「世界で一番速い鳥は何だろう?」と聞かれたら、多くの方がハヤブサと答えるのではないでしょうか。
実はこの質問、答えが1つではありません。急降下のスピードと、水平飛行のスピードでは「最速」の鳥がまったく異なるからです。
この記事では、急降下速度と水平飛行速度それぞれのTOP5、合計10種の最速の鳥を、速度データ・体の特徴・面白い生態とともにランキング形式でご紹介します。

「最速の鳥」を決める基準は2つある
鳥の飛行速度を語るとき、「急降下速度」と「水平飛行速度」を明確に区別する必要があります。この2つは飛行の原理がまったく異なるため、同じ土俵で比べることはできません。
| 比較項目 | 急降下(ストゥープ) | 水平飛行(レベルフライト) |
|---|---|---|
| 速度の源 | 重力+翼をたたむ空気抵抗削減 | 翼の羽ばたき+筋力のみ |
| 持続時間 | 数秒〜十数秒 | 数分〜数時間 |
| 目的 | 獲物への高速接近 | 移動・渡り・採餌 |
| チャンピオン | ハヤブサ(時速389km) | ハリオアマツバメ(時速169km) |
急降下速度は猛禽類(ワシ・タカ・ハヤブサなど)が圧倒的に強く、水平飛行速度ではアマツバメ類やガン類が上位を占めます。それぞれのランキングを見ていきましょう。
【急降下速度】最速の鳥ランキングTOP5
急降下は英語で「ストゥープ(stoop)」と呼ばれ、上空から翼をたたんで一気に落下する飛行技術です。重力を最大限に利用するため、水平飛行では考えられない超高速が出ます。
第1位:ハヤブサ|急降下時速389km

ハヤブサは地球上で最も速い動物です。急降下時の最高速度は時速389kmに達し、これは東海道新幹線「のぞみ」の最高速度(時速285km)をはるかに上回ります。
この驚異的な速度は、2005年にアメリカのケン・フランクリン氏がスカイダイビングをしながら計測したもので、訓練されたハヤブサ「フライトフル」が記録しました。
ハヤブサが超高速で急降下できる秘密は、その体の構造にあります。急降下中に目を保護する「瞬膜」という第3のまぶた、高速でも呼吸できるよう鼻孔に備わった円錐形の突起(バッフル)、そして空気抵抗を極限まで減らす流線型の体型。これらすべてが時速389kmという驚異的なスピードを可能にしています。
全長38〜50cm、翼開長95〜115cm。南極大陸を除くすべての大陸に分布しており、日本でも全国的に生息しています。近年は都市部のビルや橋梁に営巣する個体も確認されています。
第2位:イヌワシ|急降下時速320km

イヌワシは猛禽類の中でも最大級の体格を誇り、急降下速度は最大で時速320kmに達するとされています。翼開長は最大220cmにもなり、その巨大な翼をたたんで落下する姿は圧巻です。
主にウサギ、ノウサギ、マーモットなどの中型哺乳類を捕食し、まれにキツネや子鹿を襲うこともあります。モンゴルではイヌワシを使った鷹狩り「ブルクテリ」が伝統文化として受け継がれており、ユネスコ無形文化遺産にも関連する文化として知られています。
日本では国の天然記念物に指定されており、環境省の調査によると国内の生息数は推定約500羽ほどです。本州の山岳地帯を中心に生息していますが、生息環境の減少により絶滅が危惧されています。
第3位:シロハヤブサ|急降下時速209km
シロハヤブサはハヤブサ科の中で最も大きな種で、北極圏のツンドラ地帯に生息しています。急降下速度は時速209kmに達します。
全長48〜65cm、翼開長は最大160cm。ハヤブサよりひと回り大きく、白・灰・暗色の3つの色彩型があります。中世ヨーロッパでは「王の鳥」と呼ばれ、王族や高位貴族だけが飼育を許される最高位の鷹狩りの鳥でした。
日本にはまれな冬鳥として北海道に飛来することがありますが、目撃例は非常に少なく、バードウォッチャーにとっては「幻の鳥」のような存在です。
第4位:チゴハヤブサ|急降下時速161km
チゴハヤブサは全長29〜36cmの小型のハヤブサで、そのスピードと機動性は「空中のスポーツカー」と称されるほどです。急降下速度は時速161kmに達します。
最大の特徴は、飛翔中のツバメやトンボを空中で捕獲する卓越した飛行能力です。ツバメは鳥の中でも俊敏さで知られますが、チゴハヤブサはそのツバメを追い越して捕まえるのですから、そのスピードは本物です。
日本には夏鳥として飛来し、北海道から本州の山林で繁殖します。他の鳥の古巣を利用して子育てをするという面白い習性があります。
第5位:ハイタカ|急降下時速150km
ハイタカは全長29〜39cmの比較的小さな猛禽類ですが、急降下速度は時速150kmに達します。林間をすり抜けながら小鳥を奇襲する飛行スタイルが特徴的です。
短い翼と長い尾を持ち、木々の間を驚異的な機動力で飛び回ります。この体型は高速直線飛行には向きませんが、障害物だらけの森林内での旋回や急制動に最適化されています。日本では「はいたか」の名で古くから鷹狩りに使われてきた歴史があります。
日本全国に生息する留鳥で、冬には大陸からの渡り個体も加わるため、身近な場所でも見られることがある鳥です。
【水平飛行速度】最速の鳥ランキングTOP5
水平飛行は自らの筋力と翼の揚力だけで推進する飛び方です。重力のアシストがない分、急降下ほどの速度は出ませんが、それでも人間の想像を超えるスピードで空を駆け抜ける鳥たちがいます。
第1位:ハリオアマツバメ|水平飛行時速169km

ハリオアマツバメは水平飛行における世界最速の鳥として、ギネスブックにも認定されています。その速度は時速169km。高速道路を走る車の約2倍のスピードです。
全長18〜21cmとそれほど大きくない体ですが、鎌のように湾曲した細長い翼が高速飛行を可能にしています。名前の「ハリオ」は「針尾」の意味で、尾羽の先端が針のように硬く尖っていることに由来します。この硬い尾羽は木の幹や岩壁に止まる際の支えとして使われます。
日本には夏鳥として飛来し、主に山地の上空で見られます。数十羽から数百羽の群れで飛ぶ姿は壮観で、渡りの時期には関東平野の上空でも観察されることがあります。
第2位:ツメバガン|水平飛行時速142km

ツメバガンはアフリカに生息する大型の水鳥で、水平飛行速度は時速142kmに達します。体長75〜100cm、体重は最大6.8kgにもなるガン類としては異例の巨体です。
名前の「ツメ」は、翼の前縁にある骨質の爪状突起に由来します。この突起は武器としても使われ、縄張り争いの際に相手を攻撃することがあります。
もう1つの驚くべき特徴は、ツメバガンが毒を持つ鳥であるということです。主食であるマメハンミョウ(ツチハンミョウ科の甲虫)から得たカンタリジンという毒素を体内に蓄積しています。ツメバガンの肉を食べた人間が中毒を起こした事例も報告されています。
第3位:ハイガシラアホウドリ|水平飛行時速127km

ハイガシラアホウドリは「持久力×速度」で見ると地球上で最も優れた飛行者かもしれません。2004年の調査では、GPSを装着した個体が時速127kmを8時間以上維持して嵐の中を飛び続けたことが記録され、ギネス世界記録に認定されました。
翼開長は約220cm。この大きな翼で「ダイナミックソアリング」という飛行技術を使い、ほとんど羽ばたかずに風のエネルギーだけで飛び続けます。海面近くの弱い風と上空の強い風の速度差を利用して、まるで永久機関のように飛行するのです。
南半球の亜南極海域に分布し、日本近海には生息していません。しかし、アホウドリ類の中では近縁のコアホウドリやクロアシアホウドリが日本近海でも観察されています。

第4位:アマツバメ|水平飛行時速111km
アマツバメ(ヨーロッパアマツバメ)は水平飛行速度こそ第4位ですが、「飛行時間」では他の追随を許さない驚異の記録を持っています。スウェーデン・ルンド大学の研究チームが2016年に発表した論文によると、アマツバメは最長10ヶ月間一度も地上に降りずに飛び続けたことが確認されました。
食事・睡眠・交尾のすべてを飛びながら行うという、究極の空中生活者です。飛行中に脳の半分ずつ交互に休ませる「半球睡眠」によって、飛びながら眠ることができると考えられています。
全長16〜17cmの小さな体ながら、一生のうちに飛ぶ距離は地球と月を何往復もする計算になります。日本にはヨーロッパアマツバメそのものは飛来しませんが、近縁のアマツバメ(Apus pacificus、和名も同じ「アマツバメ」)が夏鳥として渡来します。
第5位:カワアイサ|水平飛行時速100km
カワアイサは水鳥としては最速クラスの飛行速度を誇り、水平飛行で時速100kmに達します。ガン・カモ類は一般に飛行速度が速い鳥ですが、その中でもカワアイサはトップクラスです。
全長51〜62cm。頭部の冠羽が特徴的で、オスは深緑色の頭に赤い嘴、メスは茶褐色の頭を持ちます。魚を主食とし、水中に潜って時速30km以上で泳ぎながら魚を追いかけます。「飛ぶのも泳ぐのも速い」という二刀流の持ち主です。
日本には冬鳥として飛来し、北海道から九州まで広く見られます。河川や湖沼で観察でき、バードウォッチング初心者にも見つけやすい鳥の一つです。
速い鳥10種の速度を一覧で比較
ここまで紹介した10種の鳥を、速度・体格・生息地で一覧比較してみましょう。
| 順位 | 鳥名 | 最高速度 | 種別 | 全長 | 翼開長 | 主な生息地 | 日本での状況 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 急降下1位 | ハヤブサ | 389km/h | 急降下 | 38-50cm | 95-115cm | 全世界(南極除く) | 留鳥・冬鳥 |
| 急降下2位 | イヌワシ | 320km/h | 急降下 | 75-90cm | 185-220cm | 北半球の山岳地帯 | 留鳥(天然記念物) |
| 急降下3位 | シロハヤブサ | 209km/h | 急降下 | 48-65cm | 110-160cm | 北極圏 | まれな冬鳥 |
| 急降下4位 | チゴハヤブサ | 161km/h | 急降下 | 29-36cm | 68-84cm | ユーラシア大陸 | 夏鳥 |
| 急降下5位 | ハイタカ | 150km/h | 急降下 | 29-39cm | 58-80cm | ユーラシア大陸 | 留鳥・冬鳥 |
| 水平1位 | ハリオアマツバメ | 169km/h | 水平飛行 | 18-21cm | 50-54cm | 東アジア〜豪州 | 夏鳥 |
| 水平2位 | ツメバガン | 142km/h | 水平飛行 | 75-100cm | 150-200cm | サハラ以南アフリカ | なし |
| 水平3位 | ハイガシラアホウドリ | 127km/h | 水平飛行 | 81cm | 220cm | 南半球亜南極海域 | なし |
| 水平4位 | アマツバメ | 111km/h | 水平飛行 | 16-17cm | 38-40cm | ユーラシア〜アフリカ | 近縁種が夏鳥 |
| 水平5位 | カワアイサ | 100km/h | 水平飛行 | 51-62cm | 67-82cm | 北半球 | 冬鳥 |
鳥はなぜこれほど速く飛べるのか?4つの身体的特徴
鳥が高速飛行を実現できるのは、数千万年の進化が生み出した4つの身体的特徴によるものです。
翼の形状と飛行スタイル
速い鳥ほど翼が細長く尖っている傾向があります。ハヤブサやアマツバメの翼は「高アスペクト比」と呼ばれる形状で、空気抵抗が少なく高速飛行に適しています。一方、ハイタカのように林間を飛ぶ鳥は短く丸い翼で、旋回性能を重視した設計になっています。
体重の15〜25%を占める巨大な胸筋
鳥の胸筋(大胸筋と小胸筋)は体重の15〜25%を占めます。これは人間の胸筋が体重の約1%であるのと比べると、15倍以上の割合です。この強大な筋肉が翼を高速で上下に動かし、推進力を生み出しています。特にハリオアマツバメのような水平飛行が速い鳥は、胸筋の割合が高い傾向にあります。
中空構造の骨(含気骨)
鳥の骨は内部が中空で、細い支柱(トラベキュラ)で補強された構造になっています。これは航空機の翼と同じ「モノコック構造」に近い設計で、軽さと強度を両立しています。ハヤブサの骨格は同じサイズの哺乳類と比べて約40%も軽いとされており、この軽量化が高速飛行の基盤となっています。
高効率な気嚢呼吸システム
鳥は哺乳類とはまったく異なる呼吸システムを持っています。肺に加えて「気嚢(きのう)」と呼ばれる9つの空気袋を体内に持ち、吸気時も呼気時も常に肺に新鮮な空気が一方向に流れ続ける仕組みです。
この「一方向流」の呼吸は、哺乳類の「往復流」と比べて酸素の取り込み効率が約33%高いとされています。高速飛行中は大量の酸素を消費するため、この高効率な呼吸システムがなければハヤブサの急降下もアマツバメの長時間飛行も実現できません。
日本で見られる速い鳥たち
今回のランキング10種のうち、日本で観察できる可能性がある鳥は実に7種もいます。
| 鳥名 | 日本での状況 | 観察しやすい場所・時期 |
|---|---|---|
| ハヤブサ | 留鳥・冬鳥 | 海岸の断崖、都市部のビル(通年) |
| イヌワシ | 留鳥(天然記念物) | 本州の山岳地帯(通年、目撃は困難) |
| シロハヤブサ | まれな冬鳥 | 北海道(冬季、極めてまれ) |
| チゴハヤブサ | 夏鳥 | 北海道〜本州の山林(5〜9月) |
| ハイタカ | 留鳥・冬鳥 | 全国の山林・公園(通年) |
| ハリオアマツバメ | 夏鳥 | 山地の上空(5〜9月) |
| カワアイサ | 冬鳥 | 全国の河川・湖沼(10〜3月) |
もしバードウォッチングで速い鳥を見たいなら、最も観察しやすいのはハヤブサとハイタカです。ハヤブサは海岸の断崖だけでなく、近年は都市部のビルや橋に営巣する個体も増えているため、意外と身近な場所で出会えることがあります。
よくある質問
Q. ダチョウは世界最速の鳥ではないのですか?
ダチョウは「走る速さ」では鳥類最速で、最高時速70kmに達します。しかしダチョウは飛べない鳥(走鳥類)のため、飛行速度のランキングには含まれません。ちなみに時速70kmは陸上動物全体ではチーター(時速120km)、プロングホーン(時速88km)に次ぐ速さです。
Q. ハヤブサは本当に新幹線より速いのですか?
はい。ハヤブサの急降下最高速度は時速389kmで、東海道新幹線「のぞみ」の最高営業速度285km/hを大幅に上回ります。ただし、これは急降下時の瞬間最高速度であり、水平飛行時のハヤブサの速度は時速65〜90km程度です。
Q. 鳥はどうやって飛行速度を計測するのですか?
主に3つの方法があります。1つ目はGPSトラッカーを鳥に装着して位置データから速度を算出する方法。2つ目はドップラーレーダーで飛行中の鳥を追跡する方法。3つ目はスカイダイバーと一緒に降下して計測する方法(ハヤブサの389km/hはこの方法で記録)です。計測方法によって数値が異なるため、速度データには常にある程度の幅があります。
Q. 渡り鳥が一度に飛ぶ最長距離はどのくらいですか?
長距離飛行の記録ではオオソリハシシギが圧倒的です。2007年にGPSを装着したメスの個体が、アラスカからニュージーランドまで約1万1570kmをノンストップで飛び続けたことが記録されています。飛行時間は約9日間。速度よりも持久力に特化した驚異的な記録です。
まとめ
世界最速の鳥は、急降下では時速389kmのハヤブサ、水平飛行では時速169kmのハリオアマツバメです。どちらも人間が作った乗り物に匹敵するか、それを超えるスピードを自らの体だけで生み出しています。
鳥の高速飛行を支えているのは、数千万年の進化が磨き上げた翼の形状、巨大な胸筋、軽量な骨格、そして高効率な呼吸システムです。これらは現代の航空工学にも応用されており、新幹線500系の先頭形状はカワセミのくちばしから、パンタグラフの形状はフクロウの羽根構造からヒントを得て設計されました。
日本でも10種中7種が観察可能です。バードウォッチングの際には、空を高速で横切る小さな影にぜひ注目してみてください。


