉を体の動きで表しながら歌うと、小さな子どもでも楽しく覚えられます。
アレンジもいろいろあります。「大きな」を「小さな」に変えて声も体も小さくする替え歌や、だんだん歌うスピードを速くしていく早口バージョンなど、遊び方は自由自在です。
親子のスキンシップにもぴったりなので、ぜひ体を動かしながら一緒に歌ってみてくださいね。
大きな栗の木の下でにまつわる豆知識クイズ5問
ここまでの内容から、「大きな栗の木の下で」の豆知識クイズを5問出題します。何問わかるでしょうか。
第1問:「大きな栗の木の下で」の原曲は、どこの国の歌でしょう?
答え:イギリスです。英語の原題は「Under the Spreading Chestnut Tree」といいます。
第2問:2番・3番の訳詞をしたとされる、「サッちゃん」でも有名な詩人は誰でしょう?
答え:阪田寛夫さんです。芥川賞作家でもあります。
第3問:この歌の振り付けを少年キャンプで演じ、イギリスで流行させたと伝わる人物は?
答え:国王ジョージ6世です。
第4問:日本でこの歌を広めた、NHK「うたのおじさん」の声楽家は誰でしょう?
答え:友竹正則さんです。
第5問:この歌が不気味な替え歌として登場する、ジョージ・オーウェルの小説は?
答え:「1984年」です。
大きな栗の木の下でのよくある質問(FAQ)
最後に、「大きな栗の木の下で」についてよく寄せられる質問に答えておきます。
Q:作詞・作曲は誰ですか?
A:原曲がイギリス民謡のため、作詞者・作曲者ともに不詳です。日本語詞は2番・3番が阪田寛夫さん、1番は不詳とされています。
Q:歌詞は何番までありますか?
A:一般には3番まで知られています。ふだんは1番だけが歌われることがほとんどです。
Q:「くり」とひらがなで書かれることがあるのはなぜですか?
A:幼い子どもにも読めるように、童謡ではひらがな表記が使われることが多いためです。「大きなくりの木の下で」と書いても同じ歌を指します。
Q:英語の歌なのですか?
A:原曲は英語(イギリス)の歌ですが、日本では日本語の訳詞で親しまれています。英語版と日本語版のどちらで歌っても楽しめます。
Q:「日本の歌百選」とは何ですか?
A:2007年に文化庁などが、親子で歌い継いでほしい日本の歌として選んだ101曲のことです。「大きな栗の木の下で」もその一つに選ばれています。
まとめ|大きな栗の木の下での魅力を歌に乗せて
「大きな栗の木の下で」は、シンプルな手遊び歌でありながら、たどってみると奥深い歴史を持つ一曲でした。
原曲は数百年の時を越えて伝わったイギリス民謡で、国王ジョージ6世が広めたという逸話まで残っています。
それが戦後にGHQを通じて日本へ渡り、NHKの番組をきっかけに日本の子どもたちの定番になりました。
歌詞には、1番の「あなたとわたし」から2番の「みんな」、3番の「夢」へと広がっていく、前向きなメッセージが込められています。
今度お子さんと歌うときは、こうした背景を思い浮かべながら、大きく体を動かして楽しんでみてくださいね。


