「立てば芍薬・座れば牡丹・歩く姿は百合の花」の意味と由来|美人を花で例える理由と3植物の見分け方・漢方薬・花言葉まで完全解説

「立てば芍薬・座れば牡丹・歩く姿は百合の花」――一度は耳にしたことがある、美しい女性をたとえる有名なことわざです。

でも、実際に芍薬・牡丹・百合の花を見分けられる人はそう多くありません。この3つの花がなぜ美人の象徴として並べられたのか、本当にそれだけの意味なのか、突き詰めてみるとかなり奥深い世界が広がっています。

このことわざには、じつは「漢方薬の使い方を表している」という説や、江戸時代に成立したという成立背景、そして3つの花が春から夏にかけて順番に咲き継いでいくという自然のリレー構造まで、いくつもの読み解きがあります。

この記事では、ことわざの意味と由来から、芍薬・牡丹・百合それぞれの植物学的特徴、見分け方の決定打、漢方薬としての使われ方、花言葉、海外の美人形容まで、徹底的に解説します。

園芸店の前を通るたびに「芍薬と牡丹、どっちがどっちだっけ?」と迷った経験、ありませんか?この記事を読めば、もう二度と迷わずに見分けられるようになります。

「立てば芍薬・座れば牡丹・歩く姿は百合の花」の意味と読み方

まずはこのことわざの基本的な意味と読み方を整理しておきましょう。

正しい読み方

たてばしゃくやく・すわればぼたん・あるくすがたはゆりのはな」と読みます。「立てば」「座れば」「歩く」という3つの所作と、それぞれに対応する花の名前を組み合わせた美しい言葉です。

ことわざ全体は七・七・七・五という都々逸(どどいつ)と同じリズムで構成されており、日本語のことわざとしてはかなり長いほうですが、口に出すとリズミカルで覚えやすい構造になっています。

ことわざ全体の意味

このことわざは、美しい女性の立ち居振る舞いを3つの花にたとえたものです。「立った姿は芍薬の花のように、座った姿は牡丹の花のように、歩く姿は百合の花のように美しい」――つまり、どのような所作をとっても絵になる完璧な美人を形容する表現として使われてきました。

現代では「美人の代名詞」として知られていますが、後述するように、本来の意味については漢方医学からの解釈もあり、単なる外見の美しさだけを指す言葉ではないとする説も根強くあります。

3つの花の役割(早見表)

所作 美人の所作のイメージ
立てば 芍薬(シャクヤク) すらりと伸びた茎の先に華やかな花を咲かせる芍薬を、立ち姿の美しさにたとえた
座れば 牡丹(ボタン) 横に枝分かれした低木に大輪の花を咲かせる牡丹を、座った姿の華やかさにたとえた
歩く姿は 百合(ユリ) しなやかな茎の先に少しうつむき加減に咲く百合を、風に揺れて歩く優美さにたとえた

3つの花はいずれも大ぶりで華やかな外見を持ち、それぞれの「所作」のイメージにぴったりはまるよう選ばれています。

ことわざの由来と起源

このことわざがいつ、誰によって作られたかは、じつははっきりしていません。古い文献に何度か原型が現れ、江戸時代後期にはすでに広まっていたと考えられています。

江戸時代の諺辞典「たとへづくし」が最古の確認例

現在確認できる最古の出典は、江戸時代後期の天明6年から寛政11年(1786年〜1799年)にかけて成立した諺語辞典「たとへづくし(譬喩尽)」とされています。ここには「立てば芍薬、居(とと)すりや牡丹、歩行(あるく)姿は百合の花」という原型に近い言葉が収録されています。

「居すりや」というのは「座っていれば」の古い言い回しで、現代語に直すとほぼ「座れば牡丹」と同じ意味です。江戸時代の終わりにはすでに、現代と同じ形で人々の口にのぼっていたわけです。

都々逸(どどいつ)との関係

このことわざのリズム「七・七・七・五」は、江戸末期に成立した都々逸(どどいつ)と同じ構造をしています。そのため「都々逸の一節ではないか」という説もありますが、都々逸の成立は天保年間(1830年代)以降とされており、「たとへづくし」のほうが時代的に古いのです。

つまり、もともと存在していた七・七・七・五のリズムを持つことわざが、後年成立した都々逸の形式に合致したため、都々逸として歌われることもあった、というのが正確なところです。

MEMO:都々逸とは
都々逸(どどいつ)は江戸時代後期に成立した俗曲の一種で、七・七・七・五の26音で恋愛や人生の機微を歌います。代表的な例として「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」(高杉晋作作と伝わる)などが知られます。

「漢方薬の使い方」を表しているという説

もうひとつ広く知られているのが、このことわざが漢方薬としての芍薬・牡丹・百合の使い方を表しているとする説です。札幌市中央区の宮の森スキンケア診療室など、医療現場からも紹介されています。

3つの花は、いずれも漢方薬の生薬として古くから利用されてきました。それぞれの薬効と、ことわざの所作との対応を整理すると以下のようになります。

所作 生薬 用いる症状
立てば(イライラ・気が立っている) 芍薬 気が高ぶった状態を鎮め、筋肉の緊張をやわらげる
座れば(じっとして血が滞る) 牡丹皮 うっ血を解消し、血流を改善する
歩く姿は(フラフラと頼りない) 百合 精神を安定させ、心身のバランスを整える

この解釈に従えば、ことわざは「美人の形容」というよりも、「女性の体調別に適した生薬を示した医学的な覚え書き」だったことになります。江戸時代の漢方医が患者にわかりやすく伝えるために作った、という説も一部にはあります。

もっとも、これはあくまで一説で、最初から美人の形容として作られたとする見方も根強くあります。両方の解釈を知っておくと、このことわざをいっそう深く味わえるはずです。

芍薬(シャクヤク)とは|立てば芍薬の主役

芍薬 ピンク色の花 ボタン科の多年草

「立てば芍薬」の主役、芍薬は中国原産のボタン科ボタン属の多年草です。学名はPaeonia lactiflora。漢字で「芍薬」と書き、英語ではChinese Peony(チャイニーズ・ピオニー)と呼ばれます。

芍薬の植物学的な特徴

項目 内容
分類 ボタン科ボタン属の多年草(草本)
原産地 中国北部・シベリア南東部・朝鮮半島
日本伝来 平安時代に薬草として伝来
草丈 60〜80cm程度
開花時期 5月〜6月(初夏)
花色 白・ピンク・赤・黄色・紫など多彩
香り あり(バラに似た甘い香り)
葉の特徴 細長く先が丸い、葉表にツヤあり
花言葉 「恥じらい」「はにかみ」「つつましさ」

芍薬の最大の特徴はすらりと真っすぐ伸びる茎です。茎の先端に大ぶりの花を一輪、ぴんと立てるように咲かせるその姿は、まさに凜とした女性の立ち姿そのもの。これが「立てば芍薬」と呼ばれる所以です。

「花相」の異名と中国での位置づけ

中国では古くから、牡丹を「花の王(花王)」、芍薬を「花の宰相(花相)」と呼び、両者は花のなかでも別格の存在として並び称されてきました。芍薬は王に次ぐ宰相、つまり王を支える優美な存在として位置づけられたわけです。

花言葉「恥じらい」の由来

芍薬の花言葉「恥じらい」「はにかみ」は、夕方になると花を閉じる性質と、ほのかにうつむきがちに咲く姿に由来します。バラのような華やかさを持ちながらも、決して主張しすぎない奥ゆかしさが、日本人の美意識にも合致してきました。

牡丹(ボタン)とは|座れば牡丹の主役

牡丹 ピンク色の大輪 ボタン科の落葉低木

「座れば牡丹」の主役、牡丹は中国原産のボタン科ボタン属の落葉低木です。学名はPaeonia suffruticosa。芍薬と同じ属でありながら、こちらは「木」、芍薬は「草」という大きな違いがあります。

牡丹の植物学的な特徴

項目 内容
分類 ボタン科ボタン属の落葉小低木(木本)
原産地 中国(西部から北部)
日本伝来 奈良時代(8世紀ごろ)に薬用植物として伝来
樹高 1〜2m程度
開花時期 4月下旬〜5月上旬(晩春)
花径 15〜20cm(時に25cm超)
香り 基本的に少ない(品種により微香)
葉の特徴 大きく広がり先が3つに分かれ、ギザギザがあり、ツヤなし
花言葉 「王者の風格」「恥じらい」「壮麗」

牡丹の特徴は横に枝分かれする低木であることです。枝先に大輪の花を一面に咲かせると、まるで王座に鎮座する高貴な人物のような風格が出ます。これが「座れば牡丹」とたとえられた理由です。

「花の王」と呼ばれる理由

中国では古来から牡丹は「百花の王」として最も尊ばれてきました。唐の都・洛陽では牡丹の名園が皇帝の庭園として整備され、上流階級のあいだで観賞されてきた歴史があります。日本でも平安時代の『枕草子』『蜻蛉日記』などに牡丹の記述があり、奈良時代に薬用として伝わった後、平安貴族の観賞用として広まりました。

花言葉「王者の風格」の由来

牡丹の花言葉「王者の風格」「壮麗」は、その堂々たる花姿に由来します。直径20cmを超える大輪を低木にずっしりと咲かせる姿は、まさに「花の王」の名にふさわしいものです。

百合(ユリ)とは|歩く姿は百合の花の主役

ヤマユリ 白い花弁に黄色の筋と赤い斑点 日本固有種

「歩く姿は百合の花」の主役、百合はユリ科ユリ属の球根植物の総称です。世界には100種以上、日本国内にも15種ほどが自生しており、その多くが園芸品種として改良されてきました。

百合の植物学的な特徴

項目 内容
分類 ユリ科ユリ属の多年草(球根植物)
原産地 北半球の温帯〜亜熱帯(日本固有種多数)
草丈 30cm〜2m(種類により大差あり)
開花時期 5月〜8月(種類により異なる)
花色 白・ピンク・黄・赤・橙など多彩
香り 強い甘い香り(特にカサブランカなど)
葉の特徴 細長い披針形、茎に互生
花言葉 「純潔」「無垢」「威厳」

百合の特徴はしなやかな茎の先にややうつむき加減に花を咲かせることです。風が吹くと茎が揺れ、花がゆらゆらと動く様子は、優雅に歩く女性のドレスのすそが揺れる姿を思わせます。これが「歩く姿は百合の花」とたとえられた由来です。

「百合」という漢字の由来

百合という漢字は、地下にある球根(鱗茎)が百枚ほどの鱗片(りんぺん)が合わさってできている形状から、中国で「百合」と表記されるようになりました。実際に百合の球根を割ってみると、白い鱗片が幾重にも折り重なっている様子がよくわかります。

一方で「ゆり」という日本語の音の語源については、大きな花が風に吹かれてゆらゆらと揺れる様子を「揺り」と表現したのが起源とする説が有力です。

日本固有のユリ6種

百合は世界中に分布していますが、日本には固有種が6種あります。江戸時代末期にドイツ人医師シーボルトが日本のユリ(カノコユリ・ヤマユリなど)の球根を持ち帰り、ヨーロッパのユリ品種改良の基礎となったことはよく知られています。日本のユリは世界の園芸文化の母なる存在なのです。

固有種 分布 特徴 花言葉
ヤマユリ 本州(近畿以北) 「ユリの王様」と呼ばれる最大級の花。神奈川県の県花 「荘厳」
ササユリ 本州(中部以西)・四国・九州 笹に似た葉。淡いピンクの清楚な花 「上品」
カノコユリ 九州・四国 花弁に鹿の子模様の斑点。シーボルトが欧州に紹介 「慈悲深さ」「上品」
テッポウユリ 九州南部・沖縄 ラッパ状の白花。横向きに咲く 「純潔」「甘美」「威厳」
オトメユリ(ヒメサユリ) 東北南部・新潟北部 淡桃色の小ぶりな花。「乙女」の名にふさわしい清楚さ 「飾らぬ美」
ウケユリ 奄美諸島 純白の大輪。準絶滅危惧種で希少 「純潔」

牡丹と芍薬の決定的な違い7項目【見分け方完全ガイド】

牡丹と芍薬は同じボタン科ボタン属に属し、花だけを見るとほとんど見分けがつかないほど似ています。しかし、よく観察すると7つの決定的な違いがあります。これさえ覚えれば、もう迷うことはありません。

項目 牡丹 芍薬
1. 木か草か 落葉低木(木本)。冬は枝だけが残る 多年草(草本)。冬は地上部が枯れる
2. 葉の形 大きく広がり、先が3つに分かれてギザギザ 細長く先が丸く、ギザギザがない
3. 葉のツヤ ツヤがなくマット ツヤがあり光沢がある
4. 開花時期 4月下旬〜5月上旬(晩春) 5月〜6月(初夏)
5. 蕾の形 先端が尖った卵形 球形(まるい)
6. 香り 基本的になし(品種により微香) あり(バラのような甘い香り)
7. 散り方 花弁が1枚ずつはらはらと散る 花の頭ごとボトッと落ちる

もっとも見分けやすいのは葉の形です。葉に近づいて、先がギザギザしていればおそらく牡丹、丸くてツヤがあれば芍薬と判断できます。冬場であれば、地上に枝が残っているか(牡丹)、枯れて何もないか(芍薬)でも一目瞭然です。

MEMO:「立てば芍薬・座れば牡丹」が逆だと思っていた人へ
芍薬は草本でまっすぐ立つ → 立てば。牡丹は木本で横に広がる → 座れば。植物の生育形態が、所作のイメージとぴったり一致しているのです。一度この対応を理解すれば、もう順番を間違えることはありません。

芍薬・牡丹・百合の総合比較表

3つの花のスペックをまとめて一覧できる総合比較表です。会話のネタや観光ガイドとしても使えます。

項目 芍薬 牡丹 百合
科属 ボタン科ボタン属 ボタン科ボタン属 ユリ科ユリ属
形態 多年草 落葉低木 球根植物
原産地 中国北部・シベリア 中国(西部〜北部) 世界各地・日本固有種多数
日本伝来 平安時代 奈良時代(8世紀) 固有種は日本古来
草丈/樹高 60〜80cm 1〜2m 30cm〜2m
開花期 5〜6月 4月下旬〜5月上旬 5〜8月
花径 10〜15cm 15〜25cm 10〜25cm
香り 強い(バラに似る) 少ない 強い(種類による)
花言葉 恥じらい・はにかみ 王者の風格・壮麗 純潔・無垢・威厳
異名 花相(中国) 花王(中国) 立花の女王(西洋)
所作の対応 立てば 座れば 歩く姿は

改めて並べて見ると、芍薬と牡丹は植物としても兄弟みたいに似ているけれど、所作のイメージも「立つ」と「座る」できれいに対比になっているのが面白いですよね。

漢方薬としての芍薬・牡丹・百合

3つの花は、すべて古くから漢方薬として用いられてきました。それぞれが配合される代表的な漢方処方を見ると、ことわざの「漢方薬説」がより深く理解できます。

芍薬を含む代表的な漢方薬

漢方薬名 主な効能 備考
芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう) こむらがえり、急な筋肉のけいれん、腹痛、腰痛 芍薬と甘草の2種だけのシンプルな処方。即効性あり
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) 冷え性、貧血、生理不順、むくみ 女性向けの代表的処方
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう) 腹部の張り、しぶり腹 消化器系のトラブルに

芍薬の根(生薬名「芍薬」)には鎮痛・鎮痙作用があり、筋肉の急なけいれんを和らげる働きがあります。「立てば(イライラして気が立っている)」状態に使う、ということわざの解釈とも符合します。

牡丹皮を含む代表的な漢方薬

漢方薬名 主な効能 備考
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) 瘀血(おけつ)改善、月経不順、のぼせ、冷え 三大婦人薬のひとつ。牡丹皮・芍薬・桃仁・桂枝・茯苓の5生薬
大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう) 下腹部の炎症、便秘 消炎効果が高い処方
八味地黄丸(はちみじおうがん) 下半身の衰え、頻尿、腰痛 高齢者の体力回復に

牡丹の根の皮(生薬名「牡丹皮(ぼたんぴ)」)は血行促進・瘀血解消の働きがあり、血流が滞った状態を改善します。「座れば(じっとしていて血が滞っている)」状態に使うと解釈すれば、ことわざの解釈ともピタリ重なります。

百合を用いる漢方薬

百合の鱗茎(生薬名「百合(びゃくごう)」)も古くから漢方で用いられてきました。代表的な処方に百合固金湯(びゃくごうこきんとう)があり、空咳や精神不安、不眠などに用いられます。

「歩く姿は(フラフラと頼りなく歩く)」状態は精神衰弱や心身症をイメージしたもので、百合の精神安定作用と結びつくとされます。

3生薬の効能まとめ

生薬名 由来 主な薬効 ことわざとの対応
芍薬 シャクヤクの根 鎮痛・鎮痙・補血 立てば(気が立っている)
牡丹皮 ボタンの根の皮 活血・消炎・解熱 座れば(血が滞っている)
百合 ヤマユリなどの鱗茎 潤肺・止咳・安神 歩く姿は(精神不安定)

こうして整理してみると、3つの生薬の薬効と「立つ・座る・歩く」という所作の意味が驚くほどきれいに対応していることがわかります。ことわざは単なる美人の形容ではなく、漢方医学の知恵を凝縮した「生薬のおぼえうた」だったのかもしれません。

春から夏へ|3つの花が咲き継ぐリレー

もうひとつ、このことわざに込められた美しさの理由として「3つの花が春から夏にかけてリレーするように順番に咲き継ぐ」という自然のドラマがあります。

時期 主役 季節感
4月下旬〜5月上旬 牡丹 晩春。ゴールデンウィーク前後の華やぎ
5月中旬〜6月 芍薬 初夏。梅雨入り前の爽やかな空気
6月下旬〜8月 百合(ヤマユリなど) 盛夏。山野が緑に包まれる季節

牡丹が散った頃に芍薬が咲き、芍薬が終わると百合が咲き始める――ことわざが指す3つの花は、ちょうど一花ずつバトンを渡しながら春から夏を彩るリレーランナーなのです。江戸の人々は、この自然の流れを観察したうえで、3つの花を並べたのでしょう。

ちなみに「菖蒲湯はなぜ端午の節句に入る?菖蒲・花菖蒲・アヤメ・カキツバタ4種の見分け方と由来・効能・入り方を完全網羅」でも書きましたが、5月から6月にかけて咲く花は本当に多くて、見分けに苦労する季節でもあります。

3つの花の花言葉まとめ

美人の象徴として並べられた3つの花ですが、それぞれの花言葉を見ると、また違った魅力が浮かび上がってきます。

主な花言葉 色別の花言葉
芍薬 恥じらい、はにかみ、つつましさ、清浄 赤=誠実、ピンク=はにかみ、白=幸せな結婚
牡丹 王者の風格、壮麗、富貴、恥じらい 赤=富貴、ピンク=高貴、白=清純
百合 純潔、無垢、威厳、純愛 白=純潔、ピンク=虚栄心、黄=陽気、橙=華麗

3つに共通するのは「気品」と「奥ゆかしさ」です。派手さや強さではなく、静かに佇んでいるだけで美しいという日本的な美意識が、花言葉にも反映されています。

海外の「美人を花にたとえる」ことわざ

美しい女性を花にたとえる表現は、日本だけのものではありません。世界各地に同じような比喩が存在しています。

地域・国 表現 意味
中国(唐) 解語の花(かいごのはな) 玄宗皇帝が楊貴妃の美しさを評した言葉。「言葉を解する花」=美人
中国 沈魚落雁・閉月羞花(ちんぎょらくがん・へいげつしゅうか) 魚も沈み雁も落ち、月も隠れ花も恥じらうほどの美人。中国四大美人を形容
フランス une beauté en fleur(うね・ぼーて・あん・ふるーる) 「花のような美しさ」。日常会話でも使われる表現
英語圏 flower of womanhood 「女性らしさの花」=最も美しい盛りの女性
英語圏 English Rose 「イングリッシュ・ローズ」=色白で清楚な英国美人

とくに中国の「解語の花」は唐の玄宗皇帝が楊貴妃に向けて言ったとされる言葉で、日本にも伝わって「美人=花」のイメージを広める源流のひとつになりました。日本のことわざ「立てば芍薬…」も、こうしたアジア共通の美意識の流れの中に位置づけることができます。

3つの花の名所|日本全国おすすめスポット

このことわざを知ったら、ぜひ実物を見に出かけたくなるはずです。3つの花それぞれを楽しめる、全国の名所をピックアップしました。

牡丹の名所

名所 所在地 見頃
長谷寺(はせでら) 奈良県桜井市 4月下旬〜5月上旬。「牡丹の御寺」として有名
東光院 萩の寺 大阪府豊中市 4月下旬〜5月。寒牡丹も有名
須賀川牡丹園 福島県須賀川市 4月下旬〜5月。国の名勝。約290種7000株
由志園 島根県松江市 4月下旬〜5月上旬。日本最大級の牡丹園

芍薬の名所

名所 所在地 見頃
町田ぼたん園 東京都町田市 5月中旬。牡丹に続いて芍薬も楽しめる
ヤマザキ動物看護大学 牧場農場 長野県佐久市 5月下旬〜6月初旬。芍薬畑が広がる
太田ぼたん芍薬園 群馬県太田市 5月。約350品種
富山県中央植物園 富山県富山市 5月。芍薬コレクション展示

百合の名所

名所 所在地 見頃
ゆりの里公園 福井県坂井市 6月。15万球のユリが咲き誇る
蛇の鼻(じゃのはな)遊楽園 福島県本宮市 6月下旬〜7月上旬。ヤマユリの群生地
うつのみや遺跡の広場 栃木県宇都宮市 7月。ヤマユリの自生地として有名
箱根湿生花園 神奈川県箱根町 6〜8月。多種のユリを観察可能

3つの花を順番に見に行くと、4月下旬から8月までほぼ毎月、どこかで「ことわざの主役」と出会うことができます。日本の春から夏は、まさにこのことわざを体感できる季節なのです。

ちょっと深い話|3つの花にまつわる豆知識

記事を締める前に、雑学として知っておくと話のタネになる豆知識を3つ紹介します。

豆知識1:島根県の県花は牡丹

島根県の県花は牡丹です。松江市八束町の大根島は日本最大級の牡丹の産地として知られ、年間を通して牡丹の苗木が出荷されています。江戸時代から続く伝統産業で、現在も牡丹は地域経済を支える重要な作物となっています。

豆知識2:神奈川県の県花は山百合(ヤマユリ)

神奈川県の県花はヤマユリです。鎌倉から相模原・小田原にかけての山地に自生し、夏になると山道を歩いていると突然現れる白く大きな花は、まさに「ユリの王様」の名に恥じない存在感を放ちます。県民投票によって1951年に選定された歴史ある県花です。

豆知識3:芍薬は「シェイクスピアの花」でもある

芍薬は英語でPeony(ピオニー)と呼ばれ、ヨーロッパでも古くから愛されてきた花です。シェイクスピアの戯曲『テンペスト』にも芍薬を意味する「ピオニー」が登場し、ヨーロッパの古典文学にも登場します。日本のことわざと同じく、洋の東西を問わず「気品ある美しさ」の象徴として扱われてきたわけです。

ことわざにまつわるよくある質問Q&A

Q1. 「立てば芍薬・座れば牡丹」の語順を逆に覚えてしまうのですが、覚え方のコツはありますか?

A. 植物のかたちを思い浮かべると一発です。芍薬は「草」でまっすぐ伸びる→「立てば」。牡丹は「木」で横に広がる→「座れば」。植物の生育形態と所作が一致しているのが、このことわざの巧みなところです。

Q2. ことわざの作者は誰ですか?

A. 残念ながら作者は不詳です。江戸時代後期の諺辞典「たとへづくし」(1786〜1799年成立)が現在確認できる最古の文献ですが、それ以前から人々の口承で広まっていた可能性が高いとされています。

Q3. 男性に対して使ってもよいですか?

A. 本来は美しい女性を形容する言葉として使われてきましたが、近年では宝塚歌劇団の男役スターや歌舞伎の女形などを称える際にも用いられることがあります。所作の美しさを表す表現として、性別を問わず使う例も増えています。

Q4. 芍薬と牡丹を見分けるいちばん簡単な方法は?

A. 葉を見るのが一番確実です。葉の先がギザギザしていてツヤがなければ牡丹、丸くてツヤがあれば芍薬です。花だけだとほとんど区別がつきません。冬場なら、枝が残っているのが牡丹、地上部が枯れているのが芍薬です。

Q5. このことわざは漢方薬の使い方を表しているという説は本当ですか?

A. 諸説ある中の有力な一説です。芍薬は鎮痙、牡丹皮は活血、百合は安神という3つの生薬の薬効が、それぞれ「気が立っている・血が滞っている・精神が不安定」という3つの状態にぴったり対応していることから、漢方医が処方を覚えるための歌として作られたとする説です。確たる文献的裏付けはありませんが、解釈としては説得力があります。

Q6. 都々逸との違いは何ですか?

A. リズム(七・七・七・五)は同じですが、都々逸は江戸末期に成立した俗曲のジャンルで、このことわざのほうが時代的に古いです。都々逸の形式に合致しているため都々逸として歌われることもありましたが、起源は別と考えるのが自然です。

Q7. 百合の漢字はなぜ「百」と「合」なのですか?

A. 百合の球根(鱗茎)が、白い鱗片を百枚ほど重ね合わせたような構造をしているからです。実際に球根を割ってみると、何重にも重なった鱗片を確認できます。「百枚が合わさっている」から「百合」と書くのです。

まとめ|花を知ればことわざが立体的に見えてくる

「立てば芍薬・座れば牡丹・歩く姿は百合の花」――子どもの頃から耳にしてきたこのことわざが、実は植物学・漢方医学・文学・園芸文化のすべてが凝縮された、想像以上に深い言葉だということが見えてきたのではないでしょうか。

ポイントを最後に整理しておきます。

  • 意味:美しい女性の立つ・座る・歩く所作をそれぞれ芍薬・牡丹・百合にたとえた表現
  • 起源:江戸時代後期1786〜1799年の諺辞典「たとへづくし」が現存最古の出典
  • 形式:七・七・七・五の都々逸と同じリズムだが、都々逸より時代は古い
  • もうひとつの解釈:芍薬・牡丹皮・百合という3つの生薬の使い方を歌ったとする漢方薬説
  • 植物学:芍薬は草本・芍薬は木本・百合は球根植物。葉の形と冬の姿で見分けがつく
  • 季節のリレー:4月下旬の牡丹→5〜6月の芍薬→6〜8月の百合と咲き継ぐ

これからの季節、街中や園芸店、植物園で芍薬や牡丹、百合を見かける機会が増えるはずです。ことわざの言葉と実物の花を結びつけながら観賞すれば、いつもの景色がきっと違って見えてくるはずです。

関連記事もぜひあわせてどうぞ。

今年の連休は牡丹園、6月は芍薬畑、夏は百合園……と「3花めぐり」してみるのも楽しい計画になりそうですね。ことわざを片手に出かければ、花を見る目がきっと変わります。

参考文献